メタバースについて日本で実際にメタバースを事業として起業し運営している方が解説している本を紹介します。
メタバースの過去・現在・未来において、これまでどのような小説、映画、人、企業、製品が登場し、現在のメタバース事業はどう進んでいるのか、そして将来の可能性や日本の強みについて述べられています。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書誌情報
著者紹介
著者の加藤直人(かとうなおと)氏は、クラスター株式会社 代表取締役CEO。2017年にVRプラットフォーム「cluster」を公開。
著者が伝えたいこと
著者は「はじめに」でこの本を書こうと思い至った理由を3つ挙げています。
- 1つは、僕自身がメタバースをビジネスにしていて、メタバースのことをもっと世間の人たちに知ってほしいと思ったから。
- もう1つは、これを機にメタバースの歴史を整理したくなったということ。
- 最後の1つは、メタバースについて、僕が感じている危機感だ。
そして著者は、
「スマホに象徴されるモバイルプラットフォーム全盛期が今だとすれば、次の世界はどうなるか。次にやってくる大きな変革。それがメタバースだ。本書を読むことでその変革を実感してもらいたい。」
と述べています。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめに
- 第1章 メタバースとは何か
- 第2章 メタバース市場とそのプレーヤーたち
- 第3章 人類史にとってのメタバース
- 第4章 VRという技術革命
- 第5章 加速する新しい経済
- 第6章 メタバースの未来と日本
- おわりに
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
「メタバース さよならアトムの時代」を読んで注目したことを3つ紹介します。
実現可能な「ハリー・ポッター」の魔法
1つ目の注目点は「実現可能な『ハリー・ポッター』の魔法」です。
著者は、メタバースにおける体験で、ゲームやイベント以外にどういう体験が生まれてくるかについて、スポーツ観戦を例に挙げています。
第1フェーズはバーチャル空間で現実のスポーツを観戦することだ。(中略)
第2フェーズに発展すると、バーチャル空間でeスポーツの試合が開かれているところに観客たちが入り込み、同じ空間を共有しながら観戦するようになるだろう。その際の競技はサッカーや野球ではなく、おそらくバーチャル空間でしかできない魔法で戦うようなスポーツのほうが適しているはずだ。『ハリー・ポッター』シリーズに「クィディッチ」という名の架空のスポーツがあったが、ちょうどあのような体験だろう。
加藤直人. メタバース さよならアトムの時代 (集英社ノンフィクション) (pp.73-74). Kindle 版.
メタバースでの体験のイメージとして、ハリー・ポッターの架空スポーツを挙げていることは、今まで他のメタバース関連記事や本では見たことが無く、言われてみれば最もメタバースの特徴を活かしたスポーツの例だと感じて印象に残った。
筆者の言う通りサッカーや野球は物理的現実世界の制約下でのスポーツなので、それを単にバーチャル空間に移しただけでは真の面白さが表現できない。
バーチャル空間ならではの新しいスポーツが考案されてプレイできると面白い。
現在のスポーツは身体的な能力によって格差が生まれてしまい一緒にプレイすることが困難であるが、バーチャル空間の新しいスポーツでは身体的な能力に左右されずに一緒にプレイできるようになるのは面白いと思う。
また物理的世界では実現できないような人数で行うスポーツを考案すると面白いと思う。
メタバースはサステナブル
2つ目の注目点は「メタバースはサステナブル」です。
筆者は、産業革命から現在までの200年をアトムが主役で人・モノを動かす「モビリティの時代」と名づけ、今後200年をデータだ主役でコンピュータを動かす「バーチャリティの時代」と名づけています。
人間がエネルギーを使わないようにし、炭素排出量を最小限にする一番の方法は何か。
もちろん、「移動しない」ことである。メタバースが実現すれば、人やモノが移動しなくなり、モビリティが最小限になる。モビリティ時代の終焉だ。
実質的な価値だけを抽出し、無駄を省く。地球環境のサスティナビリティが人類最大の課題になった時代だからこそ、メタバースの実現が求められている。
加藤直人. メタバース さよならアトムの時代 (集英社ノンフィクション) (p.141). Kindle 版.
これらの言葉はこの本のタイトル「メタバース さよならアトムの時代」の説明であり、多くの人の既存概念を変えようという提案なので、印象に残った。
私は今は在宅ワークをしていて通勤に電車や車を使わない「移動しない」生活であるが、以前はコロナ禍になっても通勤で電車に最大3時間ぐらい乗っていて常に頭の奥底に違和感を感じていた。いま思い返すと違和感というのは問題を感じているが解決の方向性が浮かばなかったからだ。
その違和感がこれらの言葉を聞いて解決の方向性が明確になりスッキリした気持ちになった。
コラボして建造するメタバースのピラミッド
3つ目の注目点は「コラボして建造するメタバースのピラミッド」です。
著者は、メタバースの本質的な価値、一番大きな価値は「物理世界では原理的に不可能な創造活動ができる」ことにある、と述べています。
たとえば、コラボレーション。現実世界では100万人や1000万人がコラボして、何かクリエイティブなものを生み出すことはほぼ不可能だ。なぜなら物理的な制約があるからだ。しかしメタバースでならその限界を突破できる。ここにメタバースの本質がある。(中略)
メタバースではさらに大きなプロジェクトを、身体性をともなって遂行することができる。メタバースに、大きくて複雑な建造物を作ったりすることもできるだろう。(中略)
適切なインセンティブ設計をすることで、大勢の人々が巨大な構造物を造るというのは、Web3.0におけるトークンエコノミーの考え方と非常に相性が良さそうだ。メタバース時代にも、大勢の人々のコラボによって、現代版ピラミッドを造ることが可能かもしれない。
加藤直人. メタバース さよならアトムの時代 (集英社ノンフィクション) (p.217-219). Kindle 版.
現代の現実世界では不可能と思われるようなピラミッドのような巨大な構造物を大勢の人々が稼ぎながら創るというアイデアは正にメタバース&Web3ならではだと感じて印象に残った。
大勢の人々だけでなく、より多くの国の人が関わって一つのものを作るのも現実には難しいことなので良いかもしれない。
創る対象物はピラミッドの他にすぐに思いつくのは日本の城とかだが、どうやって創るのかが分からないものを実際に体験できることは価値があると思う。
物理的な制約をなくした、たとえば無重力ならではの構造物を考えるとかは、いろいろなアイデアが出てきそうで面白そうだ。
感想・口コミ・書評記事
感想
この本は、今まで読んだ本の中で、メタバースやVR(バーチャル・リアリティ)の起源をたどる小説・映画・ゲーム・研究者などについて最も詳しく書かれていたので、新しい発見があった。例えばVRについてアントナン・アルトーという詩人のことや、ソニーのグラストロンのことなど。
特にVRの黎明期、第1次VRブーム、第2次VRブームといったVRブームの変遷や、パルマー・ラッキーが試作機を発表してそれを見たジョン・カーマックとオキュラスVRを創業しデバイス技術をオープンソース化した話は初めて知ったので興味深かった。
各章の最終ページに参考文献の一覧が記載されていたので、更に深く知りたいことを調べる助けになるのでありがたい。
実際にメタバースの事業を起業した筆者が、メタバースという人類の夢の実現に向けて事業を何段階かに分けて、時間がかかっても着実に積み上げていく考え方で進めていることが分かり、興味深かった。
口コミ
Twitter口コミを紹介します。
書評記事
書評記事を紹介します。
『メタバース さよならアトムの時代』は新世界の予言書である【能楽師・安田登 書評】 | 特集 | よみタイ
絶好のメタバース本!【メタバース さよならアトムの時代】感想レビュー《Cluster加藤社長の本》
2022年注目キーワード『メタバース』について分かる本です! | otaa’s CREATIVE LIFE
参考文献
著者について
日本はメタバースを国家戦略として取り組むべき--クラスター加藤代表が語る展望 - CNET Japan
Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」:亀井 聡彦, 鈴木 雄大, 赤澤 直樹(著)
Web3というインターネットの転換点と、その背景にあるDAOという新しいコミュニティについて、概要・本質・哲学を、インターネットの歴史を振り返りながら解説している本です。
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
メタバースがわかる本おすすめ
VRがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
メタバースについて日本で実際にメタバースを事業として起業し運営している方が解説している本です。
メタバースの過去・現在・未来において、これまでどのような小説、映画、人、企業、製品が登場し、現在のメタバース事業はどう進んでいるのか、そして将来の可能性や日本の強みについて述べられています。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- はじめに
- 第1章 メタバースとは何か
- 伝説的小説『スノウ・クラッシュ』
- フィクションの中のメタバース
- オンラインゲームもルーツの1つ
- 日本を代表するライトノベル『ソードアート・オンライン』
- 一世を風靡した「セカンドライフ」
- メタバース7つの条件
- 8つ目の条件は「身体性」
- 世界的大ヒットゲーム「フォートナイト」
- 一番メタバースに近い会社・ロブロックス
- MMORPGとの違いは「自己組織化」
- フェイスブックの大きな賭け
- どうしようもない現実から解放されるために
- 第2章 メタバース市場とそのプレーヤーたち
- ゲーム業界とSNS業界の戦い
- 「ディストピアの悪夢」はポジショントーク
- デジタル資産・NFTの活用先
- メタバース市場の構造
- 7つのレイヤー
- (1) 体験
- 実現可能な『ハリー・ポッター』の魔法
- 「百聞は一見に如かず」の教育
- 多様性に満ちたバーチャルビーイングス
- (2) 発見
- 「クラブハウス」はなぜ流行ったのか
- 瞬間移動で始まる出会い
- 究極のネイティブ広告
- AIが生成する「どこにもない体験」
- (3) クリエイター・エコノミー
- ノーコード・ツールとしての「どうぶつの森」
- 全員が輝くアーキテクチャ
- (4) 空間コンピューティング
- (5) 非中央集権化
- Web3.0を牽引するイーサリアム
- アバターの「人格」を守る
- 様々なアバタービジネス
- (6) インターフェイス
- (7) インフラ
- 第3章 人類史にとってのメタバース
- 「計算」は身体と深く結びついている
- 「数学を数学する」という挑戦
- 万能マシンが計算を人類から解放した
- 人間と機械を融合する「サイバネティクス」
- 計算機に人間を計算させる「メタ」な営み
- 現実世界はすべてシミュレートできるのか
- 知性とはパターンを見つけること
- 現実はすでに「圧縮」されている
- 人・モノを動かすモビリティの時代
- 情報を動かすバーチャリティの時代
- 主役はアトムからデータへ
- メタバースはサステナブル
- 第4章 VRという技術革命
- 「バーチャル=仮想」の問題点
- VR発展の3つのフェーズ
- すべてのVRはサザランドに通ず
- 画期的な89年の「アイフォン」
- バーチャルボーイとグラストロン
- VRの3大技術要素
- 天才ギーク、パルマー・ラッキー
- オキュラスの快進撃
- デバイス技術をオープンソースに
- 2016年の新機種旋風
- 熱量が高い日本の開発者コミュニティ
- VRデバイスの脅威的な進化スピード
- 第5章 加速する新しい経済
- マジョリティへの普及は「機種変更」
- ゲーム・イベント・エロ
- VR・ARでやる必要がないこと
- 世界初の有料VRライブ
- 急増するバーチャルイベント
- アーカイブ機能はタイムマシンである
- メタバースの第1次&第2次産業
- ワールドクリエイターの収益化手段
- メタバース上のカフェ経営
- NFTによるクリエイターの復権
- 遊べば遊ぶほど稼げる未来
- 第6章 メタバースの未来と日本
- ”面倒くさい”コミュニケーションの歴史
- 存在するだけで情報発信
- デジタル世界で「体を重ねる」
- メタバース・ファーストな都市
- コラボして建造するメタバースのピラミッド
- 「タブレットを使って教育」は周回遅れ
- 日本のストロングポイント
- 「ドラえもん」で英才教育を受けた日本人
- おわりに