現在エンジニアであり起業家・投資家でもある著者ならではの視点で、Web3業界の現状・問題点を解説するとともに、新たなビジョンの提案、IT業界にたずさわっている著者の経験、エンジニアに対するアドバイスまで、多くの知見が書かれている本です。
Web3の本として2冊目を探している人、Web3分野で何かはじめてみたいと考えている人、現在Web3分野で活動している人、そして日本のITエンジニアに一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
著者紹介
中島 聡(ナカジマ・サトシ)
エンジニア(元米マイクロソフトエンジニア)・起業家・エンジェル投資家。現在は、元EvernoteのCEOが立ち上げたmmhmmの株主兼エンジニアを務めつつ、フルオンチェーンのジェネラティブアートの発行など、Web3時代の新たなビジネスモデルを作るべく活動している。(著者紹介より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
本書では、Web3業界の中で今起こっていること、また立ち上がっているサービスについて解説するとともに、新たなビジョンとして、現在私が取り組んでいるDAE(Decentralized Autonomous Ecosystem)を紹介したいと思います。
そして、その解説を通して、日本人のほとんどが知らないWeb3の正体について明らかにしていきたいと考えています。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめにーーWeb3を巡る混乱
- 第1章 Web3とは何か
- 第2章 Web3業界の現状
- 第3章 冬の時代の向こうにあるWeb3の未来 DAOからDAEへ
- 第4章 Web3の未来に向けて私たちが考えるべきこと
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
Nounsのスマートコントラクト
1つ目に注目した点は「第1章 Web3とは何か」の「最もDAOらしいDAO『Nouns DAO』に参加する」に書かれている「Nounsのスマートコントラクト」です。
Nounsは以下の規約が自動的に実行されるようにスマートコントラクトとして実装されており、組織の運営が自動化されているだけでなく、完全に透明化されているし、変更も不可能に設計されている、と著者は説明しています。
- (DAOのメンバーになるのに必要な)NFTの売り上げの100%がDAOの財産になる
- 1日1つのNFTがオークションで売られる(つまりキャッシュフローがある)
- 開発者への報酬は、10個に1つのNFT(当初5年間のみ)
- 集まった財産の使い方はDAOのメンバーが多数決で決める
そして、著者はNouns DAOの一番よくできている点は、「経営方針がメンバーの投票で決まる」という「いかにもDAOらしい」部分にあるのではなく、「開発者に対するインセンティブが、スマートコントラクトによってNFTで自動的に支払われることになっている」点に尽きる、と述べています。
通常の会社にあるような、雇用関係やストックオプションではなく、スマートコントラクトの、それも後から書き換えることが決してできない部分に「Noundersへの報酬の提供方法」が記述されており、それが「自動的に実行されてしまう」という点が、Nounsの最大の発明なのです。
中島 聡. シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか (Japanese Edition) (Kindle の位置No.777-780). Kindle 版.
「非中央集権的な世界」を成り立たせるために
2つ目に注目した点は「第3章 冬の時代の向こうにあるWeb3の未来 DAOからDAEへ」の「Web3による究極のアプリケーションは『国家』」に書かれている「『非中央集権的な世界』を成り立たせるために」です。
著者は、大手ベンチャーキャピタルがWeb3ベンチャーに莫大な投資をしている現状は、「非中央集権的な世界」とはほど遠いと批判を浴びているとして、自身の考えを以下のように述べています。
- 非営利法人とNouns型のトークンを活用したインセンティブモデルの組み合わせ
- サービスを運営する主体は、NPO、NGOなどと呼ばれている非営利法人が行なう
- 「社会に価値ももたらす」というビジョンの元にプロジェクトを立ち上げ、開発者集団とスマートコントラクトで契約を結ぶことによって、生み出したサービスを社会に提供する
- 大切なことは、開発者のインセンティブを非営利法人の目的と一致させること
私は、こんな形で数多くの非営利法人が立ち上がり、そこにかかわる開発者たちが、発行されるトークン(NFT+暗号通貨)の形で報酬を受け取る世界こそが、「来るべきWeb3の世界」であると思うし、それを実現してこそ、「Web3の時代になっても、新たなGAFAMに力が集中してしまう時代」を防ぐことができると考えています。
中島 聡. シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1938-1941). Kindle 版.
イノベーションは、コードから生まれる
3つ目に注目した点は「第4章 Web3の未来に向けて私たちが考えるべきこと」の「日本のIT産業は、なぜGAFAMに勝てないのか」に書かれている「イノベーションは、コードから生まれる」です。
著者は日本のIT業界について「ソフトウェアを多重下請けする構造が残っている限り、日本のIT業界の作るソフトウェアは世界で通用しませんし、社会のデジタル化が進展することもないでしょう。」と述べています。
そして、「イノベーションという言葉を口にする企業経営者は多いのですが、イノベーションは経営者が計画した通りには起こらないのです。」と述べ、マイクロソフトにおける次世代OS開発の失敗について、著者の経験を振り返って話しています。
次世代OS(Windows95)開発にあたってマイクロソフト社内で起きた出来事から、著者は以下のように主張しています。
机上で設計をしたところで、ソフトウェアは絶対にその通りには動きません。こうすればうまくいくんじゃないか、こうすれば面白いんじゃないか。そう思ったエンジニアがコードを書いて試行錯誤する。個々のエンジニアが起こす小さなイノベーションが、企業によって上手に引き出された時、世界を変えるような大きなイノベーションにつながっていくのです。
中島 聡. シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2497-2500). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
この本は以前読んだ「ニュー・エリートの時代 ポストコロナ『3つの二極化』を乗り越える」(ブログ記事)の著者が、Web3について書いた本ということで興味を持ち読みました。
全体的な感想は、他のWeb3本とは異なり、エンジニアであり起業家・投資家でもある著者ならではの視点で、Web3の現状・問題点・提案から、著者の経験、エンジニアに対するアドバイスまで書かれており、Web3分野だけでなく様々な知見が得られる内容でとても興味深く読みました。
Web3がこれまでのテクノロジーの進歩と大きく異なり、「通貨のイノベーション」であるため、これまで非常に難しかった「プログラミングでお金を操作する」ことをものすごく容易にしてしまい、最初から金融系の人々がたくさん参入してきている、ということが不思議でキケンな業界にしているという指摘は腑に落ちました。
著者が子どもの頃から現在までに経験(インターネット黎明期、iPhoneのAppStore最初期、2022年のWeb3など)してきた知見から、これからのエンジニアが心がけることやDecentralizedでTrustlessなWeb3の究極の形を目指す方向性を提示しており、とても参考になりました。
次世代OS(Windows95)開発を巡ってマイクロソフト社内に2つのプロジェクト(CarioとChicago)があり、それぞれがどのような開発体制で進められて結果どちらのプロジェクトが採用されたのか、という筆者の経験をもとにした話は当時の情景が浮かんできてドラマを見るように面白いエピソードでした。
Web3の本として2冊目を探している人、Web3分野で何かはじめてみたいと考えている人、Web3分野で活動している人、IT業界のエンジニアは、一度は読んでおくべき本だと感じました。
「手を動かして学ぶ」ことの重要性を著者は強調しています。自分自身としては、まず「CryptoZombies(クリプトゾンビ)」というSolidityを実際に手を動かして学ぶことのできるチュートリアルから始めてみようと思いました。
口コミ
書評記事
【書評】手を動かす(行動する)人だけがみえる世界『シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか』 - HIU公式書評ブログ
「シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか」を読んで、エンジニアとしてどう動くべきかを考えてみた|Webエンジニア研究室
【書評:1959冊目】シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか(中島聡)
参考文献
この本の参考文献に記載されている本や関連する本を紹介します。
ニュー・エリートの時代 ポストコロナ「3つの二極化」を乗り越える:中島 聡(著)
著者の前著では、ビジネス・働き方・人材の二極化について説明し、将来にわたって生き残るためのヒントを考えています。
この本の注目点や感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
Web3とは何か~NFT、ブロックチェーン、メタバース~:岡嶋 裕史(著)
Web3の長所と短所の両面からわかりやすく解説し、懸念点など著者の意見が書かれている本です。
この本の注目点や感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
Web3がわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
現在エンジニアであり起業家・投資家でもある著者ならではの視点で、Web3業界の現状・問題点を解説するとともに、新たなビジョンの提案、IT業界にたずさわっている著者の経験、エンジニアに対するアドバイスまで、多くの知見が書かれている本です。
Web3の本として2冊目を探している人、Web3分野で何かはじめてみたいと考えている人、現在Web3分野で活動している人、そして日本のITエンジニアに一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- はじめにーーWeb3を巡る混乱
- 第1章 Web3とは何か
- Web3とは何か
- ブロックチェーン:Web3の根幹
- ブロックチェーンの課題
- スマートコントラクト:自走するブロックチェーン上のプログラム
- NFT:唯一無二のスマートコントラクトのアプリケーション
- 組織を自動運転するDAO
- 最もDAOらしいDAO「Nouns DAO」に参加する
- Web3は打つべき釘を探しているハンマーである
- 第2章 Web3業界の現状
- Web3業界とは何か?
- Game-Fi(Play2Earn)Axie Infinity(Sky Mavis社:ベトナム)
- Game-Fi(Move2Earn)STEPN(Find Satoshi Lab社:オーストラリア)
- Game-Fiの仕組み
- NFT
- NFT(販売)CryptoPunks(Larva Lab社:アメリカ)
- NFT(販売)Bored Ape Yacht Club(Yuga Labs社:アメリカ)
- NFT(販売)CLONEX(RTFKT社:アメリカ)
- NFTの問題点
- NFT(取引所)OpenSea(OpenSea社:アメリカ)
- De-Fi
- De-Fi(暗号資産取引所)
- De-Fi(送金サービス)
- ウォレット MetaMask(ConsenSys社:アメリカ)
- De-Fiの問題点 暴落の心配
- ユーティリティ(不動産)
- ユーティリティ(不動産)Satoshi Island(Satoshi Island Holdings:アメリカ)
- ユーティリティ(ウイスキー販売)
- ユーティリティ(店舗のサービス)スターバックス
- メタバース
- メタバースのビジネス
- ビッグテックはWeb3をどう見ているか
- Web3ビジネスの問題点
- 第3章 冬の時代の向こうにあるWeb3の未来 DAOからDAEへ
- Web3に対する幻滅
- Web3による究極のアプリケーションは「国家」
- 未来のWeb3経済圏のために手を動かす
- DAOからDAEへ
- 第4章 Web3の未来に向けて私たちが考えるべきこと
- 世の中にうまい儲け話などない
- 日本のIT産業は、なぜGAFAMに勝てないのか
- 手を動かす人だけが見えること
- 新しい時代に飛び込める人が本当のWeb3を作っていく
- おわりに