ビックテックやAIの進化による「支配と隷従から脱し、自由のために戦うエリート」と「安楽な暮らしに浸かって、支配され隷属している人たち」という二分論に対して、テクノロジーが進化しても社会が悪夢にならない「第三の道」の構想をWeb3とメタバースを中心に提言している本です。
Web3やメタバース・AIなど新しいテクノロジーが未来の社会にどのように活かされていくのか興味関心がある人、また、テクノロジーに興味ないけれど世界の現状や未来の社会の方向性を知りたい人、に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、などを紹介します。
本の概要
書籍情報
著者紹介
佐々木 俊尚(ささき・としなお)
作家・ジャーナリスト。毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆している。(著者略歴より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
「現在のAIの進化とテクノロジーによる『支配と隷従』は、エリートと一般人に社会を分断し新たな階級社会をつくっていこうとしている。しかし逆に新しいテクノロジーによって、そのような階級社会の誕生を阻止することはできないのだろうか? それが本書のテーマである。」
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- プロローグ
- 第1章 「安楽な暮らし」か「支配されない自由」か?
- 第2章 ウェブ3はビックテックの「支配」を終わらせることができるのか?
- 第3章 ビックテック支配から逃れるためのトークンエコノミーへ
- 第4章 メタバースと自動運転が都市を変える
- 第5章 ウェブ3が進化した世界はこうなる
- エピローグ
- 主要参考文献一覧
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
プラットフォームの進化と下からの垂直統合
1つ目に注目した点は、「第2章 ウェブ3はビックテックの「支配」を終わらせることができるのか?」に書かれている「プラットフォームの進化と下からの垂直統合」です。
著者は、2010年代、AIの急速な進化によって、プラットフォームは新たな段階に入ってきた、と述べ、以下のような主旨を説明しています。
- 深層学習のAIは、SNSなどの情報プラットホームに入り込み、「プラットフォームという基盤の上で水平に自由に情報が流れる」という構図から、「プラットフォームという基盤の上で流れる情報を、AIがコントロールして最適化する」という方向へと舵を切ってきているのである。
- たとえばフェイスブックは「エッジランク」という技術によって利用者の興味関心や人間関係を注意深く観察し、親密な友人の投稿はたくさん表示し、疎遠な友人の投稿はなるべく表示しないように操作している。
著者は、このようなプラットホームで起きている状況を以下のように解説しています。
かつての新聞やテレビは、情報のコントロールは見えやすかった。新聞やテレビが「上からの垂直統合」だったとすれば、いま起きているプラットフォームの進化は「下からの垂直統合」である。
つまりは「自由」だったはずのウェブ2・0は、AIによって「支配」に変貌してしまったのである。
佐々木 俊尚. Web3とメタバースは人間を自由にするか (Japanese Edition) (p.61). Kindle 版.
プラットフォーム支配に一般の人びとが「参加」する
2つ目に注目した点は「第3章 ビックテック支配から逃れるためのトークンエコノミーへ」に書かれている「プラットフォーム支配に一般の人びとが『参加』する」です。
著者は、プラットフォームによる支配のありようを変えるには、「支配と隷従」そのものを破壊するのではなく、「支配」の構造を変えていくという発想が必要だ、と述べています。
たとえばブロックスタック(Blockstack)というプロジェクトは、プラットフォームに溜め込まれている自分の情報を、外部に「ひらく」ことができることに大きな意味があり、プラットフォームの違いを超えて情報をどこでも共有でき、ネットワーク効果をある程度は抑え込むことができるようになる、と著者は述べています。
著者はこのような「支配」の構造を変えていくという発想を、まとめて以下のように説明しています。
これはつまり「完全な自由」ではなく、「支配に参加する」という未来なのだ。支配を否定するのではなく、支配をオープンにして、人びとに参加してもらうのである。全員が投資家になり、運営の主体側にまわるのである。
プラットフォームはわたしたちを支配しているが、同時にわたしたちはプラットフォームを支配しているのである。
佐々木 俊尚. Web3とメタバースは人間を自由にするか (Japanese Edition) (p.122). Kindle 版.
「見られている」感覚の重要性
3つ目に注目した点は「第4章 メタバースと自動運転が都市を変える」に書かれている「『見られている』感覚の重要性」です。
著者は、メタバースによるコミュニケーションは、「自分が他者から承認されている」というような感覚が生まれるという重要な価値を持っている、と述べています。
2Dオンライン会議とVRを対比して視線の重なりについて、著者は以下のように述べています。
- ズーム(Zoom)のような2Dオンライン会議は平面なので、互いが「自分が見られている」ことを最初から認識したうえで対面しており、強制的に視線が重ねられている。
- VRでは、必ずしも視線は重ねる必要はなく、リアル空間と同じように、同じ空間にいる二人の視線には「交わる」「並行である」「ねじれ」の三つの関係がある。
そして、メタバース(VR)で「見られている」感覚の重要性を以下のように著者は説明しています。
誰かと同じ場所に居あわせたとき、自分では相手の視線を「平行」か「ねじれ」だと思っていたのに、ふと顔を上げると視線が交わっていることに気づいてハッとするということがあるだろう。
「あ、見られている」と感じるのである。
この「見られている」感覚こそが、承認にはとても大切だ。見られているからこそ、自分は存在するのだという確かな実感を持つことができるのだ。
佐々木 俊尚. Web3とメタバースは人間を自由にするか (Japanese Edition) (p.161). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルまで取材・執筆・発信している著者が、Web3とメタバースについて書いた本であったので読んでみました。
全体的な感想としては、事前の予測をいい意味で裏切られて、Web3とメタバースを未来の大きな文脈の中で捉えなおして、AIや自動運転などテクノロジーとの関連や、未来の社会での活かし方がわかる興味深い内容でした。
著者は「支配と隷従から脱し、自由のために戦うエリート」と「安楽な暮らしに浸かって、支配され隷属している人たち」という二分論に対して、テクノロジーが進化しても社会が悪夢にならない「第三の道」はあり得るのではないか、という仮説を立て、構想を提言しています。
Web3のトークンエコノミーが、「新しい関係と承認」を生み出すということを説明するだけでなく、ベーシックインカムやユニバーサル・ベーシックキャピタル、ステークホルダーグラントといった制度も取り上げて比較検討しており、興味深く参考になった。
メタバースがリアルの世界に影響を与えるのは「コミュニケーションの拡張」と「居場所の拡張」だとして、人類学者の人と人との距離の理論や、社会学者の移動の社会学、経済学者の近代都市論を取り上げて、自動運転や分身ロボットのテクノロジーも相互作用しながら、社会や人と人の関係がどのように変わるのかを論じており、これも興味深く参考になった。
これまでWeb3やメタバースの本を読んだことがある人も、新たな視点からWeb3やメタバースを捉えることができる内容になっています。
Web3やメタバース・AIなど新しいテクノロジーが未来の社会にどのように活かされていくのか興味関心がある人、また、テクノロジーに興味ないけれど世界の現状や未来の社会の方向性を知りたい人、におすすめできる本です。
口コミ
書評記事
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参考文献
この本の参考文献に記載されている本や関連する本を紹介します。
監視資本主義―人類の未来を賭けた闘い:ショシャナ・ズボフ(著)
「第2章 ウェブ3はビックテックの「支配」を終わらせることができるのか?」の「Don't Be Evil(邪悪になるな)」で引用されています。
「人々のプライバシーのデータを利用し、売買することによってビックテックが大儲けしていることから、いまや資本主義の基盤は『監視』になってしまっているという内容である」と著者は紹介しています。
トレイルブレイザー: 企業が本気で社会を変える10の思考:マーク・ベニオフ, モニカ・ラングレー(著)
「第2章 ウェブ3はビックテックの「支配」を終わらせることができるのか?」の「ビックテックとリバタリアンに欠けているもの」で引用されています。
「シリコンバレーのあるサンフランシスコでは、ぜいたくな生活を送るビッグテックの社員たちがいる一方で、ホームレスも非常に多い。」と著者は紹介しています。
メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界:バーチャル美少女ねむ(著)
「第4章 メタバースと自動運転が都市を変える」の「メタバースはキャズムを超えるか」で引用されています。
「メタバースとリアル空間の関係性について興味深い議論を展開している」と著者は紹介しています。
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
NEO HUMAN ネオ・ヒューマン: 究極の自由を得る未来:ピーター・スコット・モーガン(著)
「第4章 メタバースと自動運転が都市を変える」の「メタバースとリアル空間がつながる」で引用されています。
「五感を伝えられるメタモビリティも、実現可能なところまで来ているのだ」と著者は紹介しています。
Web3がわかる本おすすめ
メタバースがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、などを紹介しました。
ビックテックやAIの進化による「支配と隷従から脱し、自由のために戦うエリート」と「安楽な暮らしに浸かって、支配され隷属している人たち」という二分論に対して、テクノロジーが進化しても社会が悪夢にならない「第三の道」の構想をWeb3とメタバースを中心に提言している本です。
Web3やメタバース・AIなど新しいテクノロジーが未来の社会にどのように活かされていくのか興味関心がある人、また、テクノロジーに興味ないけれど世界の現状や未来の社会の方向性を知りたい人、に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- プロローグ
- 第1章 「安楽な暮らし」か「支配されない自由」か?
- DXはビジネスを根本から変える
- AIは人間の知性を持たない
- AIは理由を説明してくれない
- 自動運転車は普及するか?
- 自動車も人間も「情報端末」になる
- ダイナミックセル生産
- 強打者に大柄な体格は不要?
- 第2章 ウェブ3はビックテックの「支配」を終わらせることができるのか?
- Don't Be Evil(邪悪になるな)
- ウェブ2.0が崩したマスメディアの垂直統合
- プラットフォームの進化と下からの垂直統合
- 「キュレーション」の先にあったAIによる支配
- 中国における「未来」への監視
- ウェブ3は支配を崩せるか?
- 「ここには管理職を置かないとダメだ」
- 政治をAIに任せらせるか?
- ビックテックとリバタリアンに欠けているもの
- 第3章 ビックテック支配から逃れるためのトークンエコノミーへ
- トークンエコノミーという経済
- 新しい「関係」と「承認」のためのトークン
- 自分が初期からアイドルを応援している象徴
- 消費者であり生産者であり出資者
- スティグリッツの「ユニバーサル・ベーシックキャピタル」
- 「推し」が社会の基盤になる
- プラットフォームの支配は続く
- プラットフォーム支配に一般の人びとが「参加」する
- 第4章 メタバースと自動運転が都市を変える
- リアル空間とメタバース空間の同居
- メタバースはキャズムを超えるか
- 「コミュニケーションの拡張」と「居場所の拡張」
- メタバースとリアル空間がつながる
- わたしたちの移動は「どこでもドア」に向かう
- 自動運転が地方都市の形態を変える
- インターネットの中に生まれる「都市」
- 「見られている」感覚の重要性
- 関係と承認のテクノロジーへ
- 第5章 ウェブ3が進化した世界はこうなる
- 新しいインターネットの世界へ
- 求められるビジネスは透明化されたプラットフォーム
- 貨幣経済に贈与経済のレイヤーを重ねる
- 快適なユーザー体験がビジネスの成功を導く
- テクノロジーの存在は見えなくなっていく
- 豊かなテクノロジーがイノベーションと文化をもたらす
- エピローグ
- 主要参考文献一覧