この本は暗号通貨(ビットコインなど)の面白さについて、設計の奥深さや込められた理想と現実など、経済学の視点から暗号通貨の思想・制度設計・通貨としての役割を、投資家やエンジニアだけでなく幅広い人に向けて解説している本です。
これから暗号通貨(暗号資産)について学んでみようと思っている人、これまで暗号通貨・ビットコイン・ブロックチェーンの本を読んだけれど疑問を感じている人、ビットコインを売買したことがあるけれど本は読んだことがない人、に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
著者紹介
坂井 豊貴(さかい・とよたか)
慶應義塾大学経済学部教授。ロチェスター大学 経済学博士課程修了。
暗号通貨、投票システム、オークション形式などの制度設計(メカニズムデザイン)を研究。(著者略歴より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
「暗号通貨の面白さって、いまだに世のなかには広まっていない。(中略)なぜあんなわけの分からないものに多大な情熱が注がれているのか。それこそがポイントだ。設計の奥深さ、込められた理想、そして現状。この本で語りたいのはそれらのことだ。」
「強調したいのだが、いまビットコインに関心を寄せるのは、投資家やエンジニアだけではない。経済学者はもちろんのこと、政治学者や人類学者にものめり込んでいる人がいる(僕もその一人だ)。」
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- まえがき
- 1章 神(サトシ)はビットコインを創成し、やがて姿を消した
- 2章 そもそもATMは魔法の箱なのだ
- 3章 ブロックチェーンの生態系には、人間も機械も黄金もある
- 4章 暗号通貨の社会はめちゃくちゃ人間くさい
- 5章 超絶的な自動販売機イーサリアム
- 6章 正社員は減ってないし、会社は無くならないし、電子化はそう進んでいない
- あとがき
- 参考文献
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
すべては巨人の肩の上に立つ
1つ目に注目した点は、「2章 そもそもATMは魔法の箱なのだ」に書かれている「すべては巨人の肩の上に立つ」です。
著者は「この世に完全にオリジナルな研究というものはない。ビットコインはたしかに革新的だが、アイデアには源流があり、過去の研究という『巨人の肩の上に立つ』(standing on the shoulders of Giants)ものだ。」と述べています。
そして、1982年、デヴィット・ショーンという暗号学者が発表した「追跡不能な支払いのためのブラインド署名」という、買い手と売り手以外の第三者には情報を知られないことを目的とした論文をくわしく図解で解説しています。
著者は、デヴィット・ショーンの研究や特許がビットコインに与えた影響を以下のように述べています。
デヴィッド・ショーンとサトシ・ナカモトの違いをひとつあげれば、ショーンは発明に特許をとり、サトシはすべてを世界に公開したことだろう。
(中略)とはいえショーンは卓越した先駆者だ。彼は94年にDigicashという会社を設立し、当時は画期的な電子現金を作成した。
ただしこの電子現金は普及せず、プロジェクトは失敗に終わる。ショーンによるもの以外にも、90年代にはこうした試みがいくつかある。
間違いなくサトシはそれらから学んだはずだ。それらの試みあってこその、ビットコインの設計と、成功であるはずだ。
坂井 豊貴. 暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない (Japanese Edition) (p.63). Kindle 版.
51%攻撃と、電力の意味
2つ目に注目した点は「3章 ブロックチェーンの生態系には、人間も機械も黄金もある」の「ビットコインの仕組み(4) 負けたマイナーの立場でブロックチェーンを理解する」に書かれている「51%攻撃と、電力の意味」です。
著者は、もし一人のマイナーが、全マイナーのなかで51%のハッシュパワーをもっていると、時間をかけると過去のどのブロックからでも再編成できるという、「51%攻撃(majority attack)」を説明しています。
そして著者は、ビットコインに51%攻撃が起こったことはない、と述べた上で、ビットコインゴールド(BTG)という新種コインに対して51%攻撃がおきた理由と電力の意味を、以下のように解説しています。
BTGは、時価総額が高いわりには、マイニングの負担が軽く、電力が少なくて済んだのだ。
よって51%のハッシュパワーを安価に獲得して、多くのコインを不正に得られた。
ビットコインのマイニングは膨大な電力を食うので、自然環境に悪いとの批判がある。
しかしその高い電気代のおかげで、51%攻撃から守られているのだ。
坂井 豊貴. 暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない (Japanese Edition) (p.95). Kindle 版.
「他の人が使うから」は強い
3つ目に注目した点は「4章 暗号通貨の社会はめちゃくちゃ人間くさい 」の「ネットワーク効果ーー調整ゲームと協調行動」に書かれている「『他の人が使うから』は強い」です。
著者は、調整ゲームとネットワーク効果について以下のように述べています。
- 「劣ったキーボード配列であるQWERTがいまも標準規格として君臨しているように、調整ゲームでは、優れた水準のサービスが勝つとは限らない。勝つのは、そのサービスを多くの人が利用する状況を、ナッシュ均衡として実現させたほうだ。」
- 「ネットワーク効果が強いサービスは、それを使う人の割合が一定の閾値を超えると、雪崩を打つように人が押し寄せる。あるいは逆に、人がいなくなる。」
そして著者は、ビットコインの仕様変更の現状について以下のように述べています。
ビットコインの仕様変更にもネットワーク効果がある。(中略)
匿名性の高いインターネット上で、さあ皆で仕様変更をしようといっても、他者の実行を信頼するのは容易ではない。
強制力がないのはビットコインコミュニティの特徴で、その自由さは魅力でもある。
だが一方で、強制力がないゆえ協調の困難があるのだ。
坂井 豊貴. 暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない (Japanese Edition) (p.125). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
この本を手にとったは、先日読んだ「新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるのか:施井泰平」(ブログ記事)の特別対談で著者のことを知ったのがきっかけです。
「まえがき」読んだところから話の面白さ(興味深さ)に引き込まれて、特に第1章から第4章までは、これまで他の暗号通貨やビットコイン関連の本やネット情報では読んだことがないことが数多く書かれていたので、たくさんアンダーラインを引きながら読みました。
とても興味深く読んだことには注目点に挙げた3つのこと以外にも、「サトシ・ナカモトはビザンチン問題にひとつの解法を与えた」として、ビザンチン将軍問題をわかりやすく図解で解説し、暗号通貨におけるネットワーク上での合意形成問題として、ビットコインのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)をリップルのプルーフ・オブ・コンセンサス(PoS)や、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)と比較していることがあった。
「通貨の本質は何か?」を一言でいうと「(1)交換の媒介(medium of exchange)」だと述べて、「(2)価値の尺度」や「(3)価値の貯蔵手段」といった機能は(1)に含意されていると説明している。これを読んで先日読んだ「60分でわかる! 暗号資産 超入門:開米瑞浩」(ブログ記事)の中で疑問点だった「実のところ世界初の暗号資産であるビットコインは、交換媒介機能を念頭に設計されたと考えられます。」についての疑問が解消しました。
3章のブロックチェーンの概念説明は、冒頭に映画「スワロウテイル」を引用して、ビットコインという生態系をイメージさせ、読者が疑問に感じるところを的確に説明しているので、これまで読んだ本の中で一番わかりやすく、ブロックチェーンの仕組みの面白さをより一層感じるようになった。
これから暗号資産(暗号通貨)について学ぶ人、暗号資産・ビットコイン・ブロックチェーンについての本を読んだけれどいまひとつ理解できなかった人、ビットコインを売買したことがあるけれど本は読んだことがない人、に一読することをおすすめします。
口コミ
書評記事
【書評/要約】暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない(坂井 豊貴 著)(★4) | 賢い投資生活|株/FX/仮想通貨/税ブログ
「暗号通貨vs国家 ビットコインは終わらない」読んで考える | 「知」は平坦化する
参考文献
この本の参考文献に記載されている本や関連する本を紹介します。
デジタル・ゴールド--ビットコイン、その知られざる物語:ナサニエル・ポッパー
ビットコイン初期からの人間ドラマは、多くのインタビューから書かれているこの本が非常に面白い、と紹介されています。
ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術:アンドレアス・M・アントノプロス
ブロックチェーン技術の入門書として、紹介されています。
多数決を疑う 社会的選択理論とは何か:坂井 豊貴
「3章 ブロックチェーンの生態系には、人間も機械も黄金もある」の「P2Pと多数決(1) 多数決と正しい確率」の中で引用されています。
暗号資産がわかる本おすすめ
ビットコインがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
この本は暗号通貨(ビットコインなど)の面白さについて、設計の奥深さや込められた理想と現実など、経済学の視点から暗号通貨の思想・制度設計・通貨としての役割を、投資家やエンジニアだけでなく幅広い人に向けて解説している本です。
これから暗号通貨(暗号資産)について学んでみようと思っている人、これまで暗号通貨・ビットコイン・ブロックチェーンの本を読んだけれど疑問を感じている人、ビットコインを売買したことがあるけれど本は読んだことがない人、に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- まえがき
- 1章 神(サトシ)はビットコインを創成し、やがて姿を消した
- 創生前夜
- あれはバブルか
- 危険なキャッシュレス
- 創造主(サトシ)は正体不明
- 通貨の本質とは何か?
- 徴税と暗号通貨
- 2章 そもそもATMは魔法の箱なのだ
- 銀行貯金のすごさ
- 国際送金とリップルXRP
- P2Pの世界通貨
- すべては巨人の肩の上に立つ
- 3章 ブロックチェーンの生態系には、人間も機械も黄金もある
- 黄金を掘りに
- ビットコインの仕組み(1) 送金したら何が起こるか
- ビットコインの仕組み(2) マイニングの仕組み
- ビットコインの仕組み(3) バラバラな人々がどうやって同じ台帳を共有するのか
- ビットコインの仕組み(4) 負けたマイナーの立場でブロックチェーンを理解する
- P2Pと多数決(1) 多数決と正しい確率
- P2Pと多数決(2) ビザンチン将軍問題
- 4章 暗号通貨の社会はめちゃくちゃ人間くさい
- 管理者のいないコミュニティ
- 新コインへの分裂
- ネットワーク効果ーー調整ゲームと協調活動
- 5章 超絶的な自動販売機イーサリアム
- サタンの悪戯が奏功するには
- 若きヴィタリックの情熱
- トークンによる資金調達
- 非国家と社会契約
- ノーベル賞学者の参入
- 6章 正社員は減ってないし、会社は無くならないし、電子化はそう進んでいない
- 電子化はそう進んでいない
- 「億り人」は江戸時代より重税
- 会社は無くならない
- 仕事は無くならないが
- あとがき
- 参考文献