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【注目点・感想】現代思想2022年9月号 特集=メタバース ―人工知能・仮想通貨・VTuber…進化する仮想空間の未来―

2022年9月17日

本「現代思想2022年9月号特集メタバース」アイキャッチ画像

メタバースは私たちの社会、意識、あるいは身体のありようをいかに変容させうるのだろうか?について、技術文化史・美術史・人類学・倫理学・哲学といった多様な寄稿者がメタバースの思想圏を描き出している本です。

近年出版されたメタバース関連書籍を数冊読んだことがある人で、もっと深く知りたい・考えたいと思っている人に一読をおすすめします。

本の概要注目点感想・口コミ・書評記事参考文献、を紹介します。

本の概要

書誌情報

ドミニク・チェン, 安田登, 三宅陽一郎, 木澤佐登志, 郡司ペギオ幸夫, 仁木稔(著)青土社(出版社)2022/8/29(発売日)
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論考タイトルと寄稿者

この本に掲載されている論考タイトルと寄稿者を引用して紹介します。

タイトル寄稿者
未来の身体論対話ドミニク チェン(情報学研究)
安田 登(能楽師)
センス・オブ・ノンセンス545古川 タク
メタバースによる人の意識の変容三宅 陽一郎(ゲームAI研究者)
源流から考える「メタバース」喜多 千草(技術文化史)
物質となるメタバースと、その不自由ーーメタバース内外を行き来する身体と空間から考えるジェンダーと政治近藤 銀河(美術史)
要約「バ美肉 バーチャルパフォーマンスの背後にあるものーーテクノロジーと日本演劇を通じたジェンダー規範への対抗」リュドミラ・ブレディキナ(人類学/ジェンダー・セクシャリティ/アバター研究)
訳=池山 草馬(文化人類学)
メタファーとしての美少女ーーアニメーション的な誤配によるジェンダー・トラブル松浦 優(社会学/セクシュアリティ研究)
メタバースは「いき」か?ーーやましさの美学難波優輝(現代美学と批評)
メタバースでアバターはいかにして充実した生を送りうるか長門裕介(倫理学)
メタヴァースとヴァーチャル社会大黒岳彦(哲学)
希少性と排除にもとづくデジタル所有権vsメタバース斎藤賢爾(インターネットと社会)
宇宙の修理とメンテナンスーーメタバースは私たちの生きる宇宙になり得るのか吉田健彦(環境哲学/メディア論)
パリに行きたいーーあるいは”ここ”からは出られません仁木 稔(小説家)
1984年のメタバース木澤佐登志(文筆家)
「電脳空間」のノスタルジアーー仮想現実はどのように語られたか加藤夢三(日本近代文学)
文化技術とコンピュータ梅田拓也(思想史/メディア研究)
「以前、確かにそのゲームの世界に自分が住んでいた」という記憶はどこから来るのかーーメタバース=宙吊りにされた意識モデル郡司ぺギオ幸夫(生命基礎論)
メタバース・メディア論ーー情報の宇宙のエコロジーとその数理・倫理丸山善宏(万物の理論としての情報学)
現前世界としてのメタバース出口康夫(哲学)

注目点

この本を読んで注目した点を3つ紹介します。

メタバースは意識と身体を変えるのか

1つ目に注目した点は「未来の身体論対話:ドミニク・チェン+安田 登」に書かれている「メタバースは意識と身体を変えるのか」です。

安田登氏は、「身体」とは、また別の意味で「身体性」という言葉を使っており、「これからの組織は身体ではなく身体性のメタファーとしての組織になるべきではないかと思っていて……。具体的に念頭にあるのは、鳥や魚の群れのように『身体』とは言えないけれど身体的機能があるようなものですね。そちらにシフトしていったほうがいいのではないか……という意味で、身体と身体性は僕のなかでは区別されています。」と述べています。

そしてメタバースのアバターについて以下のように述べています。

皮膚の内側にあるのがいままでのフィジカルなボディだとした場合、メタバースにおけるデジタルのボディはそれに捉われる必要はなく、もっと広げられるはずです。にもかかわらず現在のアバターはフィジカルな身体をそのままメタファーにしていますよね。そこが僕としてはつまらない。本当は自分が宇宙空間や海になるということがあってもいいと思うんです。(中略)

それと同じように、人間以外のいろいろなものと一体化できるVRを作りたいと考えていました。

ドミニク・チェン,安田登,三宅陽一郎,木澤佐登志,郡司ペギオ幸夫,仁木稔. 現代思想2022年9月号 特集=メタバース人工知能・仮想通貨・VTuber進化する仮想空間の未来 (Japanese Edition) (p.16). Kindle 版.

これに対してドミニク・チェン氏は、世界的に有名な映像作家デヴィット・オライリーが作った『エヴリシング」(2017年)というゲームをあげ、「これは人間だけがいない世界に降り立って人間以外のあらゆるものになれるゲームで、例えば最初は草の視点になる。」と述べています。

意識の変容(Ⅲ)集合知性としてのメタバース

2つ目に注目した点は「メタバースによる人の意識の変容:三宅陽一郎」に書かれている「意識の変容(Ⅲ)集合知性としてのメタバース」です。

著者は「メタバースとは人の世界の拡張である。そして、拡張された世界は人の意識を変えていく。それは三つの段階からなる。」と述べています。

  • 意識の変容(Ⅰ)人がデジタル空間を獲得する
  • 意識の変容(Ⅱ)物理空間の情報を集約したメタバース空間によって引き起こされる
  • 意識の変容(Ⅲ)メタバース内での人の知能が結び合わされ、一つの集合知性へと変容する

「意識の変容(Ⅲ)集合知性としてのメタバース」について以下のように解説しています。

具体的には、時間と空間を超えたユーザー同士の討論、巨大なシミュレーションによる未来予測、エキスパートによって蓄積された膨大な知識、そして、メタバースから現実空間への作用の仕組み、この四つの柱が集合知性を支える。

メタバースと物理世界の虚実を問うならば、メタバースが虚で、物理世界が実、だと答えるのが普通だろう。ところが現実の情報を集積し続けるメタバースは、次第に現実以上の重みを持ち始める。現実の情報が集まるメタバースから、世界をコントロールすることが自然に思えてくる。また、メタバースのシミュレーションによってある程度、先のことが予測できる。メタバースは現実以上に現実を見渡すことができる空間である。

ドミニク・チェン,安田登,三宅陽一郎,木澤佐登志,郡司ペギオ幸夫,仁木稔. 現代思想2022年9月号 特集=メタバース人工知能・仮想通貨・VTuber進化する仮想空間の未来 (Japanese Edition) (pp.56-57). Kindle 版.

強いメタヴァースと弱いメタヴァース

3つ目に注目した点は「メタヴァースとヴァーチャル社会:大黒岳彦」に書かれている「強いメタヴァースと弱いメタヴァース」です。

著者は、「決して筆者の恣意的な選択ではなく、様々な論者のメタヴァース規定から抽出したもの」として、「メタヴァースの定義に際しては、以下に挙げる三つのメルクマールが枢要をなしている。」と述べています。

  • XR――現実の知覚風景を基礎としてそこに人工的情報を重ね描く「AR」(Augmented Reality)、知覚風景とは排他的な光景を人工的に創造する「VR」(Virtual Reality)、知覚風景と人工的情報を共に等価な素材とみなし、新たな現実を創設する「MR」(Mixed Reality)の総称――をメタヴァースを構成する必須要素とみなすかどうか。
  • XRをメタヴァースに必須の構成要素とみなすとして、ではARやMRが依拠する知覚世界の優位を許容するのか、それとも知覚世界と排他的な関係を構成するVRのみをメタヴァースを構成する技術と認めるのか。
  • メタヴァースが、NFTやWeb3の稼働原理であるブロックチェーンを包含するとみるかどうか。

そして著者は、メタバースの3つの系譜と重視することを以下のように説明しています。

「メタヴァースとは、(1)VR、(2)SNS、(3)暗号経済(ブロックチェーン)という都合三つの系譜の輻輳点に成立をみた思想である。」

「『SNS→メタヴァース』論者はコミュニケーション重視、『ブロックチェーン→メタヴァース』論者は経済重視、『VR→メタヴァース』論者はテクノロジー重視の傾向がある。」

そして著者は、「強いメタヴァース」と「弱いメタヴァース」を以下のように定義しています。

XRの中でもVRのみをメタヴァースの構成要素として認める立場を〈強いメタヴァース〉(strong Metaverse)と、対してARやMRをもメタヴァースの構成要件として認める、場合によってはXRそのものをメタヴァース構成にとっての不可欠の要素として必ずしも要求しない立場を〈弱いメタヴァース〉(weak Metaverse)と呼ぶことにする。

更に言えば、〈強いメタヴァース〉陣営の内部においても、「VR→メタヴァース」論者が空間やオブジェクトの3D性に拘泥わるのに対し「SNS→メタヴァース」論者は2DオブジェクトをもVRに含める、というVRの解釈を巡る立場の相違が認められる。

また、〈強いメタヴァース〉論者の中には、事実の問題としては兎も角、原理的な次元でメタヴァースとブロックチェーン(したがって、NFTやWeb3)の相互独立性を、つまりは両者の無関係を強力に主張する立場が存在することを付言しておく。

ドミニク・チェン,安田登,三宅陽一郎,木澤佐登志,郡司ペギオ幸夫,仁木稔. 現代思想2022年9月号 特集=メタバース人工知能・仮想通貨・VTuber進化する仮想空間の未来 (Japanese Edition) (p.178). Kindle 版.

感想・口コミ・書評記事

感想

メタバースを題材として、とても深い内容の論考が約20本あり、一通り読み終えるだけでもまる2日間かかるほど充実した本であった。

寄稿者は、1年以内のメタバース動向だけでなく、それに至る系譜であるVR(仮想現実)やソーシャルメディア、社会学などについても見識を持った上で、客観的にメタバースの過去から未来を論考しているので、メタバースについて様々な視点から深く考えることができた。

いずれの論考も平易な文章というわけではないが、注記や参考文献がしっかり記載されているので、特に興味を持った論考については参考文献を読んだあとに、再度読み直して理解を深めていきたいと感じた。

メタバースにおけるブロックチェーンの役割について、「希少性と排除にもとづくデジタル所有権vsメタバース:斎藤賢爾(インターネットと社会)」で問われている「現状の『リアル』な社会には所有や貨幣の概念があるからといって、メタバースにも所有や貨幣は必要だろうか。」に対する考察には改めて考えさせられた。

近年出版されたメタバース関連書籍を数冊読んだことがある人で、もっと深く知りたい・考えたいと思っている人に一読をおすすめします。

ドミニク・チェン, 安田登, 三宅陽一郎, 木澤佐登志, 郡司ペギオ幸夫, 仁木稔(著)青土社(出版社)2022/8/29(発売日)
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口コミ

書評記事

現代思想 2022年9月メタバース特集号を読む|CHE BUNBUN|note

  • 「メタバースは「いき」か?ーーやましさの美学:難波優輝(現代美学と批評)」、「メタヴァースとヴァーチャル社会:大黒岳彦」について感想が書かれています。

参考文献

この本で引用されている本の中からいくつか紹介します。

メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界:バーチャル美少女ねむ(著)

多くの論考で引用されている本です。まだ読んでいない人は一読をおすすめします。

本の概要や注目点、感想などをブログ記事で紹介しています。

バーチャル美少女ねむ(著)技術評論社(出版社)2022/3/19(発売日)320P(ページ数)
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未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために:ドミニク・チェン(著)

「未来の身体論対話:ドミニク チェン(情報学研究)、安田 登(能楽師)」で引用されています。

ドミニク・チェン(著)新潮社(出版社)2020/1/22(発売日)208P(ページ数)
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ヴァーチャル社会の〈哲学〉―ビットコイン・VR・ポストトゥルース―:大黒 岳彦(著

「メタヴァースとヴァーチャル社会:大黒岳彦(哲学)」で引用されています。

大黒 岳彦(著)青土社(出版社)2018/12/20(発売日)433P(ページ数)
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アンチソーシャルメディア Facebookはいかにして「人をつなぐ」メディアから「分断する」メディアになったか:シヴァ・ヴァイディアナサン(著)

「宇宙の修理とメンテナンスーーメタバースは私たちの生きる宇宙になり得るのか:吉田健彦(環境哲学/メディア論)」で引用されています。

シヴァ・ヴァイディアナサン(著)松本 裕(翻訳)ディスカヴァー・トゥエンティワン(出版社)2020/9/25(発売日)454P(ページ数)
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ALIFE|人工生命 ―より生命的なAIへ:岡 瑞起(著)

「宇宙の修理とメンテナンスーーメタバースは私たちの生きる宇宙になり得るのか:吉田健彦(環境哲学/メディア論)」で引用されています。

岡 瑞起(著)ビー・エヌ・エヌ(出版社)2022/3/16(発売日)240P(ページ数)
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退屈とポスト・トゥルース SNSに搾取されないための哲学:マーク・キングウェル, 小島 和男(著)

「宇宙の修理とメンテナンスーーメタバースは私たちの生きる宇宙になり得るのか:吉田健彦(環境哲学/メディア論)」で引用されています。

マーク・キングウェル, 小島 和男(著)上岡 伸雄(翻訳)集英社(出版社)2021/1/15(発売日)288P(ページ数)
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監視資本主義―人類の未来を賭けた闘い:ショシャナ・ズボフ(著)

「1984年のメタバース:木澤佐登志(文筆家)」で引用されています。

ショシャナ・ズボフ(著)野中 香方子(翻訳)東洋経済新報社(出版社)2021/6/25(発売日)606P(ページ数)
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メタバースがわかる本おすすめ

VRがわかる本おすすめ

まとめ

本の概要注目点感想・口コミ・書評記事参考文献、を紹介しました。

メタバースは私たちの社会、意識、あるいは身体のありようをいかに変容させうるのだろうか?について、技術文化史・美術史・人類学・倫理学・哲学といった多様な寄稿者がメタバースの思想圏を描き出している本です。

近年出版されたメタバース関連書籍を数冊読んだことがある人で、もっと深く知りたい・考えたいと思っている人に一読をおすすめします。

ドミニク・チェン, 安田登, 三宅陽一郎, 木澤佐登志, 郡司ペギオ幸夫, 仁木稔(著)青土社(出版社)2022/8/29(発売日)
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