VR(バーチャル・リアリティ、仮想現実)のオリジン(起源)を知りたい人におすすめの史上初のVR本が大幅加筆を施し復活していたので紹介します。
約30年前の1990年頃のVRが生まれた頃の研究開発の状況から現在までをたどることによってVRの本質的な価値を探ることができます。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考情報、を紹介します。
本の概要
書誌情報
著者紹介
著者の服部桂(はっとりかつら)氏は、1978年に朝日新聞に入社。1987年から1989年まで米MITメディアラボ客員研究員。2016年に定年退職。現在は関西大学客員教授。早稲田大学、女子美術大学、大阪市立大学などで非常勤講師。
この本はVRデビュー30年というタイミングで、もともとは1991年5月に工業調査会から出版された「人工現実感の世界」に新たな文章を加えたものです。
1990年の初めにVR(Virtual Reality, バーチャル・リアリティ、仮想現実)という言葉が定まる前には、AR(Artificial Reality, アーティフィシャル・リアリティ、人工現実)とも呼ばれていた時期があり、またサイバースペース(Cyberspace)、テレプレゼンス(Tele-presence)などの言葉も表れていました。
著者は「『VR原論』のためのまえがき」で、「あれから30年近くが経ち、最近のVRブームを見るにつけ、登場人物やプレーヤーは変わったものの、最初のブームの頃に考えられていた基本的なアイデアはいまも変わらず、当時の話題になっていたのと同じようなテーマや試みが繰り返されているのを見て、この本に書かれたことは現在でも参考になるのではないかと思った。」とこの本を執筆した理由を述べています。
本の目次
この本の目次を引用して紹介します。
「人工現実感の世界」はしがき、第1章〜第4章、あとがき、まではオリジナルの形が収録されています。
それ以外は「VR原論」に新たに追加された内容で、原著が出てから30年経った現在の著者が考えるVRの意義についての新たな論考や鼎談が書かれています。
- 「VR原論」のためのまえがき
- 「人工現実感の世界」はしがき
- 第1章 人工現実感とは何か?
- 第2章 走り出した人工現実感研究
- 第3章 Reality Engine Builder 人工現実感を実現する製品
- 第4章 人工現実感の応用と展望
- あとがき
- VR30 ーーもしくは長いあとがき
- 鼎談 VR創世記を知って初めて未来が見えてきた
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
「VR原論」を読んで注目したことを3つ紹介します。
NASAエイムズ研究所の仮想環境ワークステーション(VIEW)
1つ目の注目点は「NASAエイムズ研究所の仮想環境ワークステーション(VIEW)」です。
このVIEWではヘッドマウント・ディスプレイとデータグローブを装着して、コンピューターの作り出す自分の回り360度の環境を触ったり動かしたりすることができた。
フィッシャー氏のチームはNASAで、なぜこんな不思議なものを作っているのだろうか?
「狭い宇宙ステーションの中では、複雑な操作をするためのたくさんのメーターやボタンをすべて、壁いっぱいに張りつけておくスペースはありません。もしコンピューターの作り出した部屋を作り、コンピューターによってパネルや操作盤のイメージを作り出せば、狭いスペースで多くの操作が可能になります。我々はこれを仮想環境ワークステーション(VIEW:Virtual Interface Environment Workstation)と呼んでいます。また宇宙服を着て船外活動を行う場合、VIEWを使ってヘルメット内部に情報を表示し、声などを使って複雑な作業も行えます」
服部 桂. VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.469-475). Kindle 版.
私はこれまで自分の作業環境でバーチャル360度作業環境のメリットを感じていなかったが、狭い宇宙ステーションの中を想像すると360度作業環境のメリットを感じることができた。そして改めて自分の作業環境を考えてみると、現状では物理的なディスプレイ・キーボードや机・椅子が必要という制約があるが、VRを使えばヘッドマウント・ディスプレイとコントローラと椅子だけでどこでも作業できる環境になることに気がつき将来の可能性を感じた。
エクソス社のデクストラス・ハンド・マスター(DHM)
2つ目の注目点は「エクソス社のデクストラス・ハンド・マスター(DHM)」です。
エクソス(EXOS)社のデクストラス・ハンド・マスター(DHM)は、手の20の関節の動きをホール効果センサーを使って正確に測定できる装置で、指の関節だけでなく指の相互の角度も含め、正確な測定ができる点に特徴があり、医学や人間工学の分野での身体の動きの計測や人工現実感への適用を考えていた。
MITのメディアラボでは、トッド・マコーバー助教授がハイテクを駆使した現代音楽の指揮をする手にDHMをはめ、音量や音色のコントロールを手の微妙な動きを使って行っている。これを使ったコンサートは東京で第1回公演が行われ、新しいミュージック・パフォーマンスのあり方を披露した。
また新たに作られた「グリップ・マスター」は、手に加わる圧力を測る感圧導電インキによるセンサーを採用し、腕首の動きの角度も測るセンサーをつけたモデル。ヨーヨー・マがチェロを演奏している時の手の状態の計測も行う予定だ。
部 桂. VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2822-2829). Kindle 版.
オーケストラの指揮者が指揮棒ではなく指揮する手にデバイスを装着して音量や音色をコントロールできるようになると、オーケストラの演奏はどう変わるのだろうか?指揮者はどのようなことをしたいと感じるのであろうか?コンサートでの演奏を体験してみたい、と興味を持った。
楽器演奏者の手の動きを計測するという点に興味を持った。プロの演奏者と素人の演奏者では手の動きにどのような違いがあるのだろうか。楽器演奏者の手の動きのデータをバーチャル世界にレンダリングできると、よりリアルに感じられるバーチャル世界のオーケストラを体験できるようになるだろうと夢が拡がった。
縮まる人と情報の距離
3つ目の注目点は「縮まる人と情報の距離」です。
著者はコンピュータと人間の距離感によって関係性がどう変わり、それによってどんな世界観の変容が生じるのか、歴史的な経緯を表にまとめて比較している。(以下に一部引用して掲載)
- メインフレーム:1950年〜、100m以上
- ミニコン:1965年〜、10m
- パソコン:1980年〜、1m
- モバイル:1995年〜、10cm
- ウェアブル:2010年〜、1cm
サイズ別に見た各世代は、ほぼ15年間隔で出現しており、これにムーアの法則を当てはめると性能が千倍規模で向上することで、次の世代が実現していることがわかる。そして利用者との距離も、100メートル単位から世代ごとに10分の1になっていく。主に使われる感覚は抽象的な論理から、視覚、聴覚、触覚と肌感覚に近くなっていく。距離が近くなると人間の付き合いと同じく関係性は親密になっていき、利用法はマスでパブリックなものからローカルでプライベートなものになっていく。(中略)
小さくなったコンピューターは逆に台数が増え、個々の性能は低いものの互いにネットワークでつながるようになり、全体が協調することで広域の情報を扱うようになる。これは個人がつながって形成される社会組織の姿と相似形だ。VRはこうした個人と近くなった情報環境から、人が主観的に仮想世界に入っていくための1つの方法であり、ネットワークを介して全体をも俯瞰するための方法でもある。そういう意味では現在の情報環境は、社会全体の構造や無意識を反映した巨大な鏡のような存在になりつつあると考えられる。
服部 桂. VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3987-4002). Kindle 版.
各世代がほぼ15年間隔で出現していることが興味深い。次の世代は2025年ごろと予測されるがそれはVRやARのデバイスだろうか。
コンピュータとの距離が次第に近くなっていきコンピュータが小さくなって持ち運びができるようになってどこでも使えるようになっているが、情報量は増大していて人間に扱える情報は増えていないことに対して、VRデバイスは小型化と情報量増大と操作性向上に対応する有効な解決手段になる期待がかかる。
感想・口コミ・書評記事
感想
他のVR関連書籍では簡略化して記述されているVRの起源について、研究者や研究機関など研究開発の経緯が写真付きで詳細に記述されており、またアスペン・ムービー・マップやセンソラマなど他の本には記載されていない先進的な事例が書かれているのが興味深かった。
原著に加えて、その後30年間に起きたことが本の最初と最後に新版で加筆されているので、全体としてVRの起源から現在までが分かる本になっており、VRの歴史全体を理解できた。
新版で加筆された”VR年表”は、1936年「アラン・チューリングがチューリング・マシンを提唱」から、2019年「オキュラス・クエスト発売」までのほぼ1年ごとに起きた出来事(映画・小説、製品発売、創業など)を記載しており、散らばった文章を時系列で把握できるので参考になった。
新版で加筆された”VR開発者の系譜図”は、1970年代から1990年代のコンピュータ開発・VR開発を行った研究機関・企業の系譜が整理されていて、文章に書かれている内容がより分かりやすい。
新版で加筆された”3名の鼎談(ていだん)”は、「日本のVR研究のルーツは東京電力」など当時日本のVR業界の裏話を知ることができたり、最近の大学研究では文系の学生が独学でUnityを勉強してVRを作った例とか、自分の動きをトラッキングしてバーチャルキャラクターになるVTuberの話とかを通じて、原著の時代に生まれたアイデアやムーブメントが現在どのように進化しているのかが分かり興味深かった。
口コミ
書評記事
VR歴史書【VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル】感想レビュー!
参考文献
著者、鼎談者について
服部 桂 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
書籍
マクルーハンはメッセージ メディアとテクノロジーの未来はどこへ向かうのか?:服部 桂(著)
ミライをつくろう! VRで紡ぐバーチャル創世記:GOROman(著)
この本の注目点や感想をブログ記事で紹介しています。
VRがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
VR(バーチャル・リアリティ、仮想現実)のオリジン(起源)を知りたい人におすすめの史上初のVR本が大幅加筆を施し復活していたので紹介します。
約30年前の1990年頃のVRが生まれた頃の研究開発の状況から現在までをたどることによってVRの本質的な価値を探ることができます。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- 「VR原論」のためのまえがき
- 「人工現実感の世界」はしがき
- 第1章 人工現実感とは何か?
- 人工現実感の世界へようこそ
- 鏡の国への旅 〜3人の祖父達の軌跡
- 人工現実感をどうとらえるか
- 第2章 走り出した人工現実感研究
- ロボットと人間が一体になる日 〜通産省工業技術院機械技術研究所
- 軍事用遠隔制御ロボット、グリーンマン 〜アメリカ海軍海洋システムセンター
- 分子の世界のテレロボティクス 〜東京大学工学部畑村研究室
- 多目的仮想環境ワークステーションの開発 〜アメリカ航空宇宙局エイムズ研究所
- 生産現場にやってくる人工現実感 〜東京大学工学部廣瀬研究室
- 医学・化学分野で実用化を目指すビジュアリゼーション 〜ノースカロライナ大学コンピューター・サイエンス学部
- ”北のシリコンバレー”で進む仮想世界コンソーシアム 〜ワシントン大学HITラボ
- コンピューター・インターフェースに人工現実感を応用 〜IBMワトソン研究センター
- 仮想物体の手触りを伝えるバーチャル・サンドペーパー 〜MITメディアラボ
- 空圧による仮想触覚研究 〜ラトガーズ大学
- 手足で触れるコンピューター・グラフィックス 〜筑波大学構造工学系岩田研究室
- 立体情報をコンピューターに伝える3次元マウス 〜東京工業大学佐藤研究室
- 時空を超えた臨場感通信 〜ATR通信システム研究所知能処理研究室
- 情報の理解を伝える 〜AT&Tベル研究所マシンパーセプション部門
- "As We May Think"の通信技術開発 〜NTTヒューマンインタフェース研究所
- 第3章 Reality Engine Builder 人工現実感を実現する製品
- VPL社 〜データグローブ、アイフォン、RB2ほか
- エクソス社 〜デクストラス・ハンド・マスター
- バーチャル・テクノロジー社 〜サイバーグローブ
- オートデスク社 〜サイバースペース・プロジェクト
- センス8社 〜ワールドツール
- ポップオプティクス研究所 〜LEAPシステム
- コンセプト・ビジョン・システムズ社 〜ARVIS
- インターナショナル・テレプレゼンス社 〜ステレオプティクスシリーズ
- フェーク・スペース研究所 〜Molly, BOOM
- シムグラフィックス社 〜フライング・マウス
- ティ・ニ・アロイ社 〜触覚を伝えるデバイス
- 第4章 人工現実感の応用と展望
- 創世紀から幼年紀へ
- 街へ出た新しい現実
- レッドウッドのコロンバス・デイ 〜VPL社ジャロン・ラニアー氏との一日
- ビッグ・ピクチャー
- 鏡の中の生態系
- あとがき
- VR30 ーーもしくは長いあとがき
- 鼎談 VR創世記を知って初めて未来が見えてきた
- 服部桂(著者)
- 廣瀬通孝(東京大学教授 東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター長
- GOROman(近藤義仁、株式会社エクシヴィ代表取締役社長)