メタバースというコンピュータとコミュニケーションの進化について、導入事例・製品サービス・技術・研究の変遷から2022年最新動向まで、豊富な画像でわかりやすく解説している本です。
モバイルコンピューティングの次に誕生するコンピュータとコミュニケーションの姿を知りたい人、メタバースのビジネス・技術開発の最新動向を知りたい人、に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
著者紹介
西田 宗千佳(にしだ・むねちか)
フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。(著者紹介より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
メタバースとは、「コンピュータとコミュニケーションに関する進化の帰結であり、過去から続くアプローチ」である。
今から5年の間に変化が生まれ、10年後までには、メタバースが本格的なビジネスとして立ち上がるだろう。
この本で説明するのは、「メタバースにとっての1990年代」がどのように立ちあがろうとしているかだ。そしてそこから、メタバースが生活に必須のものになる次の時期をどう迎えるのかを想像していただけたら、と思う。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめに
- Part 1 現状
- 第1章 可能性が広がりつつあるメタバース
- 第2章 デジタルツインとメタバース
- Part 2 拡散
- 第3章 ゲームから始まる「原初的メタバース」
- 第4章 教育やビジネスに広がるメタバース
- Part 3 課題(1)
- 第5章 「自分の周囲5m」のジレンマ
- 第6章 視覚以外にも広がるVR
- Part 4 課題(2)
- 第7章 ネットの向こうを「身近」にするために
- 第8章 メタバースを前提とした社会構造に必要なもの
- Part 5 未来
- 第9章 それでもメタバースはやってくる
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
学校ならではのコミュニケーションをネットでも
1つ目に注目した点は「第4章 教育やビジネスに広がるメタバース」に書かれている「学校ならではのコミュニケーションをネットでも」です。
著者は、日本国内でメタバースを活用している学校として、学校法人・角川ドワンゴ学園N高等学校およびS高等学校、通称「N高」「S高」を紹介しています。
- 同校は、2021年春から「普通科プレミアム」コースに入った生徒全員にVR用HMD・Meta Quest 2を貸与し、日々の授業をメタバース内で行なっている。
- N高・S高で使われているメタバースの中核には、メタバース関連企業「バーチャルキャスト」の技術が使われている。
同校理事の川上量生氏は、メタバースでの授業の効果を「コミュニケーション」にも置いている、と述べ、以下のように説明しています。
N高・S高でのメタバース授業では、「他の生徒」が隣にいる。冷静に考えると、同校は通信制なので、皆が同じ時間に授業を受けるわけではない。なぜ生徒たちがいるのか?
実は表示されているのは、過去にその授業を受けた生徒の動きなのだ。だから話しかけても答えるわけではない。しかし、一緒に授業を受ける生徒がなにをどう見ているかが感じられることで、非同期かつ緩やかな、言語だけに依存しないコミュニケーションが実現されている。
西田 宗千佳. メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略 (Japanese Edition) (p.108). Kindle 版.
Metaが狙う「現実と区別がつかない」HMD技術
2つ目に注目した点は「第5章 「自分の周囲5m」のジレンマ」に書かれている「Metaが狙う『現実と区別がつかない』HMD技術」です。
著者は、2022年6月、Meta社が研究機関である「Reality Labs」内で研究を進めているHMD技術を一気に公開したことを紹介しています。
その場で24台以上の試作デバイスを公開し、「ビジュアル・チューリング・テスト」を行なっている、とマーク・ザッカーバーグCEOが説明したそうです。
チューリング・テストとはAI研究者であるアラン・チューリングが提唱したテストで、相手がAIか人間かわからない状態で会話をし、人間かAIかの区別がつかなければ、そのAIは「十分に人間的である」とみなせるのではないか…という、ある種の思考実験でもある、と解説しています。
そして著者はMeta社のビジュアル・チューリング・テストについて、以下のように解説しています。
Metaが考えている「ビジュアル・チューリング・テスト」は、それを人間が体験する視覚に置き換えたものといえる。実際に人間が目で見たものとディスプレイ越しに見たものを比較し、「差がほとんどない」と人間に感じられれば、それは現実を見るのと極めて近いはず。VRなどのHMD向けとして理想的なのでは……という発想だ。
RealityLabsのチーフ・サイエンティストであるマイケル・エイブラッシュ氏は、「現状、どんなVR技術も、ビジュアル・チューリング・テストをパスすることはできていない」と説明する。
西田 宗千佳. メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略 (Japanese Edition) (p.144). Kindle 版.
写真から3Dデータを作る「フォトグラメトリ」
3つ目に注目した点は「第8章 メタバースを前提とした社会構造に必要なもの」に書かれている「写真から3Dデータを作る「フォトグラメトリ」」です。
著者は「メタバースの最大の課題は、世界を構築するためのデータをどう作るのか、ということだ。」と述べ、データを簡単に素早く作る方法として「フォトグラメトリ」を説明しています。
- フォトグラメトリは、物体の周囲を写真に撮り、写真の位置と画像の内容、影から3Dデータを作りだす手法だ。
- この方法は、スマホがあれば誰でもほんの数分でできてしまう。
著者は「このくらい簡単にデータ化できるようになるということは、日常の中で目にしたものなどが3Dデータで残りやすくなる」と述べ、現在スマホで写真をシェアするように、メタバースでフォトグラメトリが使われる状況を以下のように説明しています。
風景の3D化がスマホで行われるようになれば、同じことが起きるだろう。さすがに写真ほど気軽に、というわけにはいかないだろうが、旅行の記念や食べた食事などを3Dで残す、ということは増えてくる。そうしたものは当然、メタバースなどで共有され、皆が日常的に目にするものになっていくはずだ。
西田 宗千佳. メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略 (Japanese Edition) (p.215). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
Impress Watchなどで製品やサービスについて分析した記事を書かれている著者が、メタバースについて書いた本ということで楽しみにして読みました。
まず印象的だったのは、著者が本の冒頭で「メタバースとは何か?」という疑問(本書のテーマ)に対して「コンピュータとコミュニケーションに関する進化の帰結であり、過去から続くアプローチ、である。」と述べている点です。
読み終えて振り返ると、この本は人々が60年前から技術革新をつづけながら追い求めている夢のカタチ(メタバース)に向かって、2022年時点でどこまで成し遂げてきて、課題として残っていることを示している「歴史書」のように感じました。
過去の事例だけでなく最新の情報についても記述されている点はうれしい点です。たとえば、この本の発売日は2022年12月8日ですが、直近の2022年10月に発表された「Meta Quest Pro」や、Meta社とMicrosoft社との提携の話まで、解説と写真を加えて記述されています。
第5章の中で「HMDはどんな仕組みか」を解説しており、HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)は、「解像感」を満足させ、小型・軽量にすることが重要として、図や写真をまじえて解像感の説明やマイクロOLEDの開発状況の解説があり、Meta Quest2との違いなどHMDについて理解が深まりました。
メタバースというとVR/ARだけ登場する場合が多いですが、この本では「自分より5mから向こう」の話として、「VPS(ビジュアル・ポジショニング・システム)」や「バーチャルヒューマン」、「AIアシスタント」、「MEC(モバイルエッジコンピューティング)」など、最新技術の解説もあり知識が増えました。
新しいコンピュータとコミュニケーションの製品・サービスや技術を知りたい人、メタバースのビジネス・技術の変遷と2022年最新動向を知りたい人、におすすめする本です。
口コミ
書評記事
【書評:1945冊目】メタバース×ビジネス革命(西田宗千佳)
参考文献
この本の参考文献に記載されている本や関連する本を紹介します。
ザ・メタバース 世界を創り変えしもの:マシュー・ボール(著)
10年後以降に向かった「理想のメタバースとは何か?」に興味がある人におすすめする本です。
この本の注目点・感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界:バーチャル美少女ねむ(著)
現在のメタバースは具体的にどのようなものなのか、原住民(実際に使っている人たち)のことを知りたい人おすすめする本です。
この本の注目点・感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
メタバースとWeb3:國光宏尚(著)
メタバースとNFT・Web3の関連についてもっと知りたい人におすすめする本です。
この本の注目点・感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
メタバースがわかる本おすすめ
VRがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、などを紹介しました。
メタバースというコンピュータとコミュニケーションの進化について、導入事例・製品サービス・技術・研究の変遷から2022年最新動向まで、豊富な画像でわかりやすく解説している本です。
モバイルコンピューティングの次に誕生するコンピュータとコミュニケーションの姿を知りたい人、メタバースのビジネス・技術開発の最新動向を知りたい人、に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- はじめに
- Part 1 現状
- 第1章 可能性が広がりつつあるメタバース
- Facebookから「Meta」へ
- メタバースを支える「バーチャルリアリティ」
- Oculusという「革命」
- 巨額買収で時間を買ったFacebook
- VR≠メタバース
- 赤字上等、ゲーム機から攻めたMeta
- SNSの終わりに備えてビジネスモデルを変更
- 追いかける中国ByteDance、静かに待つアップル
- ソニーも「メタバース・ライブ」から可能性を見出す
- 第2章 デジタルツインとメタバース
- 工場を「デジタル技術」で作り直す
- デジタルツインを活用するBMW
- 「第一線」の働き方改革にARを活用
- 国交相が「デジタルツイン」のために国土データを整備
- 海外にも負けず、日本も「都市のデジタルツイン」作りを目指す
- 第1章 可能性が広がりつつあるメタバース
- Part 2 拡散
- 第3章 ゲームから始まる「原初的メタバース」
- FortniteとRoblox
- プラットフォーム化するネットゲーム
- 「コミュニティ」をめぐって大型買収も
- 拡大する「原初的メタバース」
- 「アバターになる」ことの意味とは
- 「原初的メタバース」からどうやって収益を得るのか
- オンラインイベントの価値とはなにか
- プラットフォーマーの優越的地位と「NFT」
- NFTの持つ可能性とはなにか
- NFTはメタバースに「必須」ではない
- 第4章 教育やビジネスに広がるメタバース
- 危険な研修をVRで代替
- 学校をメタバースに持ち込む「N高」「S高」
- 学校ならではのコミュニケーションをネットでも
- 場所によって「集中」が促されることも
- 毎日使うビジネスツールは大きな市場
- 普及には「毎日使う理由」が必要
- メタバースなら働く場所は「いくつでも持てる」
- 自分だけの「精神と時の部屋」を持つ
- 技術が進化すれば課題の多くは解決
- 第3章 ゲームから始まる「原初的メタバース」
- Part 3 課題(1)
- 第5章 「自分の周囲5m」のジレンマ
- 自分の「周囲5m」と「5mから向こう」
- VR/AR機器につきまとう「移動のジレンマ」
- Metaが狙う「現実と区別がつかない」HMD技術
- HMDはどんな仕組みなのか
- マイクロOLEDで変わるHMDの「解像感」
- 薄く・小さい「快適なHMD」を目指して
- 課題は「バッテリーなどを含めた重さ」
- ゲームエンジンが世界を席巻する
- ITプラットフォーマーも基本技術を開発
- 第6章 視覚以外にも広がるVR
- 実用性が高い「音のAR」
- 空間オーディオで「音が出る方向」を把握
- IT大手が目指す「アンビエントコンピューティング」
- 第5章 「自分の周囲5m」のジレンマ
- Part 4 課題(2)
- 第7章 ネットの向こうを「身近」にするために
- 「ネットの向こう」にも課題は山積
- 自分がいる場所を知る「VPS」とはなにか
- アップルもナイアンティックも「VPS」
- 各社が「時代の変化」を嗅ぎ取った?
- 「遅延」はコミュニケーションの敵
- 5Gの真価は「低遅延」にある
- 切り札は「モバイルエッジコンピューティング」
- 第8章 メタバースを前提とした社会構造に必要なもの
- メタバースの「データづくり」には工夫が必要
- 写真から3Dデータを作る「フォトグラメトリ」
- アバター生成を技術で効率化
- メタバースでは「AIの支援」が必須に
- メタバース用AIアシスタント「Project CAIRaoke」
- プライバシーとメタバース
- データを残さない「オンデバイスAI」の時代へ
- 第7章 ネットの向こうを「身近」にするために
- Part 5 未来
- 第9章 それでもメタバースはやってくる
- 人のいないメタバース
- Metaも強い非難にさらされている
- ゲームが持つホスピタリティと吸引力
- こだわりが消費者を「ゲーム世界への聖地巡礼」に引き込む
- メタバースへの興味は「メタバースの外側」で生まれる
- メタバースが生活に定着する2つのシナリオ
- 「作ること」で「儲かる」世界へ
- 相互互換のための業界団体もスタート
- 平面で見るパラダイムから次の世界へ
- 第9章 それでもメタバースはやってくる