昨今、企業や政治での女性比率についての問題提起など「多様性が重要だ」という言葉を耳にする機会が増えています。
なぜ多様性が必要か?、多様性がないと何が問題なのでしょうか?
そんな疑問について、科学的な根拠を持って述べている本です。
本の概要、注目点と感想、口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
日本語版
原著(英語版)
筆者が伝えたいこと
この本のテーマは「多様性」です。考え方が異なる人々の集団がもたらす大きな力を様々な角度から検討しています。
本書では、複雑な物事を考えるときには、一歩後ろに下がって、それまでとは違う新たな視点からものを見る必要があることを述べています。
本の目次
この本の目次を引用して紹介します。
- 第1章 画一的集団の「死角」
- 第2章 クローン対反逆者
- 第3章 不均衡なコミュニケーション
- 第4章 イノベーション
- 第5章 エコーチャンバー現象
- 第6章 平均値の落とし穴
- 第7章 大局を見る
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点と感想
画一的な集団が犯しやすい危険
1つ目のポイントは、「画一的な集団が犯しやすい危険」です。
米コロンビア・ビジネス・スクールのキャサリン・フィリップス教授が被験者を特定のグループに分け、複数の殺人事件を解決するという課題を与える実験を紹介しています。
- 「友人3人と他人1名」グループの正解率75%、「4人の友人」グループの正解率54%、「個人」の正解率44%と、他人を含めたグループの方が高い成績を上げた。
- 他人を含めた多様性があるグループの話し合いは、多角的な視点でさまざまな議論がなされ、反対意見も多く出たため、大変だったと感じ、自分たちの答えには強い自信を持っていなかった。
- 一方、4人の友人という画一的なグループの体験は、みな似たような視点で互いに同意し合うことほとんどだったから、気持ち良く話し合いができたと感じ、自分たちの答えにかなりの自信を持っていた。
彼らは異なる視点を取り入れられないまま、自分たちが正しいと信じた。画一的な集団が犯しやすい危険はこれだ。重大な過ちを過剰な自信で見過ごし、そのまま判断を下してしまう。
マシュー・サイド(2021).多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 ディスカバー・トゥエンティワン 第1章画一的な集団の「死角」
この実験結果を聞いてあまり重大なことに感じないかもしれません。しかし、画一的な集団がもっと重大な複雑な課題に取り組んでいるとしたらどうでしょうか?
本書の中では、9.11の数年前から発生していた危機の兆候を当時のCIAが有能ではあるが画一的な視点だったために察知できなかったことを実例として挙げています。
また、たとえ最初は多様性に富む集団でも、そのうち主流となる考え方に「同化」してしまうことや、集団には本質的に「クローン化」する傾向が備わっており、個人個人は頭脳明晰でも同じ枠組みの人ばかりが集まると近視眼的になるということも指摘しています。
画一的な集団が犯しやすい危険を回避するためには、難問に挑む前に認知的多様性を実現することが欠かせない、と述べています。
大事なのは、一歩下がってこう考えることだ。我々がカバーできていないのはどの分野か? 無意識のうちに「目隠し」をして盲点を作ってしまっていないか? あるいは画一的な人間ばかりで問題空間の片隅に固まっていないか?
マシュー・サイド(2021).多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 ディスカバー・トゥエンティワン 第2章クローン対反逆者
支配型ヒエラルキーがコミュニケーションを阻害する
2つ目のポイントは「支配型ヒエラルキーがコミュニケーションを阻害する」です。
心理学者と人類学者の意見や、1978年のユナイテッド航空173便と1996年のエベレスト遭難の事例を紹介しています。
心理学者と人類学者によると「ヒエラルキーにまつわる感情や言動は人間の頭や心の奥深くにプログラミングされ、我々はその存在にほぼ気がつかずに生きている」と述べています。
見知らぬ5人を1部屋に集めて1つの課題に取り組ませる実験をすると、たちまちヒエラルキーが形成される。しかも面白いことに、そのグループを外から観察する別の被験者は、5人の声さえ聞こえない状態で表情やしぐさだけを見て、誰がどのポジションにいるのか的確に当てられるという。
ヒエラルキーは意図的に形成する場合もあるが、人間はそもそもこういう生き物なのだ
マシュー・サイド(2021).多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 ディスカバー・トゥエンティワン 第3章不均衡なコミュニケーション
単純な問題ならリーダーが決定を下してほかの者が従うほうが迅速に一体となって行動できるので理にかなっているが、問題が複雑になると、支配的な環境が悪影響を及ぼす場合がある、と述べています。
1978年ユナイテッド航空173便では機長と副操縦士とのコミュニケーション・ロスが惨事を招いたこと、1996年のエベレスト遭難では登山隊のリーダーとゲストとのコミュニケーション・ロスが惨事を招いたことを事例として紹介しています。
問題が複雑になると、支配的な環境が悪影響を及ぼす場合がある。ここまで見てきたように、集合知には多様な視点や意見――反逆者のアイデア――が欠かせない。ところが集団の支配者が、「異議」を自分の地位に対する脅威ととらえる環境(あるいは実際にそれを威圧するような環境)では、多様な意見が出にくくなる。ヒエラルキーが効果的なコミュニケーションの邪魔をするのだ。
マシュー・サイド(2021).多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 ディスカバー・トゥエンティワン 第3章不均衡なコミュニケーション
平均値の落とし穴
3つ目のポイントは「平均値の落とし穴」です。
1950年代アメリカ空軍ジェット機のコックピットの設計はパイロットの体格の平均値に合わせて、座席の高さ、ペダルやギアの位置、フロントガラスの高さ、ヘルメットの形などがすべて決められていたが、算出した平均値に当てはまるパイロットが実際にどの程度いるかを調べた結果を紹介しています。
- 測定部位10カ所すべてが許容範囲に収まったパイロットの数はゼロ
- 測定部位3カ所(たとえば首、太もも、腕まわりの長さ)とも許容範囲内に収まるパイロットは全体の3.5%に満たなかった
コックピットの設計は、たんに身長だけの問題ではない。胸囲、腕の長さ、足の長さ、座高の高さなどさまざまな要素を考慮する必要がある。どこか1カ所(たとえば首まわり)が大きければほか(たとえば腰まわり)も大きいと考えるのは簡単だが、実際は関連性が薄い。つまり平均値は、多様性を覆い隠してしまうのだ。
マシュー・サイド(2021).多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 ディスカバー・トゥエンティワン 第6章平均値の落とし穴
この測定結果から学び、コックピットのほうを個人個人の多様な体格に合わせる設計に変えたところ、事故は激減しアメリカ空軍の安全実績は飛躍的に向上した、と紹介しています。
空軍のコックピットに限らず、我々の社会ではさまざまな物事(標準化された教育カリキュラム、標準化された勤務形態、標準化された政策、標準化された治療方法...)が標準化されており、どれも人間の多様性を考慮し損ねていて、多様性のメリットを得られていない、と述べています。
食生活の標準ガイドラインについて、「血糖値の変化は一人ひとり違う」「みんなDNAが違って、代謝機能もばらばら」で、ある人にとって悪いものが、ほかの人にとっては良いものになる実験結果を紹介しています。
コールセンターの事例では、自分できちんと考えた上でマニュアルから離れた対応をした従業員が、問題の解決や売り上げに高い業績を上げていたことを紹介しています。
口コミ・書評記事
口コミ
Twitter口コミを紹介します。
書評記事
書評記事を紹介します。
【要約】多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 |本のまとめ。 - Dolly Blog
参考文献
本書の参考文献になっていた本をいくつか掲載します。
「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき:スコット・ペイジ(著)
「第2章 クローン対反逆者」で引用されている。
平均思考は捨てなさいーー出る杭を伸ばす個の科学:トッド・ローズ(著)
「第6章 平均値の落とし穴」で引用されている。
ブログ記事を書きましたので参考にしてください。
存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く:キャロライン・クリアド=ペレス(著)
「第6章 平均値の落とし穴」で引用されている。
WORK DESIGN(ワークデザイン)行動経済学でジェンダー格差を克服する:イリス・ボネット(著)
「第7章 大局を見る」で引用されている。
ブログ記事を書きましたのでご覧ください。
まとめ
本の概要、注目点と感想、口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
注目点は以下の3つです。
- 画一的な集団が犯しやすい危険
- 支配的なヒエラルキーがコミュニケーションを阻害する
- 平均値の落とし穴
いずれも現在の社会・地域・企業の活動、自分の身の回りの出来ごとを思い起こしてみると、当てはまることが思い浮かびます。
多様性がないことに起因する問題を回避し、考え方が異なる人々の集団がもたらす大きな力を活かす方法を考えてイノベーションを起こしたい人にぜひ一読してほしい本です。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- 第1章 画一的集団の「死角」
- 取り返しがつかない油断が起こるとき
- 人材の偏りが失敗を助長している
- 多様性は激しい競争を勝ち抜くカギだ
- 異なる視点を持つ者を集められるか
- 画一的な組織では盲点を見抜けない
- CIAの大きなミス
- 多様性が皆無だった当時のCIA
- 第2章 クローン対反逆者
- なぜサッカー英国代表に起業家や陸軍士官が集められたのか
- 人頭税の大失敗
- 町議会の盲点はこうして見抜かれた
- ウサイン・ボルトが6人いても勝てない
- 精鋭グループをも凌いだ多様性のあるチーム
- 女性科学者には男性科学者が見えないものが見えた
- なぜ暗号解読に多様性が必要なのか
- 第3章 不均衡なコミュニケーション
- 登山家たちを陥れた小さな罠
- 機長に意見をするより死ぬことを選んだ
- 落とし穴を作った小さなヒエラルキー
- 反逆的なアイデアが示されない会議なんて懐疑的だ
- Googleの失敗
- 無意識のうちにリーダーを決めてしまう罠
- 第4章 イノベーション
- 世紀の発明も偏見が邪魔をする
- イノベーションには2つの種類がある
- 世界的に有名な起業家たちの共通点
- そのアイデアが次のアイデアを誘発する
- なぜルート128はシリコンバレーになれなかったのか
- 社員の導線までデザインしたスティーブ・ジョブズ
- 第5章 エコーチャンバー現象
- 白人至上主義
- 数と多様性の逆説的結果
- 信頼は人を無防備にする
- 極右の大いなる希望の星
- 傷つけるべきではなかった人々
- 政治的信条の二極化はこうして起こる
- 第6章 平均値の落とし穴
- 我々がダイエットの諸説に惑わされる理由
- 標準規格化されたコックピット
- 標準化を疑う眼があなたにはあるか?
- 硬直したシステムが生産性を下げ、離職率を上げる
- 独自の環境を作ることで才能は開花する
- 標準を疑え!食事療法は一人ひとりで異なっている
- 第7章 大局を見る
- 個人主義を集団知に広げるために何ができるか?
- 人類は本当に他の生物に優っているのか?
- 人間が唯一優れている能力とは?
- 日常に多様性を取り込むための3つのこと
- 自分とは異なる人々と接し、馴染みのない考え方や行動に触れる価値
- 変われるか、CIA