著者は一言でいうと「メタバースとは、現実と違うもう一つの世界である」と述べています。
この本は、仮想現実と疑似現実の違い、関連技術や用途の歴史、メタバースの用途そしてGAFAMの動向まで記述されており、メタバースへの期待がわかる本です。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書誌情報
著者紹介
岡嶋 裕史(おかじま・ひろし)
現在、中央大学国際情報学部教授。研究分野は計算機システム、情報ネットワーク、情報セキュリティ、学習支援システム、エンタテインメント・ゲーム情報学。
著者が伝えたいこと
著者は「本書の目的はメタバースを知ることです。新しいものが現れる時には怖さを伴います。でも、知ることで怖くなくなります。使いこなして自分の生活を良くすることにも使えます。ビジネスチャンスを捉えて一山当てることすらできるかもしれません。メタバースは無視するにはちょっと大きな潮流です。知ることで萎縮せずに、楽しくこの大波を乗り越えましょう。」と述べています。
著者はメタバースを以下のように定義しています。
現実とは違うもう一つの世界である。「現実とは少し異なる理(ことわり)で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」――本書ではこれをメタバースと呼ぶ。(中略)
疑似現実と仮想現実の両方をひっくるめて、より大きなくくりとしてメタバースとすることもある(中略)が、本書では疑似現実=デジタルツイン、仮想現実=メタバースとして書き進めていく。
岡嶋 裕史. メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.280-294). Kindle 版.
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- プロローグ メタバースとは何か?
- 第1章 フォートナイトの衝撃
- 第2章 仮想現実の歴史
- 第3章 なぜ今メタバースなのか?
- 第4章 GAFAMのメタバースへの取り組み
- エピローグ
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
「メタバースとは何か」を読んで注目した点を3つ紹介します。
「リアルよりも仮想現実のほうがいい」というリアル
1つ目の注目点は「第1章 フォートナイトの衝撃」に書かれていた「『リアルよりも仮想現実のほうがいい』というリアル」についてです。
ここではたまたま廃墟やジェットコースター、車の運転を取り上げたが、ようはリアルよりも居心地がよかったり、リアルよりも自分の身体や精神が自在になる場所があるということだ。リアルで背が低くても、容姿が気に入らなくても、少数派であることに苦しんでいても、メタバースではそれがリセットされる。
マイナスのものをニュートラルにする発想自体がもう古いかもしれない。リアルでうまくやれていても、メタバースにより可能性や楽しさを見いだして移住する人もいる。「自分が活躍したり、寛いだりする場所は、必ずしもリアルでなくていい」と言えるほどには、メタバースは現実になっているのである。
岡嶋 裕史. メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.607). Kindle 版.
私はまだメタバースを体験していないので実感は湧きませんが、リアルでは別の地域で暮らしたり、別の仕事やコミュニティに関わると異なる体験ができるので、メタバースではそれとはまた違った体験ができることを予感させてくれる言葉でした。
eスポーツからリアルスポーツへの進出
2つ目の注目点は「第2章 仮想現実の歴史」に書かれていた「eスポーツからリアルスポーツへの進出」についてです。
eスポーツの効用はいくつもある。一部のリアルスポーツでかかる高額な費用や環境汚染を希釈できること、若年層や高齢者、低所得者、障害者などスポーツにアクセスしにくい環境、境遇にいる人たちにも参加の道を開くこと、リアルスポーツで熟達者と入門者が同じフィールドに立つことは実現しにくいだけでなく危険でもあるが(F1やサッカーを想像するとよい)、eスポーツならそれが比較的簡単に安全に行えることなどである。
岡嶋 裕史. メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1116). Kindle 版.
メタバースでは熟達者と様々な入門者が同じフィールドに立つことができるようになる、という話にはとてもワクワクします。それはゴルフで入門者がハンデをもらって熟達者とスコアを競うことができるように入門者がAIのアシストを受けて熟達者と競うことができたり、メタバースであれば物理的な場所に制限されずにより多くの機会が得られる可能性があるからです。有名プレーヤのAIロボットとメタバース上で試合できるのは楽しそうです。
「もう一つの世界:メタバース」での格差
3つ目の注目点は「第2章 仮想現実の歴史」に書かれていた「『もう一つの世界:メタバース』での格差」についてです。
もう一つの世界に移住すれば必ず幸せになれるわけではない。むしろ、自然状態では、もう一つの世界でも発揮すべき能力がなく、なじめず、敗北感と疎外感に打ちひしがれる人を大量に生むことになるだろう。私はこうした状況に対して、フィルターバブルの境界を個々人にしてしまうことで、フリクションをなくす手法があり得ると考えている。(中略)同質の人間すらバブルの中に入れない。話し相手や遊び相手が欲しくなったら、AIを立てる。
実際、RPGの旅の仲間としてスクウェア・エニックスが仲間AIと呼ぶものは、いい線をいっている。バンダイナムコが半分ネタとして実験した、自分以外すべてAIのSNS「アンダーワールド(Under World)」は心地よかった。なんの逡巡もなく自分を甘やかしてくれるイエスマンしかいないのだ。これで、人はフリクションなく人生を生きていくことができる。そちらを目指すメタバースは必ず出てくる。
岡嶋 裕史. メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1208). Kindle 版.
現在のSNS上の誹謗中傷やフィルターバブルの問題がメタバースでも起こってしまうのではないかという懸念がある。人間には多様な価値観があるので人間に対してルールを守れとか規則を守れとかいうのは限界がある。ここで提案している「フィルターバブルの境界を個々人にしてしまい、話し相手はAIを立てる」という方法は一つの解決方法になるかもしれないと感じた。
感想・口コミ・書評記事
感想
この本では、電脳コイル(2007年)、アクアゾーン(1990年代前半)、セカンドライフ(2000年代)、ファイナルファンタジーといった仮想現実や拡張現実に関する歴史、コンピュータの描画機能、モニタ解像度、反応速度、インターフェイスといった技術的な歴史が書かれており、改めて現在までの変化の過程を振り返ることができて有意義だった。
「第3章 なぜ今メタバースなのか?」では「個人の自由の拡大と権利強化はコミュニケーションを難しくする」、「小学生でも承認欲求という言葉を使いこなす」といった現在の人間社会の問題を取り上げて、筆者の経験からメタバースへの期待を述べており参考になった。
「第4章 GAFAMのメタバースへの取り組み」ではフェイスブック社がメタ・プラットフォーム社に変更しメタバースにXRを不可欠と位置付けていること、グーグルはメタバースよりはリアルに寄ったARを志向したミラーワールド、アップルはスマートグラスのAR、マイクロソフトはMR(複合現実)のミラーワールド、アマゾンはメタバースもミラーワールド対応、といった各社の状況を一通り把握し今後を予測して書かれているところが参考になった。
残念な点としては、VRChat、clusterなどソーシャルVRに関する記述や考察がなかった点が挙げられる。
口コミ
書評記事
メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~(岡嶋裕史)の書評 | 起業家・経営者のためのビジネス書評ブログ!
読書感想:メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」 | 石の舟
岡嶋 裕史『メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~』_感想 - ROBOBO’s 読書記録
参考文献
世界2.0 メタバースの歩き方と創り方:佐藤航陽(著)
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
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まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
著者は一言でいうと「メタバースとは、現実と違うもう一つの世界である」と述べています。
この本は、仮想現実と疑似現実の違い、関連技術や用途の歴史、メタバースの用途そしてGAFAMの動向まで記述されており、メタバースへの期待がわかる本です。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- プロローグ メタバースとは何か?
- 第1章 フォートナイトの衝撃
- 第2章 仮想現実の歴史
- 第3章 なぜ今メタバースなのか?
- なぜ今メタバースなのか?(1)技術的背景
- なぜ今メタバースなのか?(2)人間の変化
- 高齢者とメタバース
- メタバースはそもそも必要なのか?
- 第4章 GAFAMのメタバースへの取り組み
- I フェイスブックー最も派手にメタバースを照準
- II グーグルーメタバースを目指さない
- III アップルーGAFAMの中で最もメタバースから遠い企業
- IV マイクロソフトー仮想世界への取り組みはミラーワールド路線か?
- V アマゾンーメタバースでもその手のひら上に
- 日本企業はメタバースで生き残れるか?
- エピローグ