メタバース内の経済とはどのようなものか、メタバースの普及によって資本主義がどのように変わるのか、メタバースとAIはどのように関係するのか、について解説している本です。
未来の経済を知りたい人、2冊目以降のメタバース本を探している人、メタバースを経済やAIの視点から考えたい人、に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、などを紹介します。
本の概要
書籍情報
著者紹介
井上 智洋(いのうえ・ともひろ)
駒澤大学経済学部准教授、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。博士(経済学)専門はマクロ経済学。特に経済成長理論、貨幣経済理論について研究している。(著者紹介より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
人類は今から20年以内に、目覚めている多くの時間をコンピュータ上の仮想空間で過ごすようになる。私は本気でそう考えています。
遠くない未来に、人間の頭脳はAIに、身体はAIを組み込んだロボットに、そして世界はメタバースによってそれぞれ置き換わっていくというわけです。
メタバースにおける経済の主な担い手は、資金を提供する資本家でもなく、モノを物理的に作ったり運んだりする肉体労働者でもなく、アバターやデジタルな洋服をデザインするクリエイターです。
メタバース内の経済とはどのようなものか、メタバースの普及によって資本主義がどのように変容するのかを理解する必要があります。それこそが本書のテーマです。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめに
- 1章 メタバースとは何か?
- 2章 この世界はスマート社会とメタバースに分岐する
- 3章 純粋デジタル経済圏の誕生
- 4章 メタバースとお金の未来
- 5章 資本主義はどう変わるか?
- 6章 人類が身体を捨て去る日 メタバースの先にある未来
- 7章 日本をメタバース先進国にするにはどうしたらよいか?
- おわりに
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
社会のスマート化とメタバース化は双対で進む
1つ目に注目した点は「2章 この世界はスマート社会とメタバースに分岐する」に書かれている「社会のスマート化とメタバース化は双対で進む」です。
著者は、スマート社会とメタバースの違いについて、以下のように述べています。
- 実空間はAIやIoTなどによってどんどんスマート化されていく。それとは別に、メタバースという新たな社会が誕生し、発展していくという観点が必要なことに最近気づきました。
- メタバースとは情報革命を象徴する最大の産物とも言えます。それに対して、スマート社会というのは、ある意味では工業革命からの流れにあります。
- 情報革命は単なる代替化や効率化とは別に、森羅万象をデジタル化するという側面を持っており、その究極の姿がメタバースということになります。したがって、メタバースは工業革命の延長上にはありません。
スマート社会とメタバースがどのようになるのかを著者は以下のように述べています。
これからの社会は、スマート社会とメタバースに分岐し、両者が双対となって進んでいくというわけです。
標語的に言えば、「リアル空間のデジタル化」がスマート社会であり、「デジタル空間のリアル化」がメタバースです。
いずれの路線に重点を置くべきかというテーマが、今後大いに議論されることになるでしょう。
井上 智洋. メタバースと経済の未来 (Japanese Edition) (p.99). Kindle 版.
独占的競争
2つ目に注目した点は「第3章 純粋デジタル経済圏の誕生」の「純粋デジタル経済圏」に書かれている「(3)独占的競争」です。
著者は、メタバース内の経済は実空間とは全く異なっていて、そこで生まれる経済を「純粋デジタル経済」と呼び、「デジタルな財・サービスのみが供給される経済」と定義しています。
純粋デジタル経済には以下の特徴があると述べています。
- 資本財ゼロ
- 限界費用ゼロ
- 独占的競争
- 供給の無限性
- 空間の無限性
- 移動速度の無限性
「独占的競争」とは、それぞれの会社や事業者が差別化された財を提供していて、その財同士にある程度の代替性があるような状態のこと、です。
メタバースのコンテンツやプラットフォームは、独占的競争であるかいなかについて、著者は以下のように説明しています。
メタバース内のコンテンツも独占的競争状態にあります。先述したようにアバターや洋服は差別化された財であって、独占や寡占は起きないからです。
メタバースのプラットフォームは各社のサービス毎に特徴や雰囲気が異なります。(中略)そのため、独占的競争が生じており、どこか一社(あるいは数社)だけが勝つという状態にはなりにくいと考えられます。
とはいえ、一社だけの独占状態も想像できないわけではありません。プラットフォームには、「ネットワーク外部性」といって利用者が多ければ多いほど、サービスの利便性が増していくという傾向があって、それが独占・寡占化を助長するからです。
井上 智洋. メタバースと経済の未来 (Japanese Edition) (p.130-131). Kindle 版.
頭脳資本主義とは何か
3つ目に注目した点は「第5章 資本主義はどう変わるか?」に書かれている「頭脳資本主義とは何か」です。
著者は「仮想通貨やDAO、NFTといったWeb3.0的な技術は広く使われるようになり、メタバースも普及して、資本主義は新たな段階を迎えると思う」として以下のように説明しています。
- 私は以前より、AIが発展していくにつれて、「頭脳資本主義」というものが全面化すると考えていました。
- 頭脳資本主義は、もともとは物理学者でシンギュラリティなどについて論じている神戸大学名誉教授の松田卓也さんが考案した言葉です。
- 私はこの頭脳資本主義を、労働者の頭数ではなく頭脳のレベルが、企業の売り上げや一国のGDPを決定づける経済と解釈しています。
そして、メタバースが加速する頭脳資本主義について以下のように述べています。
デジタル経済のほうでは、資本財がほとんどないので、さらにクリエイターにとって有利です。つまり頭脳資本主義が純粋に当てはまるのが純粋デジタル経済であり、メタバース内の経済であると言えます。
そこでは、デザインできる人が圧倒的に有利であり、他にメタバース内でいろいろなイベントが行われることを考えると、イベントをプロデュースできる能力のある人、面白いアイデアを出せる人などが活躍する世界になっていくと予想されます。結局のところ頭脳を持っている人が重宝されるということです。
こんなふうにメタバースの普及によって、頭脳資本主義は加速します。AIによって頭脳資本主義が到来すると私は以前から述べていたのですが、メタバースはそれをますます加速させるわけです。
井上 智洋. メタバースと経済の未来 (Japanese Edition) (p.198). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
この本を読むきっかけになったのは、本の帯に「バーチャル美少女ねむさん推薦!」と書かれているのを見たことです。
著者は、メタバースが次世代インターネットにおける主力サービスになるだろうとの考えに当初は懐疑的だったようですが、バーチャル美少女ねむさんと対談したことがきっかけで、いずれ実空間における人類の営みはほとんど仮想空間の営みにとって代わられるだろうと、その時に強く確信したそうです。
この本を読んでみて全体的な感想は、メタバースの誕生によって経済・お金・資本主義がどのように変わるのかについて、現状とメタバース経済のわかりやすい比較や、著者の意見と異なる主張の比較を用いて解説されているので、理解しやすく考えながら読むことでき有意義な経験でした。
「3章 純粋デジタル経済圏の誕生」では、AIやロボットによって生産活動が自動化される「純粋機械化経済」の解説もあり、メタバース内の経済である「純粋デジタル経済」との対比では、資本家の力の持ち方に違いがあるという点は印象に残りました。
「5章 資本主義はどう変わるのか?」の「加速主義か減速主義か」では、地球温暖化を防ぐために経済成長はやめましょうという「減速主義」と、資本主義のダイナミズムをもっと加速させていこうという「加速主義」という異なる主張を双方とも解説し、著者の意見を述べているので理解が深まりました。
「6章 人類が身体を捨て去る日 メタバースの先にある未来」では、汎用AIの実現を目指す人間の脳を真似るアプローチ(全脳アーキテクチャ、全脳エミュレーション)や工学的なアプローチ(GPT-3, PaLM, 悟道2.0)から、私たちが生きているこの実空間自体が仮想空間のようなものであると考える「シミュレーション仮説」まで平易に解説されており、事前の予測をいい意味で裏切られて、知らなかった興味深い内容まで読むことができました。
未来の経済を知りたい人、2冊目以降のメタバース本を探している人、メタバースを経済やAIの視点から考えたい人に一読をおすすめします。
口コミ
書評記事
井上智洋氏の『メタバースと経済の未来』読後感 : のとみいの日記
参考文献
この本の参考文献に記載されている本や関連する本を紹介します。
人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊:井上 智洋(著)
著者が2016年に書いた本。『メタバースと経済の未来』はこの本の続編的な位置付けになる、と著者は述べています。
メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界:バーチャル美少女ねむ(著)
「1章 メタバースとは何か?」の「メタバースは普及するのか」をはじめ数箇所で引用されています。
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
メタバース さよならアトムの時代:加藤直人(著)
「2章 この世界はスマート社会とメタバースに分岐する」の「メタバース化を推し進めるべきなのか」で引用されています。
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
脳の意識 機械の意識 - 脳神経科学の挑戦:渡辺 正峰(著)
「6章 人類が身体を捨て去る日 メタバースの先にある未来」の「機械に意識は宿るのか⁈」で引用されています。
全脳エミュレーションの時代(上):人工超知能EMが支配する世界の全貌:ロビン・ハンソン(著)
「6章 人類が身体を捨て去る日 メタバースの先にある未来 」の「100年後の世界を予測する」で引用されています。
メタバースがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
メタバース内の経済とはどのようなものか、メタバースの普及によって資本主義がどのように変わるのか、メタバースとAIはどのように関係するのか、について解説している本です。
未来の経済を知りたい人、2冊目以降のメタバース本を探している人、メタバースを経済やAIの視点から考えたい人、に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- はじめに
- 1章 メタバースとは何か?
- フェイスブックからメタへ
- メタバースは普及するのか?
- どこまでをメタバースと呼ぶか
- メタバース関連技術
- メタバースの分類
- ワールドの分類とメタバースの用途
- メタバースの歴史
- ゲーム系メタバース
- Web3.0とは何か
- メタバースとWeb3.0
- 人間関係はどう変わるか
- 2章 この世界はスマート社会とメタバースに分岐する
- AIブームの終わりが意味するもの
- 革新的な技術を追求し続ける者が世界を制す
- 「AIが仕事を奪う」論はどこへいったのか
- メタバースとAI
- 工業革命と情報革命
- ビットがアトムを支配する
- 社会のスマート化とメタバース化は双対で進む
- メタバース化を推し進めるべきなのか
- メタバースはディストピアの悪夢か
- メタバース化は自由への道
- 太った豚よりも痩せたソクラテスを目指すべきなのか
- 有事のときをどう考えるか
- 3章 純粋デジタル経済圏の誕生
- 純粋機械化経済
- (1)資本財ゼロ
- (2)限界費用ゼロ
- (3)独占的競争
- 無限性の経済学
- (1)供給の無限性
- (2)空間の無限性
- (3)移動速度の無限性
- 4章 メタバースとお金の未来
- そもそもお金とは何か
- 仮想通貨とは何か?
- 通貨間競争
- 通貨防衛論
- 仮想通貨はなぜ決済に使われないか
- 仮想通貨の逆襲
- 5章 資本主義はどう変わるか?
- 資本主義とは何か?
- 揺らぐ銀行の支配
- DAOは脱近代資本主義を促進する
- Web3の思想的背景としてのハッカー文化
- Web3によってGAFAMの地位は揺らぐか?
- 頭脳資本主義とは何か
- 雇用と格差はどうなるのか
- 地域格差がなくなる
- メタバースで地球温暖化を防げるか?
- 加速主義か減速主義か
- 6章 人類が身体を捨て去る日 メタバースの先にある未来
- 第五次産業革命とWeb4.0
- 汎用AIの実用化
- 実現しつつある工学的なアプローチ
- 汎用AIはメタバースとどう関わるか
- BMI(脳と機械を通信させる技術)
- BBI(脳と脳を通信させる技術)
- 『マトリックス』のような世界になる⁈
- マイドアップローディング
- 意識とは何か
- 機械に意識は宿るのか⁈
- 100年後の世界を予測する
- シミュレーション仮説
- 7章 日本をメタバース先進国にするにはどうしたらよいか?
- 既にメタバース後進国になりつつある日本
- 知的好奇心の低い日本
- 日本経済はなぜ衰退したのか
- デフレになると賃金が上がらない理由
- デフレマインドとは何か
- 緩やかなインフレ好況を
- メタバースは日本経済逆転のチャンスか
- 日本がメタバース先進国になるにはどうしたらいいか
- サイバーオリエンタリズム
- 日本未来主義を取り戻せ!
- おわりに