急速に成長しながら企業を運営する戦略とテクニックのセットである「ブリッツスケーリング」について、役に立つテクニックやノウハウに加えて、組織内外の起業家、リーダーが理解しておかねばならない一連の戦略や法則を解説している本です。
スタートアップ企業やスタートアップから急速に成長した企業、テクノロジー企業だけでなくあらゆるジャンルの企業、ベンチャーキャピタル、政府自治体に関わる人に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
日本語版
原著(英語版)
著者紹介
Reid Hoffman(リード・ホフマン)
起業家、投資家。
1998年にペイパルの創業に加わり、取締役、常勤副会長を務めた。2003年にはリンクトインの共同創業者となり、世界最大のプロフェッショナル向けネットワークサービスをつくった。
現在、エアビーアンドビー、マイクロソフトなどの取締役であり、非営利団体のキバなどの理事を務めている。
(以上、著者紹介より一部引用)
Chris Yeh(クリス・イェ)
起業家、著作家、メンター。
スタンフォード大学でプロダクト・デザインとクリエイティブ・ライティングの学士号、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得し、ベイカー・スカラーとなっている。
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
本書は、ほんの数年の間にゼロから数十億ドル級の世界的な大企業に成長するという奇跡がどうすれば生まれるのかを実例で説明する。
つまりこうした企業をつくろうとしている起業家や、そうした会社を発見して投資したいベンチャーキャピタリストはもちろんだが、そうした会社で働きたい人々、企業を誘致しコミュニティの利益増進を図る政府自治体の関係者まで、広く本書の対象になる。
読者が起業家ではなく大きな会社に属しているとしても、何らかの新しい事業を始めようとしているなら、本書はやはり有用だ。
本書では、役に立つテクニックやノウハウに加えて、組織内外の起業家、リーダーが理解しておかねばならない一連の戦略や法則を解説する。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- 序文 ビル・ゲイツ
- イントロダクション
- 第1章 ブリッツスケーリングとは何か?
- 第2章 ビジネスモデルのイノベーション
- 第3章 戦略とイノベーション
- 第4章 マネジメントのイノベーション
- 第5章 さまざまな分野のブリッツスケーリング
- 第6章 責任を伴うブリッツスケーリング
- 最後に
- 謝辞
- 訳者あとがき
- 付録A 情報開示
- 付録B ブリッツスケーラー一覧
- 付録C CS183Cクラスの小論文
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
スケーリングのタイプ
1つ目に注目した点は「第1章 ブリッツスケーリングとは何か?」に書かれている「スケーリングのタイプ」です。
著者は、「ブリッツスケーリングは将来を見通しにくい状況で、効率性よりスピードを優先する戦略全体を示す」と述べています。
そして以下のように、ほかの成長戦略(スケーリングのタイプ)との比較をしています。
効率性 | スピード | |
不確実性 | 伝統的なスタートアップの成長戦略 | ブリッツスケーリング |
確実性 | 伝統的なスケールアップ式の成長戦略 | ファストスケーリング |
伝統的なスタートアップの成長戦略 | 将来の見通しがきかない状況下でも効率性を重視する |
伝統的なスケールアップ式の成長戦略 | 焦点は環境を確実に把握した上で効率性を追求することにあてられる |
ファストスケーリング | 高い成長率を実現するために資本効率をある程度犠牲にするアプローチ |
ブリッツスケーリング | スピードを最優先し、効率を犠牲にする。しかもその犠牲が有効なものであったかどうか、結果を確認する暇も惜しむ |
各ステージで創業者の役割はどう変わるか
2つ目に注目した点は「第3章 戦略とイノベーション」に書かれている「各ステージで創業者の役割はどう変わるか」です。
著者は、創業者が果たすべき役割は、ブリッツスケーリングの各ステージによって変わり(これに応じて社員の役割も変わる)、運営に必要なスキルも変わってくる、と述べています。
ステージ名称 | 創業者の役割 |
---|---|
第1ステージ(ファミリーサイズ) | 自分で隅々まで会社の成長をコントロールできる |
第2ステージ(部族サイズ) | 実際に作業する社員を指揮する立場に移る |
第3ステージ(村サイズ) | 効率的な組織のデザインを始めなければならない |
第4ステージ(都市サイズ) | 高度なレベルで組織の目的と戦略を決定する必要がある |
第5ステージ(国家サイズ) | ひとつのブリッツスケーリングを完了させ、会社を新しい分野のブリッツスケーリングに向けて組織を作らなければならない |
直感に反する9つの法則
3つ目に注目した点は「第4章 マネージメントのイノベーション」に書かれている「直感に反する9つの法則」です。
著者は、ブリッツスケーリングを実行する法則は、ビジネススクールで教えていることを完全に無視しているのはもちろん、アーリーステージのスタートアップも伝統的な企業の経営陣が受け入れている「ベストプラクティス」と直感的に相反している、と述べています。
直感に反する法則 | 内容 |
---|---|
カオスを受け入れる | スピードのために効率をあからさまに犠牲にする |
役に立つ人ではなく、たった今役に立つ人を雇う | マネージャーや幹部は、現在の成長ステージに最適でなくてはならない |
「悪い」マネジメントを容認する | 組織がうまく回っていることより、スピードのほうが重要になる |
恥ずかしいプロダクトを公開せよ | 市場に早く出れば、改善に必要なフィードバックを早く手に入れられる |
火は燃えるがままにせよ | どの火を燃えたままにしていいかを見極め、放っておけば会社が倒れてしまう火に集中する |
スケールしないことしよう(その場限りの仕事) | 非効率はルールであり、例外ではない |
顧客を無視せよ | もっと大きく致命的な火事への対策が終わるまで、顧客を放置しても良い場合もある |
資金はあり余るほど調達せよ | 「余分な」キャッシュがあれば、不測の事態にも十分に対応できる |
カルチャーを進化させろ | 積極的で的を絞った行動が必要であり、不明瞭ではっきりしないカルチャーは戦略実行の妨げになる |
感想・口コミ・書評記事
感想
驚異的な急成長を遂げたスタートアップがどのような戦略や考え方で運営していているのかに興味を持ち、この本を読んでみました。
予想外だったことは、スタートアップを急成長させる戦略や手法だけでなく、急成長した企業が次の急成長を遂げるための戦略や、自身の存在をおびやかすスタートアップが出現した場合の対応まで書かれていたことです。
本書の中では特に、第3章と第4章はブリッツスケーリングを実行する(伝統的なマネジメントとは異なる)ノウハウがいろいろな角度から解説されており、すごく興味深く面白い内容でした。
この本ではノウハウや教訓の解説と共に、インターネット初期から仮想通貨までさまざまな企業が事例として登場するので、教訓と事例をセットにして記憶しやすい形式になっています。
急成長のスタートアップというとIT分野を想像しますが、第5章ではそれ以外の分野でのブリッツスケーリングの事例として、スペインのアパレルメーカー「Zara(ザラ)」や、シェールオイルと天然ガス、大きな組織、非営利組織の分野についても解説されており、ブリッツスケーリングの応用の広さがわかりました。
事例を紹介する中で、企業の事例だけでなく、映画やドラマを題材に解説しているところが数多くあり、他の本では見たことがないので印象に残っています。著者は映画が好きでそこからも学んでいるようです。別のブログ記事でこの本に登場する映画を紹介しようと思っています。
これからスタートアップを起業しようとしている人、すでにスタートアップを起業している人、企業で新規事業に関わっている人、非営利組織の人など、これまでの伝統的な成長戦略で行き詰まりを感じている場合には、おすすめの内容です。
口コミ
書評記事
【書評】ブリッツスケーリングで学ぶビジネス”ゲーム”ルール攻略論【要約・感想】 | UpDrafts
スタートアップの急激な成長で何が起こるか「ブリッツスケーリング」 – suadd blog
書籍 ブリッツスケーリング 苦難を乗り越え、圧倒的な成果を出す武器を共有しよう/リード・ホフマン - 「最高のゴール」を目指して!
参考文献
この本で引用されている本を紹介します。
特に、リード・ホフマンの著作『アライアンス』『スタートアップ的人生(キャリア)戦略』や、多くの箇所で引用されている『キャズム』や『リーン・スタートアップ』がおすすめです。
キャズム Ver.2 増補改訂版:ジェフリー・ムーア(著)
「第2章 ビジネスモデルのイノベーション」の「ネットワーク効果は積極的な成長を生み出す」で引用されています。
「第3章 戦略とイノベーション」の「各ステージでの戦略」で引用されています。
リーン・スタートアップ:リック・リース(著)
「第2章 ビジネスモデルのイノベーション」の「成長阻害要因1 プロダクトとマーケットの不適合」で引用されています。
「第4章 マネジメントのイノベーション」の「キーポイント5 データに対するインスピレーション」で引用されています。
ALLIANCE アライアンス:リード・ホフマンほか(著)
「第2章 ビジネスモデルのイノベーション」の「成長阻害要因1 プロダクトとマーケットの不適合」で引用されています。
「第4章 マネジメントのイノベーション」の「キーポイント1 小さなチームから大きなチームへ」、「キーポイント2 ゼネラリストからスペシャリストへ」、「『テセウスの船』をつくる」で引用されています。
予想どおりに不合理:ダン アリエリー(著)
「第2章 ビジネスモデルのイノベーション」の「実証済みパターン3 フリーミアムモデル」で引用されています。
ゼロ・トゥ・ワン:ピーター・ティールほか(著)
「第2章 ビジネスモデルのイノベーション」の「根本的な法則4 反逆的思考を持つ」で引用されています。
ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則:ジム・コリンズ(著)
「第2章 ビジネスモデルのイノベーション」の「ネットワーク効果」で引用されています。
ジェフ・ベゾス 果てなき野望:ブラッド・ストーン(著)
「第2章 ビジネスモデルのイノベーション」の「ネットワーク効果」で引用されています。
WILD RIDE(ワイルドライド):アダム・ラシンスキー(著)
「第4章 マネジメントのイノベーション」の「キャプテンから司令官へ」で引用されています。
スタートアップ的人生(キャリア)戦略:リード・ホフマンほか(著)
「第4章 マネジメントのイノベーション」の「キャプテンから司令官へ」、「直感に反する法則1 カオスを受け入れる」で引用されている『スタートアップ! シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』の全面アップデート版です。
スティーブ・ジョブズ I:ウォルター・アイザックソン(著)
「第4章 マネジメントのイノベーション」の「直感に反する法則9 カルチャーを進化させろ」で引用されています。
鏡の国のアリス:ルイス・キャロル(著)
「第4章 マネジメントのイノベーション」の「変革に終わりはない」で引用されています。
スタートアップ・起業におすすめの本
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
急速に成長しながら企業を運営する戦略とテクニックのセットである「ブリッツスケーリング」について、役に立つテクニックやノウハウに加えて、組織内外の起業家、リーダーが理解しておかねばならない一連の戦略や法則を解説している本です。
スタートアップ企業やスタートアップから急速に成長した企業、テクノロジー企業だけでなくあらゆるジャンルの企業、ベンチャーキャピタル、政府自治体に関わる人に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- 序文 ビル・ゲイツ
- イントロダクション
- 第1章 ブリッツスケーリングとは何か?
- ソフトウェアが世界を食いつくす(そして救う)
- スケーリングのタイプ
- ブリッツスケーリングの3つの基本
- ブリッツスケーリングの5つのステージ
- 3つの重要なテクニック
- 第2章 ビジネスモデルのイノベーション
- 成長を最大化する4つの成長要因
- 成長の最大化を阻む2つの要因
- 確立されたビジネスのパターン
- ビジネスモデル・イノベーションを成立させる法則
- 10億ドル級企業のビジネスモデルを分析する
- 強力で確実なビジネスモデルの次に必要なものは?
- 第3章 戦略とイノベーション
- いつブリッツスケーリングを始めるか?
- ブリッツスケーリングをやめる時
- ブリッツスケーリングを実行しないという選択肢はあるのか
- ブリッツスケーリングとは繰り返しだ
- 各ステージでの戦略
- 各ステージで創業者の役割はどう変わるか
- 第4章 マネジメントのイノベーション
- 8つのキーポイント
- 直感に反する9つの法則
- 変革に終わりはない
- 第5章 さまざまな分野のブリッツスケーリング
- IT分野以外でも成果を上げる
- 大きな組織でのブリッツスケーリング
- ビジネス以外のブリッツスケーリング
- 大シリコンバレー圏でのブリッツスケーリング
- 注目すべきブリッツスケーリングの場所
- 中国 ブリッツスケーリングの国
- ブリッツスケーリングから身を守る
- 第6章 責任を伴うブリッツスケーリング
- 社会の中のブリッツスケーリング
- 責任あるブリッツスケーリングの枠組み
- 責任のスペクトル
- 組織の成長に合わせて責任とスピードのバランスをとる
- 最後に
- 謝辞
- 訳者あとがき
- 付録A 情報開示
- 付録B ブリッツスケーラー一覧
- 付録C CS183Cクラスの小論文