メタバースは今なぜ注目されているのか?メタバースは成功するのか?どのようなビジネスが展開されていくのか?というビジネスでメタバースに取り組むうえでのポイントを詳しく解説している本です。
メタバースをビジネスとして企画し提案したい人、メタバースが自身のビジネスにどのように関わるのかを知りたい人、メタバースで自分ができることを探したい人に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書誌情報
著者紹介
久保田 瞬(Shun Kubota)
株式会社Mogura 代表取締役、「Mogura VR」編集長、XRジャーナリスト
一般社団法人XRコンソーシアム事務局長、一般社団法人VRMコンソーシアム理事
石村 尚也(Naoya Ishimura)
DBJキャピタル株式会社 シニア・インベストメント・マネージャー、日本政策投資銀行 経営企画部 デジタル戦略室 調査役
DBJキャピタルでスタートアップ投資を、日本政策投資銀行でデジタル戦略を担当。
著者が伝えたいこと
著者はこの本の特徴を以下のように述べています。
「メタバースについては、すでに多くの関連本が出版されているが、本書は短期・中期・長期でのビジネスの成功を目指し、メタバースの構造理解からビジネス実践例、将来展望まで含め、ビジネスの視点で書かれた書籍だ。」
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめに
- Chapter1 結局、メタバースとは何なのか?「3つの誤解」を読み解く
- Chapter2 メタバースをめぐる世界の潮流と主要プレーヤー
- Chapter3 分解 メタバースビジネス〜レベル進化と業界構造〜
- Chapter4 業界別 メタバースのビジネスチャンス
- Chapter5 メタバースの始め方「3つのステップ」
- Chapter6 メタバースの未来に向けて
- おわりに
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
この本を読んだ中で注目した点を3つ紹介します。
メタバースにおける4つのビジネスポジション
1つ目の注目点は「Chapter3 分解 メタバースビジネス〜レベル進化と業界構造〜」に書かれている「メタバースにおける4つのビジネスポジション」です。
著者はメタバースにおいて企業の果たす役割(メタバースの担い手である供給側)が4通りある、と述べています。
- メタバースの基盤を作る役割
- ハードウエアやプラットフォームなど、メタバースのバリューチェーンの多くがこの役割に該当する
- モノづくりをサポートする役割
- 各プラットフォームにおけるワールドやアバターを作るためのツール、その基となる3DCGを作ったり管理するツール
- メタバースでモノづくりを行う役割
- メタバースにおけるクリエイターでプログラマー・デザイナー・アーティストなどさまざまな職種が含まれる
- メタバース上でサービスを提供する役割
- 小売、アパレル、音楽など既存のリアルビジネスを行っている企業が取り組む
これらの4つの役割は決してどれか一つに限定されるものではなく、例えば、ある企業がメタバースの基盤を作りながら、モノづくりをサポートすることはあり得る、と著者は述べています。
自らメタバースのビジネスに参入する場合やメタバースのビジネスが発表された場合に、これらの4つの役割のどれを担っているか(一つまたは複数)を把握することで、どのようなビジネスかを説明したり理解しやすくなります。
「体験」なくして、ビジネスは語れない
2つ目の注目点は、「Chapter5 メタバースの始め方『3つのステップ』」に書かれている「『体験』なくして、ビジネスは語れない」です。
著者は、メタバースに関心のあるという多くのビジネスパーソンと話してきて圧倒的に感じるのは、以下のステップ1とステップ2を正しく経ていない人が非常に多い、と述べています。
- ステップ1:まずは知ろう=体験してみよう
- ステップ2:どういうアプローチが望ましいのか考えよう
そして、ステップ1を経ていない人は報道や言説のみを信じてしまい、メタバースを過大評価しがちである、と述べています。
著者は、ステップ1の6つのポイントを説明しています。
- 過程も体験する
- サービスによってアクセスできるようになるまでのハードルが異なる
- いろいろなメタバースに参加してみる
- メタバース実現のためにはさまざまなアプローチが存在する
- イベントに参加する
- メタバースで人が集まることによる熱気が感じられるはず
- VRヘッドセットで体験する/スマホで体験する
- VRヘッドセットで3次元のメタバースに没入し、その感覚を初めて体験できる
- スマートフォンでもメタバースを体験し、デバイスの一長一短を肌感覚で知る
- アバターを作ってみる
- 自分の分身を作って、メタバースで動かしてみる感覚を試してみよう
- ワールドを作ってみる
- 簡易的ではあるが、メタバースの中でアバター姿でワールドを作ることができる
メタバースのビジネスを企画する場合には、まずステップ1を体験することの重要さを認識しました。
ゲームAI研究者・開発者 三宅 陽一郎氏との対談
3つ目の注目点は、「Chapter2 メタバースをめぐる世界の潮流と主要プレーヤー」に書かれている「ゲームAI研究者・開発者 三宅 陽一郎氏との対談」です。
ゲーム業界においてAIを中心に長らく研究・開発を続けている三宅氏へのインタビューは、メタバースの本質的な価値を知る上でとても興味深い内容が数多く書かれています。
「メタバースをどのように定義していますか?」という問いに対して三宅氏は答えています。
「多人数が同時にログインしている」「空間がある」ことが前提だと考えています。
SNSやビデオ会議は、なぜメタバースと呼ばれないのか。それは空間がないからです。(中略)
オンラインゲームとの違いという点で見ると、「目的や物語がなくても成立し得る」ことが、メタバースの特徴でしょう。
久保田 瞬,石村尚也. メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤 (Japanese Edition) (p.122). Kindle 版.
「メタバース化で生活にはどんな変化があると考えていますか」という問いに対して、三宅氏は答えています。
インターネットは、究極的に効率化の点で貢献してきました。それはある意味、人間から空間を奪ってきたとも言えます。基本のコミュニケーションが数字や文字に置き換わってきたわけですから。
そんな中、インターネット上に空間が生まれるメタバースは、「空間を取り戻す」という意味があると考えています。(中略)
メタバース化で空間が生まれれば、再び偶発性を生み出せる。さらには偶発性を一定程度、コントロールすることも可能になります。
久保田 瞬,石村尚也. メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤 (Japanese Edition) (p.129). Kindle 版.
「多人数が同時にログインしている」「空間がある」「偶発性を生み出す」がメタバースの本質的な価値なるのだと認識しました。
感想・口コミ・書評記事
感想
それぞれのチャプターに関する有識者との対談やインタビューの内容は、他のメタバース関連の本には書かれていないことが多く、どれもとても面白く興味深く読むことができた。
セカンドライフの体験談で「夜な夜な人が集まるスナックもありましたね。」という話は、注目点の3つ目に挙げたこととつながっており、セカンドライフで見出され、将来のメタバースでも本質的な価値になることだと感じた。
リアルの場合でも、多人数が集まる空間があり偶発性があることのメリット・デメリットがあるので、メタバースの場合にはメリットを活かしつつ、デジタルならではの方法でデメリットを無くすことができれば、安全・安心にメタバースに集まる人が増えるように感じた。
インタビューで三宅氏が「人間同士のコミュニケーションは、加熱する方向に向きやすい。SNSの普及で人と衝突する”量”が圧倒的に増えている。エージェントを介することで過剰な熱量や強すぎる思いは一旦落ち着いて、関係性は円滑化する。」ということを述べており、このエージェントが将来重要で必要な技術になってくると感じた。
米メタ・プラットフォーム社は「Horizon Worlds」に自分のアバターと他の利用者のアバターとの間にある約1.2メートルの距離が友人以外の利用者にデフォルトで設定される「個人境界線」を導入したと発表しており、他のメタバースでもこのような機能が充実することを期待したい。
またこの本の特徴として、先行するメタバースビジネス事例が豊富に掲載されているだけでなく、ニュース記事を見ただけでは分からない分析した内容も書かれていたので、とても参考になった。
著者がメタバースと呼ばれる前から長年この分野のビジネスに関わってきた知見が随所に盛り込まれており、これからビジネスに取り組み人に取ってとても有益なアドバイスになっていると感じた。
口コミ
書評記事
『メタバース未来戦略』レビュー 「Mogura VR」編集長らの思い描く進化予想図 - KAI-YOU.net
企業はメタバースで何ができるのか?今こそ考えたいメタバースの核心とビジネスの始め方【お薦めの書籍】:MarkeZine(マーケジン)
参考文献
この本に書かれている参考文献や関連する本を紹介します。
スノウ・クラッシュ:ニール・スティーブンスン(著)
はじめに、で引用されています。
「メタバース」という言葉は、1992年に出版されたこの本の中で「コンピューターの作り出した宇宙であり、ゴーグルに描かれた画像とイヤホンに送り込まれた音声によって出現する(中略)想像上の世界」と紹介されています。
NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来:天羽健介, 増田 雅史(著)
Chapter1についての参考文献です。
VRは脳をどう変えるか?仮想現実の心理学:ジェレミー・ベイレンソン(著)
Chapter4の「教育 x メタバース」の中で、著者のジェレミー・ベイレンソン教授がソーシャルVRサービス「Engage」を使いVRヘッドセットで授業をしていると紹介しています。
この参考文献については、注目点と感想をブログ記事に書きましたので参考にしてください。
メタバースがわかる本おすすめ
VRがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
メタバースは今なぜ注目されているのか?メタバースは成功するのか?どのようなビジネスが展開されていくのか?というビジネスでメタバースに取り組むうえでのポイントを詳しく解説している本です。
メタバースをビジネスとして企画し提案したい人、メタバースがビジネスにどのように関わるのかを知りたい人、メタバースで自分ができることを探したい人に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- はじめに メタバースーー人々の夢想が現実になる「もう一つの世界」
- Chapter1 結局、メタバースとは何なのか?「3つの誤解」を読み解く
- 1. 「3次元のインターネット」メタバースの特徴とは?
- 2. メタバースは普及しない?「3つの誤解」
- 3. メタバースはゲームが通った道を歩む?
- Talk> デジタルハリウッド大学 杉山知之氏 x Psychic VR Lab 渡邊信彦氏
- Chapter2 メタバースをめぐる世界の潮流と主要プレーヤー
- 1. Withコロナで期待されるメタバース
- 2. 赤字を垂れ流すMetaの本気度
- Column> SXSW講演 ザッカーバーグがメタバースを語り尽くす
- 3. テックジャイアントは追随するか
- 4. メタバース注目プレーヤーが目指す世界
- Interview> Meta Platforms Metaverse Contents VP ジェイソン・ルービン氏
- Interview> ゲームAI研究者・開発者 三宅陽一郎氏
- Chapter3 分解 メタバースビジネス〜レベル進化と業界構造〜
- 1. 現状のメタバースは「フェーズ1」にすぎない
- 2. メタバースにおける4つのビジネスポジション
- 3. 7層のバリューチェーンで見るメタバース
- 4. メタバースと宇宙開発は似ている?
- Interview> Unity Technologies クリエイト部門シニアバイスプレジデント マーク・ウィッテン氏
- Interview> KDDI 事業創造本部 副本部長 中馬和彦氏
- Chapter4 業界別 メタバースのビジネスチャンス
- 1. 果たしてメタバースは「儲かる」のか
- 2. 先行するメタバースビジネス事例
- Interview> ビームス取締役 ビームスクリエイティブ代表取締役社長 池内光氏
- Chapter5 メタバースの始め方「3つのステップ」
- 1. 「体験」なくして、ビジネスは語れない
- 2. トレードオフがあるプラットフォーム選び
- Chapter6 メタバースの未来に向けて
- 1. メタバース普及に向けて何をすべきか
- 2. アバター、3Dモデル…進化するバーチャル体験
- 3. 姿が変わっていくハードウェアの未来
- 4. ARを通じてメタバースにアクセスする未来
- 5. 「メタバースという森」でやるべきこと
- Interview> 国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐 内山裕弥氏
- おわりに バズは終わってもメタバースの追求は終わらない