Web3(ウェブスリー)と、その要素であるトークンエコノミー、NFT、DeFi、DAOについて、概要や分類・仕組み、既存の技術との違い、課題と今後まで、簡潔な文章で豊富な内容を解説している本です。
これからWeb3に本格的に取り組みたいと考えている、すべてのビジネスパーソンから次の時代を作る若い世代の人に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書誌情報
著者紹介
田上 智裕(たがみ・ともひろ)
株式会社techtec 代表取締役
KAGEROU Lab Pte. Ltd. CEO
2018年に株式会社techtecを創業。学びながらトークンを獲得できる学習サービス「PoL(ポル)」を手掛ける。2020年10月には英企業から日本初となるDeFi関連の資金調達を実施。日本におけるWeb3、DeFiの規制環境を整備すべく、2021年2月にJapan DeFi Alliance(一般社団法人DeFi協会)を設立。(著者紹介より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
「トークンエコノミー、NFT、メタバース、DeFi、DAO‥‥‥Web3を構成するこれらの要素は、現在の当たり前を大きく変えていきます。本書は、そんな未来の当たり前に乗り遅れないためのバイブルを作るべく出版されました。」
「今の時代を作るすべてのビジネスパーソンから、次の時代を作る若い世代にまで、幅広く読んでもらえるよう意識して執筆しました。」
「これからの社会を作っていくのは、僕たち次の世代です。何か事業のヒントになることや、新しいビジネスチャンスを掴むためのきっかけになれば幸いです。」
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめに
- Chapter1 Web3がインターネットの世界を変える
- Chapter2 トークンエコノミーが新しい経済圏を作る
- Chapter3 NFT発行の仕組みとメタバースの分類
- Chapter4 DeFiが金融サービスを変革する
- Chapter5 DAOで実現する新しい自律分散型組織
- Chapter6 Web3を実現するブロックチェーンの仕組み
- Chapter7 日本のWeb3の未来
- おわりに
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
この本を読んで注目した点を3つ紹介します。
ステーブルコイン
1つ目に注目した点は「Chapter2 トークンエコノミーが新しい経済圏を作る」の「Lesson10 トークンエコノミーの形成にはトークンの種類を知るのが必須」に書かれている「ステーブルコイン」です。
「ステーブルコイン」という言葉は聞いたことがありましたが、この本にはステーブルコインの目的と種類が簡潔に書かれていて理解が深まりました。
著者は、ステーブルコインを以下のように説明しています。
「ステーブルコインは、価格変動の少ないトークンであり、ユーティリティトークンやNFTのようなボラティリティ(価格変動性)がほとんどありません。」
「元々、ビットコインなどの暗号資産の価格変動が大きいことから、決済用途で使用しづらい点を解消するために開発されました。」
そして著者は、ステーブルコインは大きく分けて3種類存在するとして、それぞれ以下のように述べています。
1つ目は、米ドルや日本円などを担保に発行される法定通貨担保型のステーブルコインです。すでに世界中で安定的に流通している法定通貨を担保に発行されるため、価格変動を最も抑えることができます。
2つ目はETHやBATなど他のトークンを担保に発行される暗号資産担保型のステーブルコインです。法定通貨担保型ほどの価格の安定性は期待しづらいものの、法定通貨担保型が間接的にでも各国政府や中央銀行に依存することになることから、DeFiなどでは暗号資産担保型のステーブルコインが人気を集めています。
3つ目は担保資産を必要としない無担保型のステーブルコインです。無担保型では、流通量と新規発行量をアルゴリズムによって調整することで価格を安定させています。担保資産が存在しないため外部要素の影響を受けづらく、分散性や拡張性に長けている点が特徴です。
田上 智裕. いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界 (「いちばんやさしい教本」シリーズ) (Japanese Edition) (p.78). Kindle 版.
教育と金融が直接つながるStudyFiという新市場
2つ目に注目した点は「「Chapter2 トークンエコノミーが新しい経済圏を作る」の「Lesson12 ゲーム、教育、スポーツ、行政。広がるトークンサービスの実例」に書かれている「教育と金融が直接つながるStudyFiという新市場」です。
教育分野でのトークンエコノミーの例として、「Learn to Earn(学ぶと稼げる)」や「修了証NFT」は聞いたことがありましたが、「StudyFi」という言葉は初めて知りました。
著者は、StudyFiが対象としている問題を以下のように説明しています。
「従来の金融サービスの場合、銀行で資金を借り入れる際にはその人の所得や家庭環境、学歴や職歴などが重視され、各人が異なる利率のもとに資金を借り入れています。」
「この仕組みでは、本当に資金を必要としている低所得層の人に、低い利率で資金を貸し出すことができず、格差は広がる一方です。」
このような問題に対してStudyFiは、どのような仕組みで、どのような目的を目指すのかを、著者は以下のように述べています。
StudyFiでは、資金を借り入れる際の判断要素として、学習歴を使用する試みが行われ始めています。
学歴や職歴、そして所得に頼らずに新たな指標として学習歴を参照することで、誰もが平等な条件のもとに資金を借り入れることができます。
なぜなら、学習歴であれば人生の途中からでも挽回することが可能であり、努力次第で格差を埋めることができるからです。
StudyFiの仕組みを活用することで、本当に資金が必要な人は努力次第で借り入れ時の利率を下げることが可能となり、DeFiの本質である金融包摂の実現にも近づきます。
田上 智裕. いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界 (「いちばんやさしい教本」シリーズ) (Japanese Edition) (pp.90-91). Kindle 版.
ハイブリッドNFTであるSFTとは
3つ目に注目した点は、「Chapter3 NFT発行の仕組みとメタバースの分類」の「Lesson 14 ブロックチェーンでデジタル資産の一意性を実現」に書かれている「ハイブリッドNFTであるSFTとは」です。
「SFT(Semi-Fungible Token)」という言葉は初めて知りました。
著者は「SFT」がどのような使い方ができるのかを以下のように説明しています。
イーサリアム上のNFTは、ERC-721だけで発行されるわけではありません。ERC-721以外にも、NFTを発行するための規格は用意されています。中でも代表的なのがERC-1155です。
ERC-1155は、SFT(Semi-Fungible Token)を発行するための共通規格です。2018年6月に、NFTをより多くのシーンで使えるように拡張する形で設計されました。
ERC-1155によって発行されたトークンは、「ユーティリティトークンの要素を持ったNFT」と表現できます。
ユーティリティトークンともNFTとも互換性がある点が特徴で、暗号資産取引所とNFTマーケットプレイスの両方で扱うことができます。また、NFTをユーティリティトークンと直接交換することもでき、暗号資産ウォレットで管理することも可能です。
田上 智裕. いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界 (「いちばんやさしい教本」シリーズ) (Japanese Edition) (pp.109-110). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
Web3、そしてその要素であるトークンエコノミー、NFT、DeFi、DAO領域について、わかりやすい文や図による説明から入って、概要や仕組みを説明するだけでなく、既存の技術との違いや、課題と今後(最新動向)まで解説されており、簡潔な文章であるが豊富な内容が詰まって書かれている。
例えば、私がこの本を読んで初めて知った言葉には、注目点にあげた「StudyFi」「SFT」だけでなく、NFTの今後に書かれていた「NFT-Fi」「EIP-29」「分散型オラクルChainlink」などがあり、さらに詳しく調べてみようと思った。
DeFi(Decentralized Finance, 分散型金融)については、ひとつのChapterを割いて誕生の歴史から具体例まで解説しており、これまでのWeb3本の中では一番詳しく書かれていたので、DeFiについて理解が深まった。
この本を一通り読むことによって、Web3に関する概念構造が頭の中にできて、Web3の最新動向をTwitterやニュースで見る場合の興味や理解が変わっていくと思う。
これからWeb3に本格的に取り組みたいと考えている人が最初に一通り読んで、適宜読み返しながらWeb3の知識を深めていくのに良い本だと感じた。
とても多くの言葉が登場してくるので、本の巻末に索引があると、さらに「教本」として使いやすくなると思った。
口コミ
書評記事
書籍「いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界」の回収について - インプレスブックス
改訂版の出版を期待しています。
参考文献
この本には参考文献が記載されていなかったので、関連する本を紹介します。
いちばんやさしいブロックチェーンの教本 人気講師が教えるビットコインを支える仕組み:杉井 靖典(著)
Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」:亀井 聡彦, 鈴木 雄大, 赤澤 直樹(著)
Web3というインターネットの転換点と、その背景にあるDAOという新しいコミュニティについて、概要・本質・哲学を、インターネットの歴史を振り返りながら解説している本です。
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
Web3がわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
Web3(ウェブスリー)と、その要素であるトークンエコノミー、NFT、DeFi、DAOについて、概要や分類・仕組み、既存の技術との違い、課題と今後まで、簡潔な文章で豊富な内容を解説している本です。
これからWeb3に本格的に取り組みたいと考えている、すべてのビジネスパーソンから次の時代を作る若い世代の人に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- はじめに
- Chapter1 Web3がインターネットの世界を変える
- 01 Web3の誕生背景と3つの重要な考え方
- 02 Web3の構成要素をレイヤー構造で見てみよう
- 03 徹底比較で理解するWeb1・Web2との違い
- 04 仕組みから理解するWeb3d変わるビジネスモデル
- 05 なぜアプリケーションよりプロトコルが重要なのか
- 06 Web3市場における5つの構成要素を知ろう
- COLUMN 「Web3」と「Web3.0」の違い
- Chapter2 トークンエコノミーが新しい経済圏を作る
- 07 暗号資産の仕組みと取引所を介した売買とは
- 08 ブロックチェーンで資産をデジタル化する
- 09 イーサリアムとERC-20の誕生がすべての始まり
- 10 トークンエコノミーの形成にはトークンの種類を知るのが必須
- 11 スマートコントラクトで実現する分散型アプリ&サービスDApps
- 12 ゲーム、教育、スポーツ、行政。広がるトークンサービスの実例
- COLUMN トークンインセンティブによる劇薬
- Chapter3 NFT発行の仕組みとメタバースの分類
- 13 世界に唯一無二のデジタル資産、NFTの革新性とその本質
- 14 ブロックチェーンでデジタル資産の一意性を実現
- 15 Web2が抱えている課題をNFTが解消する
- 16 アート、ゲーム、DeFiなど多彩なNFT市場、4つの領域
- 17 著作権、価格変動、手数料などNFTをめぐる6つの課題
- 18 事例から考察する狭義・広義のメタバース
- 19 ブロックチェーンの活用がメタバースの注目ポイント
- COLUMN 暗号資産とメタバースの交差点
- Chapter4 DeFiが金融サービスを変革する
- 20 仕組みと誕生の背景からDeFiの全体像を理解しよう
- 21 TradFi・FinTechとも異なるDeFiが目指す金融包摂とは
- 22 DeFiのコンポーザビリティが金融サービスを大きく変える
- 23 DeFiの市場規模と次々に誕生するサービス
- 24 4層のレイヤーの役割からDeFi開発の要点を掴む
- 25 DeFiサービスの課題から今後の展望を明らかにする
- Chapter5 DAOで実現する新しい自律分散型組織
- 26 暗号資産とブロックチェーンが新しい組織を生み出す
- 27 DAOのコンセプトと分散化実現のプロセス
- 28 DAOを組織するのに必要な5つの構成要素
- 29 ニーズに応じて選べるDAOの種類と特徴
- 30 DAOに参加するための5つのステップ
- 31 発展段階のDAOの抱える今後の課題を理解しよう
- COLUMN なぜ分散化が重要なのか
- Chapter6 Web3を実現するブロックチェーンの仕組み
- 32 ブロックチェーンには大きく3つの種類がある
- 33 不特定のノードが生み出す暗号資産による報酬の仕組み
- 34 ブロックチェーンの強みをCAP定理で理解しよう
- 35 4つの課題の解消がブロックチェーンを発展させる
- Chapter7 日本のWeb3の未来
- 36 資金調達、規制、税制。出遅れた日本の改善策は
- 37 ベンチャーキャピタルの役割と投資先領域
- 38 Web3を一過性のトレンドで終わらせないために
- おわりに