世界のWeb3トップランナーが経験して得た知見と10年後の将来像や、日本のWeb3における課題と対策の示唆など、濃い内容が詰まっている本です。
すでに1冊以上Web3本を読んだ人・Web3プロジェクトに関わっている人・日本のWeb3を推進する人が、Web3の今を感じてこれから実践するために一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書誌情報
著者紹介
馬渕 邦美(まぶち・くにみ) 監修/執筆
2020年よりPwCコンサルティング合同会社マネージングディレクター、2022年よりパートナー / 執行役員。東京大学工学部産学連携協議会委員、一般社団法人Metaverse Japan代表理事。
絢斗 優(あやと・ゆう) 執筆
Vportal Founder。アーティストとしての経歴とブロックチェーン業界の知識を生かし、多業界の橋渡し役として活動。日本最古のNFTカンファレンスNonFungibleTokyo、チャリティープラットフォームKIZUNAの事務局として活動。
藤本 真衣(ふじもと・まい) インタビュイーアレンジ、執筆
株式会社グラコネ代表取締役。日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」、ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
「現時点でWeb3に課題があるのは確かですが、Web3は極めて有望であり、国家、社会インフラ、産業、生活に大きなインパクトを与えていくと考えられます。Web3のポテンシャルを有する日本は、その波をうまく捉え、社会や生活、産業に役立てていくことが必要だと思います。」
「本書は、Web3のトップランナーたちとのインタビューで構成しています。読者の皆さんの力をWeb3の拡大に生かしていただきたく、特に日本向けの示唆を引き出していますので、ぜひご活用ください。」
「Web3自体は現在進行形でアップデートされ続けており、時代とともに変化していくものです。だからこそ、この本ではWeb3を事典的に解説するのではなく、Web3の最前線で活躍している世界のトッププレーヤーたちとの対談を通して、Web3の『今』を読者に感じてもらうことを目的としています。」
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- プロローグ
- 第1章 概論:Web3は、社会を再定義する
- 第2章 日本のWeb3スタートアップはグローバルへ向かう
- interview with Astar&Shinden Network 渡辺創太
- 第3章 NFTのもたらす世界観
- interview with Animoca Brands Yat Siu
- 第4章 ゲームギルドのWeb3エコシステム
- interview with Yield Guild Games Gabby Dizon
- 第5章 DAOが企業組織のゴールをアップデートする
- interview with Polygon Kathleen Chu(元Maker Foundation)
- 第6章 メタバースとWeb3がもたらす新経済圏
- interview with Decentraland Esteban Ordano
- 第7章 グローバルWeb3事業者の成長の軌跡
- interview with ENS 井上真
- 第8章 日本のIP、Web3へのアプローチ
- interview with Minto 水野和寛
- 第9章 DAOが作り出す社会変革
- interview with 野口悠紀雄
- 第10章 Web3のガバナンス
- interview with アンダーソン・毛利・友常法律事務所 長瀬威志
- エピローグ
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
この本を読んで注目した点を3つ紹介します。
Web3による投資先のネットワーク効果、Web2との相違
1つ目に注目した点は、「第3章 NFTのもたらす世界観」に書かれている「Web3による投資先のネットワーク効果、Web2との相違」です。
第3章では、Animoca社のYat Siu氏にインタビューしており、Web3関連のニュースでよく聞く会社であったので投資先の考え方の話は興味深いです。
著者(インタビューワー)は「投資先同士で競合したり、領域が重複したり、逆に投資すべき領域に空白が生じるという懸念もあるでしょう。」と問いかけ、Yat Siu氏は以下のように答えています。
投資会社としては、ゼロサムの結果が得られるような環境で構築する場合のみ、競合になります。しかし、ブロックチェーンの特性から、チェーン上に構築すればネットワーク効果があり、ゼロサムの結果にはならず、むしろ成果が共有されます。
(中略)LooksRareが成長して利益を得た時に何が起こったというと、実はNFTマーケットプレイスの取引トラフィックが増えているのです。
(中略)つまり、似たような業種のプラットフォームを複数の主体が構築すると、実は誰もが恩恵を受けることができるのです。一部の人は他の人よりも恩恵を受けますが、エコシステム全体が活性化されることで、結果として誰もが恩恵を受けられるのです。
馬渕 邦美,絢斗 優,藤本 真衣. Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア (Japanese Edition) (pp.75-76). Kindle 版.
IPホルダー視点での勝ち筋
2つ目に注目した点は、「第8章 日本のIP、Web3へのアプローチ」に書かれている「IPホルダー視点での勝ち筋」です。
第8章では、Minto社の水野和寛氏にインタビューをしており、2018年からWeb3でのキャラクターライセンスビジネスに取り組んでいる話は興味深いです。
著者(インタビューワー)は「グローバルな市場では、有力プレイヤーによるIP取得や活用、組織間連携などを含めて、IPステージでの競争が激化すると考えられます。そのような中で、この分野で優位性を保つために必要なことはなんでしょうか。」と問いかけ、水野和寛氏は以下のように答えています。
どのメタバースプラットフォームが勝つかというより、複数のメタバースプランニングが出てきて、その中でそれぞれの特徴を生かしたコンテンツやコミュニティーができてくると思っています。
IPホルダーの視点で言うと、そこにどうフィットさせるコンテンツを提供するかであり、誰とどう組んでいくかというところで、自分たちのブランドをより高めていくことをしっかりとプレゼンスしていけばいいと思っています
馬渕 邦美,絢斗 優,藤本 真衣. Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア (Japanese Edition) (p.177). Kindle 版.
Maker DAOをモデルとした、考えられるDAOの方向性
3つ目に注目した点は、「第10章 Web3のガバナンス」に書かれている「Maker DAOをモデルとした、考えられるDAOの方向性」です。
第10章では、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の長瀬威志氏にインタビューしており、DAOに関する法規制についての話は興味深いです。
著者(インタビューワー)は「既存の企業的機能を有するDAOや、既存企業から権限移譲や既存企業との役割分担を行うDAOがあります。法規制や企業のガバナンスの点から、こうしたDAOの現状や今後はどうあるべきで、また現実どうなっていくのでしょうか。」と問いかけ、長瀬威志氏は以下のように答えています。
IPや規制の視点から、本社機能をグローバルで最適な立地に置くことは考えられます。しかし現状でも、暗号資産の規模は金融規制から逃れられない規模になっています。
そのような状況で、DAOで自律分散を指向するのであれば、いったんは中央集権的にトークンエコノミーを構築した上で、MakerDAOのように最終的に清算するといった方法しかないと思います
馬渕 邦美,絢斗 優,藤本 真衣. Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア (Japanese Edition) (p.227). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
プロローグと第1章でWeb3の現状認識を説明し、第2章から第10章までの各章は(1)これまでの経緯(2)事業や開発の状況(3)インタビュー(4)まとめ、で構成されており、単にインタビュー会話の書き起こしではなく、インタビューでの問いと答えに込められているコンテクストが伝わる工夫がされており、最初から最後まで興味深く読むことができました。
インタビューの中では「10年後の将来像」を問いかけており、「10年後は今の活動はしていない姿にしたい」とか「10年で実現できないので10年後も会社を続けている」など、Web3トップランナーの考え方や将来像を引き出して、それぞれの違いや共通する点が浮き彫りになっていて興味深かった。
特に第1章、第8章、第10章では、インタビューから得られた知見が表の形でまとめられており、日本のWeb3における課題の把握や対策の示唆が書かれているので、日本のWeb3を推進する人にとって役立つ資料にもなっている。
世界のWeb3トップランナーについて、クリプトの世界に入るまでの経歴・経験から10年後の将来像まで一冊の本で読むことができて、それぞれの事業やプロジェクト、そしてWeb3により一層、興味・関心を抱き、理解を深めることができた。
すでに1冊以上Web3本を読んだことがある人や、すでにWeb3のプロジェクトに関わっている人、日本のWeb3を推進する人に、一読をおすすめします。
口コミ
書評記事
【書評・要約】Web3新世紀|Web3のトップランナーが目指す世界 | いしいしブログ
参考文献
この本の参考文献に記載されている本などを紹介します。
ブロックチェーン革命:野口悠紀雄(著)
「第9章 DAOが作り出す社会変革」の冒頭で、著者は「野口悠紀雄氏は、早い時期からブロックチェーン技術の活用と特に暗号資産への応用に注目し、その動向が社会の基本的な構造を大きく変える潜在力があることを示していました。」と引用されています。
リモート経済の衝撃:野口悠紀雄(著)
「第9章 DAOが作り出す社会変革」の「Web3におけるNFTの位置付け」や「Web3とメタバース」の中で、「メタバース内で収益活動が可能になった場合の課税をいかに行うかも重要と指摘しています。」などと引用されています。
ブロックチェーンの衝撃:馬渕邦美(著)
「第9章 DAOが作り出す社会変革」の「Web3におけるDAOの重要性と新たな方向性」の中で、「一切人を解さずに自動的にビジネスを回していくDAC(Decentralized Autonomous Company)にも注目が集まりつつあります。」と引用されています。
Q&A 実務家のための暗号資産入門 -法務・会計・税務-:長瀬威志ほか(著)
参考文献として引用はされていませんが、「第10章 Web3のガバナンス」でインタビューを受けた、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の長瀬威志氏ほかが執筆した本です。
Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」:亀井 聡彦, 鈴木 雄大, 赤澤 直樹(著)
Web3というインターネットの転換点と、その背景にあるDAOという新しいコミュニティについて、概要・本質・哲学を、インターネットの歴史を振り返りながら解説している本です。
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
Web3がわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
世界のWeb3トップランナーが経験して得た知見と10年後の将来像や、日本のWeb3における課題と対策の示唆など、濃い内容が詰まっている本です。
すでに1冊以上Web3本を読んだ人・Web3プロジェクトに関わっている人・日本のWeb3を推進する人が、Web3の今を感じてこれから実践するために一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- プロローグ
- text by 馬渕邦美
- Web3に関わる動向と日本の現状
- Web3の定義
- Web3を特徴づける分散型自律組織DAO
- 課題はあるが、Web3の世界に一歩踏み出すべき
- 第1章 概論:Web3は、社会を再定義する
- text by 絢斗優
- Web3の基盤技術の状況
- 重要キーワード(1)DeFi 金融革命
- 重要キーワード(2)DAO 組織形態革命
- 重要キーワード(3)NFT 所有革命
- 日本企業、日本人にチャンスはあるのか
- 第2章 日本のWeb3スタートアップはグローバルへ向かう
- interview with Astar&Shinden Network 渡辺創太 / text by 馬渕邦美
- 起業までの経緯
- パブリックブロックチェーン、ポルカドットを選んだ理由
- ロックドロップの採用とその背景
- シンガポールでの法人運営と米国での事業展開志向、人員配置
- 10年後の自身の将来像とその基盤にある過去の経験
- 組織の将来像と規制や人材の点から日本が変化する必要性
- Web3に対するモチベーションと乗り越えるべき壁
- 日本の法規制や税制で望まれる対応
- 日本の課題と競争力強化について
- 第3章 NFTのもたらす世界観
- interview with Animoca Brands Yat Siu / text by 絢斗優
- 暗号資産の世界に入るまでの経歴
- Animoca社の投資会社としての役割
- Web3による投資先のネットワーク効果、Web2との相違
- メタバース、NFTとWeb3、日本における機会
- 10年後の将来像
- 日本の読者に向けてのコメント
- 第4章 ゲームギルドのWeb3エコシステム
- interview with Yield Guild Games Gabby Dizon / text by 絢斗優
- YGGのエコシステムとDAOの役割
- インタビュー対象者の経歴とYGGの設立
- DAOの方向性、コミュニティーとの関係
- 10年後の将来像
- 他組織との提携、NFTを含む投資について
- 日本での事業展開と日本のIPの可能性
- 第5章 DAOが企業組織のゴールをアップデートする
- interview with Polygon Kathleen Chu(元Maker Foundation)/ text by 絢斗優
- MakerDAOに参加しようと思った理由とそれまでの経緯
- MakerDAOとMaker Foundationについて
- Maker Foundationの解散とMakerDAOの展開
- 財団とDAOの関係性と創業者の動向を通じた10年後の見通し
- 自身のモチベーションについて
- MakerDAOを通じて見るDAOの未来
- 第6章 メタバースとWeb3がもたらす新経済圏
- interview with Decentraland Esteban Ordano / text by 絢斗優
- Decentralandの開発過程と特徴
- 企業などどの提携、プロジェクトの動向
- 創業者の経緯とDecentraland開始の理由
- 2017年のICO化以降の経緯
- 財団とDAOの役割分担と組織構造
- NFTの相互運用性について
- NFT、メタバースの想定する用途
- Decentralandの人気の理由
- 10年後の将来像
- 第7章 グローバルWeb3事業者の成長の軌跡
- interview with ENS 井上真 / text by 馬渕邦美
- ENSの特徴
- ENSとの出合い
- VC、ICOなしの資金調達と非営利での運営の背景
- ベストプラクティスを活用してのDAO化
- デジタルID、アイデンティティーとENSの活用
- ENSに移った時のモチベーション
- ENSの課題とDAO化の在り方
- 井上氏自身のポジション変化と組織のインセンティブ方策
- DAOとTNLの役割と意思決定における課題
- 10年後の将来像
- DAOと企業の共存にみるWeb3時代の新しい方向性
- 第8章 日本のIP、Web3へのアプローチ
- interview with Minto 水野和寛 / text by 馬渕邦美
- 水野社長の経歴と会社の動向
- NFTとの関わりからクリプトクリスタルが成功するまで
- クリプトクリスタルの事業展開とCC0採用の背景
- 日本企業が保有しているIPとWeb3の相性
- グローバル展開を目指すWeb3ベンチャーとの連携やIP戦略
- 10年後に想定するビジネス展開
- IPホルダーの視点での勝ち筋
- Web3企業としての事業展開の方向と日本の法制に望むこと
- 日本のIPの可能性と課題、Web3企業との連携の必要性
- 日本のIPのマーケティング
- Web2.0の宿題をWeb3で解決する
- 日本の課題と競争力強化の方向性
- 第9章 DAOが作り出す社会変革
- interview with 野口悠紀雄 / text by 絢斗優
- ブロックチェーン技術が実現するDAOとDeFiの重要性
- 自律分散と中央集権の両極端に進むマネーの世界
- Web3におけるNFTの位置付け
- Web3とメタバース
- Web3におけるDAOの重要性と新たな方向性
- 第10章 Web3のガバナンス
- interview with アンダーソン・毛利・友常法律事務所 長瀬威志 / text by 馬渕邦美
- 暗号資産やNFTへの関わりの背景、経緯
- NFTによる業界の広がりと法的対応、その問題点
- NFTゲームの賭博性や児童労働に対する懸念
- NFTアートやコレクタブルの証券性に関する米国の検討
- 昨今の社会情勢から懸念される影響
- 伝統的な企業や金融機関との取引、関連規制が、Web3普及の課題
- MakerDAOをモデルとした、考えられるDAOの方向性
- Web3のコンセプトと、目指すべき方向性
- メガバンクのNFTへの参入検討
- 起業家が海外に行かずに、日本で起業し成長できるような仕組み
- Web3xメタバースで生じる法律的問題
- インタビュー結果と海外での動向から見た、求められる法規制の方向性
- Web3の安全性やコンプライアンスに係る企業や市場の成長
- エピローグ
- text by 藤本真衣
- 多くの人々の働き方や生き方を変えるWeb3
- Web3社会は、お金ではなく、行動によって評価される
- 「本来個人に属するべき権利を取り戻す」Web3