「ソフトウェア」と「人のつながり」からなる「ネットワーク製品」について、ネットワーク効果が生まれるメカニズムから、それを拡大・活用する最善の方法まで、スタートアップや大企業の事例にもとづいて、ネットワーク効果のライフサイクルを実践的な視点でまとめている本です。
スタートアップの起業家、スタートアップで働いている人、投資家、大企業の新規事業担当者、ネットワークやコミュニティの事業に関わっている人、に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
日本語訳
原著(英語版)
著者紹介
Andrew Chen(アンドリュー・チェン)
シリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーで、アーリーステージの消費者向けスタートアップに投資している。以前はIPO前の高成長期のウーバーでライダー・グロースチームを率いていた。(著者紹介より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。(序章より一部引用)
本書はどんな製品にも適用できる実用的で具体的な内容を詰め込み、ネットワーク効果を知る上での決定版にしたいと思っている。
本書のフレームワークを使えば、自社製品がどの段階にあるのか、製品をさらに前に進めるために何に注力すればよいかがわかるはずだ。
ネットワーク効果が生まれるメカニズムから、それを拡大・活用する最善の方法まで、ネットワーク効果のライフサイクルを実践的な視点でまとめている。
ソフトウェア開発者、デザイナー、起業家、投資家にとっても本書はきっと役に立つ。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- 序章
- 第1章 ネットワーク効果
- 第2章 コールドスタート問題
- 第3章 転換点
- 第4章 脱出速度
- 第5章 天井
- 第6章 参入障壁
- 最後に
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
アトミックネットワークをつくる
1つ目に注目した点は「第2章 コールドスタート問題」の「アトミックネットワーク」に書かれている「アトミックネットワークをつくる」です。
著者はアトミックネットワークを以下のように説明しています。
- アトミックネットワークとは、自律するのに必要な最小単位のネットワークだ。
- アトミックネットワークが成立するには、立ち上げ当初に発生するアンチネットワーク効果に打ち勝ち、自律的に成長できるだけの密度と安定性がなければならない。
- アトミックネットワークをひとつ2つ、つくれれば、そこからネットワークを大きくできる。
著者は、「アトミックネットワークをつくるのは難しく、実現にはあらゆる手をつくさなければならない」と述べ、Slack(スラック)の優れた事例や、マーケットプレイス、SNSなどの成功事例から、その多くは直感に反する、共通点を説明しています。
ひとつは、あれこれ機能を揃えず、限りなくシンプルに立ち上げていたこと。
次は市場規模が小さいといった批判はいったん無視して、最小限のアトミックネットワークを築いていたこと。
そして当初はたとえ反復できないほどコストがかかっても、勢いをつけるために「どんな施策もやり尽くした」ことだ。
アンドリュー・チェン. ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク (Japanese Edition) (p.102). Kindle 版.
最初はネットワークに合うユーザーを集めよう
2つ目に注目した点は「第3章 転換点」の「招待制」に書かれている「最初はネットワークに合うユーザーを集めよう」です。
著者は、招待制は強力であり成功すると、最初のアトミックネットワークのユーザーが他のユーザーを惹きつける磁石になり、そしてネットワークがコピー&ペーストするように広がっていく、と述べています。
そして、ネットワーク製品の開発者や担当者が考えるべきことを、著者は以下のように説明しています。
ネットワーク製品では初期ユーザー、つまり誰がいて、なぜ参加していて、互いにどう交流しているかが、サービスの機能設計と同じくらい重要なのである。
そのサービスのネットワークに最適なユーザーはどういう人なのかを考えよう。
それがサービスのユーザーを惹きつける力、文化、成長力を決定づけるのである。
アンドリュー・チェン. ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク (Japanese Edition) (p.175). Kindle 版.
新しいマーケティング手法を常に開拓する
3つ目に注目した点は「第5章 天井」の「クリック率低下の法則」に書かれている「新しいマーケティング手法を常に開拓する」です。
著者は、クリック率低下の法則を「あらゆるマーケティング手法の効果が、時間とともに低下することだ。メール、広告、SNS、動画などの媒体に関係なくクリック率やエンゲージメント、コンバージョン率はやがて低下する。」と述べています。
クリック率低下の法則の対処法について、マーケティング人材の採用、コンテンツマーケティング、イベント開催、に加えて、新しいマーケティング手法を常に開拓する方法を以下のように説明しています。
もうひとつできるのは、新しいマーケティング手法の開拓に早くから取り掛かることである。
およそ3年から5年ごとに、新しいメディアやプラットフォームが台頭する。
最近ではティックトック、ツイッチ、インスタグラムといった視覚情報の豊富なメディアが急増し、インフルエンサーや動画配信者を通じてマーケティングをするスタートアップが増えた。
法人向け企業も消費者向け製品と同じように紹介制度やショート動画などを活用できる。
アンドリュー・チェン. ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク (Japanese Edition) (p.324). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
この本のことはWeb3関連のポッドキャストで知り、Amazon書籍情報を見たところ事例も多く紹介されていて面白そうなので読んでみました。
読み終えてみて全体的な感想は、歴史やインタビューと著者の経験から導き出された知見がコールドスタート理論のフレームワークに整理されて、とても興味深く参考になる内容が詰まっていたので、最初から最後までアンダーラインをいっぱい引きながら読みました。
著者がこの本で紹介するフレームワークは「コールドスタート理論」と名付けたもので、社会性動物の生態に影響を与えるミーアキャットの法則を当てはめて、ネットワーク効果を5つのステージ(1)コールドステージ問題(2)転換点(3)脱出速度(4)天井(5)参入障壁、に分けています。
歴史から知見として、1958年に発明された世界初のクレジットカードや、1888年にコカコーラが発明したクーポンが、理論を裏付ける事例として登場するのが意外でしたが面白いです。
序章から著者が高成長期のUber(ウーバー)で経験したことがリアルに語られているので、当時の現場の情景が浮かんで、知見の説明が分かりやすいです。
スタートアップや大企業で経験してきた100人以上に著者がインタビューした知見(成功例・失敗例)が、理論の説明の中で随所に紹介されていて分かりやすいです。Google+(グーグルプラス)の失敗例は印象的でした。
著者も最後に述べていますが、この本に書かれている知見は、これからやってくる、あらゆる製品がネットワーク効果によって再定義される時代に役立つ内容です。
この本は、スタートアップを起業する人、スタートアップで働いている人、投資家にとって、長く読まれる必読の本になると感じました。
スタートアップ関係者だけでなく、大企業の新規事業に関わっている人、ネットワークやコミュニティに関連する事業に関わっている人もおすすめする本です。
口コミ
書評記事
“先行者利益”や“勝者総取り”は誤解、スタートアップが学ぶべき「ネットワーク効果」の本当の姿 | DIAMOND SIGNAL
『ネットワーク・エフェクト』から学ぶ、事業成長のためのフレームワーク「コールドスタート理論」とは? | Biz/Zine(ビズジン)
参考文献
この本の参考文献に記載されている本や関連する情報を紹介します。
利己的な遺伝子 40周年記念版:リチャード・ドーキンス(著)
「第2章 コールドスタート問題」の「キラープロダクト」の中で引用されています。
ブリッツスケーリング:リード・ホフマン, クリス・イェ(著)
「第6章 参入障壁」の「ウィムドゥ対エアビーアンドビー」の中で引用されています。
この本の注目点や感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
イノベーションのジレンマ 増補改訂版:クレイトン・クリステンセン(著)
「第6章 参入障壁」の「チェリーピッキング」の中で引用されています。
リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす:エリック・リース(著)
「第6章 参入障壁」の「ビックバン型の立ち上げは失敗しやすい」の中で引用されています。
スタートアップ・起業におすすめの本
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
「ソフトウェア」と「人のつながり」からなる「ネットワーク製品」について、ネットワーク効果が生まれるメカニズムから、それを拡大・活用する最善の方法まで、スタートアップや大企業の事例にもとづいて、ネットワーク効果のライフサイクルを実践的な視点でまとめている本です。
スタートアップの起業家、スタートアップで働いている人、投資家、大企業の新規事業担当者、ネットワークやコミュニティの事業に関わっている人、に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- 序章
- 第1章 ネットワーク効果
- ネットワーク効果とは
- 歴史を振り返る
- コールドスタート理論
- 第2章 コールドスタート問題
- 失敗からの大逆転
- アンチネットワーク効果ーー破壊に向かわせるマイナスの力
- アトミックネットワークーークレジットカードで起きたこと
- ハードサイドーーウィキペディアの事例
- ハードな問題を解決するーーティンダーの事例
- キラープロダクトーーズームの事例
- マジックモーメントーークラブハウスの事例
- 第3章 転換点
- ティンダーの事例
- 招待制ーーリンクトインの事例
- ツールで誘って、ネットワークで引き留めるーーインスタグラムの事例
- 成長を金で買うーークーポンを使う
- フリンストーン戦略ーー人力で始めたレディットの事例
- がむしゃらに突き進むーーウーバーの事例
- 第4章 脱出速度
- ドロップボックスの事例
- 3種の効果
- エンゲージメント効果ーー壊血病の事例
- ユーザー獲得効果ーーペイパルの事例
- 経済効果ーー信用調査機関の事例
- 第5章 天井
- ツイッチの事例
- ロケット成長ーーvT2D3(3倍、3倍、2倍、2倍、2倍)
- 市場の飽和ーーイーベイの事例
- クリック率低下の法則ーーバナー広告で起きたこと
- ネットワークが反乱を起こすときーーウーバーの事例
- 永遠の9月ーーユーズネットの事例
- 過密化ーーユーチューブの事例
- 第6章 参入障壁
- ウィムドゥ対エアビーアンドビー
- 好循環と悪循環
- チェリーピッキングーークレイグリストの事例
- ビックバン型の立ち上げは失敗しやすいーーグーグルプラスの事例
- ハードサイドのユーザー獲得競争ーーウーバーの事例
- バンドル戦略ーーマイクロソフトの事例
- 最後に