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【注目点・感想】VRは脳をどう変えるのか?仮想現実の心理学:ジェレミー・ベイレンソン(著)

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VR(Virtual Reality, バーチャルリアリティ、仮想現実)の研究と事例についてスタンフォード大学教授が書いた本を紹介します。

VRは著者によると「VRは過去に存在しなかったまったく新しいメディアであり、他のメディアにはない独自の特徴と心理効果を持ち、我々が身の回りの現実世界や他人と関わる方法を完全に変えてしまうのである。」というものです。

この本を読むと、VR技術の仕組みやそれが脳に与える影響、VRが何に役立つのかということを理解できるようになります。

本の概要注目点感想・口コミ・書評記事参考文献、を紹介します。

本の概要

書誌情報

ジェレミー・ベイレンソン(著)倉田幸信(翻訳)文藝春秋(出版社)2018/8/8(発売日)364P(ページ数)

著者紹介

原書)「Experience on Demand: What Virtual Reality Is, How It Works, and What It Can Do 」Jeremy Bailenson,W.W.Norton & Company, 2018/1/30

著者のJeremy Bailenson(ジェレミー・ベイレンソン)はスタンフォード大学教授(心理学、コミュニケーション学)で、スタンフォード大学でVirtual Human Interaction Lab(VHIL, バーチャル・ヒューマン・インタラクション研究所)を2003年に設立し、所長を務めています。

原書のタイトルを直訳すると「要求に応じて経験を:バーチャルリアリティとは何か、どのように機能し、何ができるのか。」になります。

この本を読み終えて、この「要求に応じて経験を」という言葉がVR(Virtual Reality, 仮想現実)の特徴を最も的確に表していることが分かりました。

著者は本書を書こうと思った理由を「まったく新しい技術とコンテンツが今後わずか数年で世間に広く普及しようとしているのに、VR技術の仕組みやそれが脳に与える影響、VRが何に役立つのかといったことを理解している人はほとんどいない」からだと述べています。

本の目次

この本の目次を引用して紹介します。

  • なぜフェイスブックはVRに賭けたのか?
  • 一流はバーチャル空間で練習する
  • その没入感は脳を変える
  • 人類は初めて新たな身体を手に入れる
  • 消費活動の中心は仮想世界へ
  • 2000人のPTSD患者を救ったVRソフト
  • 医療の現場が注目する”痛みからの解放”
  • アバターは人間関係をいかに変えるか?
  • 映画とゲームを融合した新世代のエンターテイメント
  • バーチャル教室で子供は学ぶ
  • 優れたVRコンテンツの三条件

もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。

注目点

「VRは脳をどう変えるのか?」を読んで注目した3つの点を紹介します。

共感力を高める「視点交換」にVRを使う

1つ目の注目点は「共感力を高める『視点交換』にVRを使う」です。

著者は、社会課題を解決する方策として「共感」が重要であり、数々の研究により、共感力を高める最も優れた方法の一つは「視点交換(パースペクティブ・テイキング)」であることが明らかになっており、VRの出番を以下のように述べています。

まるで現実のように思える経験を作り出し、多種多様な視点から仮想の世界を見せることができるVRの能力は、まさに視点交換にうってつけではないだろうか。

第一の利点として、他人の視点に立つためのシナリオをゼロから頭の中で考え出すという頭脳労働が不要になる。これはおそらく、視点交換する気になるためのハードルを下げる効果があるだろう。

さらにこれが二番目の利点ももたらす。すなわち、VRなら共感対象の視点に立つためのシナリオを詳細に描けるため、ありがちなステレオタイプ像や心地よい作り話をでっちあげるのを避けられるのだ。

ジェレミー・ベイレンソン. VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学 (Japanese Edition) (p.119). Kindle 版.

例えば、難民キャンプでの人々の生活(周辺環境や居住区の狭さ、キャンプの敷地の広大さといった感覚)を伝えることによって、他人の視点で世界を見ることで相手と自分の差異を小さくできる、と述べています。

この本では、難民キャンプ以外にもVRによる視点交換を、高齢者差別、人種差別、障害者支援などの社会課題にも応用する事例を述べています。

アバターの動きや表情が”操作”される覚悟は必要

2つ目の注目点は「アバターの動きや表情が”操作”される覚悟は必要」です。

著者は、2016年にソーシャルVRで会話中に手を加えて笑顔を”増強”したらどんな効果が生まれるか?という実験の結果を述べています。

実験では被験者にVRチャットをしてもらい、彼らの表情をトラッキングしてアバターで再現した。実験条件を二種類にわけ、一方では被験者たちの笑顔を実際よりも大げさに〝増強〟してアバター上に再現し、もう一方ではそのままの笑顔をアバターで再現した。後ほど被験者にチャットの感想を聞き、その内容をLIWC(使われた語彙を分類して分析するツール)で分析したところ、お互いに大げさな笑顔を見せ合った〝増強〟条件の被験者たちのほうがチャット経験についてより肯定的な語彙で表現したことがわかった。それだけでなく、彼らのほうが実験後に自分への自信とソーシャル・プレゼンスを感じていた。しかも、お互いのアバターの笑顔が加工されていたと気づいた被験者は一〇人に一人もいなかった

ジェレミー・ベイレンソン. VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学 (Japanese Edition) (p.263). Kindle 版.

著者は「アバターを介したソーシャルVRの世界では、この種の操作が数多く行われると覚悟すべきであろう。これは人間社会で見慣れた習慣の理論的延長に過ぎない。」と述べています。

「それはVRである必要性があるのか」と自問しよう

3つめの注目点は「『それはVRである必要性があるのか』と自問しよう」です。

著者は、優れたVRコンテンツの三条件を(1)「それはVRである必要性があるのか」と自問しよう(2)ユーザーを酔わせてはならない(3)安全性を最優先する、を挙げています。

「それはVRである必要性があるのか」と自問しよう、について著者が学んだ経験則を以下のように述べています。

第一に、VRはあなたができないであろうことにはうってつけだが、現実世界でしないであろうことには使うべきでない。(中略)

第二に、日常的でつまらないことにVRを無駄遣いすべきではない。VR経験は全身全霊で味わうべきだ。(中略)

もう一つ優れたVRの使い方として、現実では危険な行為をVRで危険なく経験するという利用法がある。(中略)

上記に加え、VRの優れた使い方の指針には「コストと利用しやすさ」も含めるべきだ。(中略)

結論として、その経験を実際に行うのが①不可能、②危険、③高価、④望ましくない結果を生む、のいずれかであればVRを使うのが適切だ。いずれにも当てはまらないなら別のメディアを使うことを真剣に検討するか、現実世界で実際に行えばいい。VRはもっと特別な機会にとっておこう。

ジェレミー・ベイレンソン. VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学 (Japanese Edition) (p.332-335). Kindle 版.

感想・口コミ・書評記事

感想

この本は最初から最後まで一文一句とても興味深く読むことができた。もっと多くの研究や事例を聴かせて欲しいという気持ちでいっぱいになった。それは社会課題解決、教育、コミュニケーションなど著者の関心と私の関心が近かったことと、経験する手段としてVRが従来とは違う可能性を秘めていることが理由だと振り返った。

まずこの本の序章「なぜフェイスブックはVRに賭けたのか?」で2014年3月にマーク・ザッカーバーグが著者の研究室を訪れたエピソードが書かれており、実際に体験した後、VR経験の可能性だけでなく社会に有害な影響を与えるであろうことも議論したということは興味深かった。

NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の幹部がダイバーシティ研修にVRを使いたいという提案を持ち込み、人種差別や性差別をしないためのスキルが身につく「VR面接シミュレーション」を2017年2月から使いはじめたとの記述があり、興味を持った。先に印象に残った3つのことに挙げた「共感力を高める『視点交換』にVRを使う」の事例の一つである。ダイバーシティ研修を講義形式で実施した場合の効果は少ないという話を聞いたことがあるので、VRを使った効果はどうだったのかと興味を持ったが、本書では記述がなかったので別途調べてみよう。

VRの教育利用について「我々のラボでは地域支援活動の一環として、市街地の小中学生を定期的にVRツアーに招待している。」という記述があった。また「責任あるVRの使い方をするためには、VRでどんなことが可能になるのか情報と知見を集め、開発者側も利用者側も間違いのない利用法を知るのが一番の近道だろう。」という記述もあった。今後日本でも小中学生だけでなく幅広い年齢層にVRツアーやVR教室を開催してVR経験の利点と欠点を伝える必要がありそうだ。

この本は海外のVR研究と事例なので日本のVR研究と事例はどうなっているのだろうか、と思った。今後は継続して調べてみようと思う。

ジェレミー・ベイレンソン(著)倉田幸信(翻訳)文藝春秋(出版社)2018/8/8(発売日)364P(ページ数)

口コミ

Twitter口コミを紹介します。

書評記事

VR(仮想現実)は、諸刃の剣。早急に対応しないといけない。――書評『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』 | 経営書(1/2)|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

書評 VRは脳をどう変えるか?仮想現実の心理学 VRの近未来がわかる本 - ケンジツ

VRは“経験製造器”?仮想現実が導く未来『VRは脳をどう変えるか?』感想 - ぐるりみち。

参考文献

VHIL (Virtual Human Interacrion Lab) の活動

https://stanfordvr.com/

以下の YouTubeビデオは日本語字幕あり。

トレーニングに対するVRの影響の背後にある科学についてのジェレミーベイレンソン
ジェレミーベイレンソンとフィリップローズデールとのVRを通して気候変動を見る

VRが変える これからの仕事図鑑:赤津 慧 , 鳴海 拓志(著)

赤津 慧 , 鳴海 拓志(著)光文社(出版社)2019/8/30(発売日)238P(ページ数)

この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。

佐藤航陽(著)盆子原 康(ナレーション)幻冬舎(出版社)2022/3/31(発売日)262P(ページ数)

VRがわかる本おすすめ

まとめ

本の概要注目点感想・口コミ・書評記事参考情報、を紹介しました。

VR(Virtual Reality, バーチャルリアリティ、仮想現実)の研究と事例についてスタンフォード大学教授が書いた本です。

VRは著者によると「VRは過去に存在しなかったまったく新しいメディアであり、他のメディアにはない独自の特徴と心理効果を持ち、我々が身の回りの現実世界や他人と関わる方法を完全に変えてしまうのである。」というものです。

この本を読むと、VR技術の仕組みやそれが脳に与える影響、VRが何に役立つのかということを理解できるようになります。

ジェレミー・ベイレンソン(著)倉田幸信(翻訳)文藝春秋(出版社)2018/8/8(発売日)364P(ページ数)

本の目次(詳細版)

この本の目次をくわしく引用して紹介します。

  • なぜフェイスブックはVRに賭けたのか?
    • 私は20年にわたり、認知心理学の観点からVRを研究してきた。今のVRブームは、2014年にフェイスブックが「オキュラス」を20億ドル超で買収したことから始まったが、実はその数週間前、マーク・ザッカーバーグは私の研究室を訪れていた。
  • 一流はバーチャル空間で練習する
    • VR内での経験は、現実の経験と同様の生理学的反応を脳にもたらす。VRは人類の歴史上、最も強い心理的効果と持つメディアなのだ。では、これを学習に応用したら何が起きるだろうか。NFLのチームで行った実験は、驚愕の結果をもたらした。
  • その没入感は脳を変える
    • VRでは一人称視点の暴力ゲームを作らないーーゲーム開発者は早々にこの結論に至った。ゲームであってもVR内の殺人はあまりに生々しく、罪悪感を残すからだ。VRは脳へ強烈な影響を与える。仮想世界で25時間過ごした男にもある変化が起きた。
  • 人類は初めて新たな身体を手に入れる
    • 特殊な”鏡”を使えば、人間の脳は最も簡単に仮想の身体を自分自身だと思い込む。これをVRと組み合わせれば、年齢や人種の異なる人間はもちろん、別の動物の身体に移転することも可能だ。人類史上初めての事態に、我々の脳は対応しきれるのか?
  • 消費活動の中心は仮想世界へ
    • 宇宙から海底まで、誰でも簡単に旅ができるVRが普及することで、世界の消費活動は一変する。既に仮想世界で遊ぶための衣服・不動産・船などにあらゆる階層の人々が多額を投じ、巨大な経済圏が生まれている。これを軽視すると未来を見誤るだろう。
  • 2000人のPTSD患者を救ったVRソフト
    • 同時多発テロ後、多くの人がPTSDに苦しんだ。治療にはトラウマの再現が有効だが、本人の記憶に頼る従来の手法ではあまり効果はなかった。そこである専門医は、テロ当日を緻密に再現したVRを作製。患者を再度、9月11日のNYに送り出した。
  • 医療の現場が注目する”痛みからの解放”
    • 重度のやけど患者は治療で想像を絶する激痛を味わう。それはどんな鎮痛剤も効かないほどだ。だが治療中の患者にあるVRソフトをプレイさせると、劇的に痛みが和らぎ、脳の活動にも明確な変化が見て取れた。このVR療法の登場によって衝撃が走っている。
  • アバターは人間関係をいかに変えるか?
    • ユーザーの細かな表情や動きを仮想世界のアバターに反映させる技術は急速に進化している。誰もが仮想空間で交流し、通勤や出張が不要になる日も来るはずだ。だがあらゆるアバターは心理学に基づく印象操作を駆使して、表情や行動を偽装するだろう。
  • 映画とゲームを融合した新世代のエンターテイメント
    • ハリウッドではゲーム業界出身者が集まり、VRを用いた全く新たな物語作品を作り始めている。VRは没入感と引き換えに、一本道のストーリーには向かないという弱点がある。解決策として彼らが注目するのは、AIを用いた”ストーリー磁石”だ。
  • バーチャル教室で子供は学ぶ
    • ハーバード大学では、19世紀の町をインタラクティブに再現したVRを制作。当時の世界にタイムトリップして科学を学ばせる「VR社会見学」を中学生に体験させた。結果、生徒たちの学習意欲は大きく向上。VRは教育の世界も劇的に変えていく。
  • 優れたVRコンテンツの三条件
    • かつては一部の専門家にしか扱えなかったVRも、今では誰でも簡単に入手できるようになった。既存のメディアとは全く異質で、計り知れない力を秘めたこの技術は、人類にとって諸刃の剣だ。その制作者は3つのルールを必ず守らなければならない。

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