この本は「Alga(アルガ)」というDAOを製造するスマホアプリをマイクロパブリック運営に使うことを提案しており、背景や考え方、有識者3名との対話内容、そして豊富な関連情報を収録している本です。
web3で社会がどう変わるのかに関心がある人、DAOに興味ある人、既存の民主主義に疑問を感じている人、などにおすすめの本です。
本の価格に対して極めて内容が濃い本で、何度も読み返す甲斐があります。
本の概要
書誌情報
著者紹介
著者の落合渉悟(OCHIAI Shogo)さんは、思想家/人権ハクティビスト、イーサリアム関連技術者/開発者/ブロックチェーンエンジニア。
著者が伝えたいこと
著者はIntroductionでこの本の目的について述べています。
戦争や略奪、人権抑圧などはなぜ起こるのか。
人は、そして国家はなぜ平和を求めながら奪い合いを繰り返すのか。(中略)
僕はひとつの解決策をこの本で提案したい。
複雑怪奇な問題に対する解決策は意外にシンプルだ。それがDAO(Decentralized Autonomous Organization=自律分散型組織)であり、DAOを製造する仕組みである「Alga(アルガ)」だ。(中略)
本書は技術書ではない。略奪を解消する唯一の概念「人権」をめぐる提案書だ。DAOは善なるツールとして、あなたの自由、資産、希望を取り戻すことになる。ぜひこの提案に参加してほしい。
落合渉悟(著)僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた:Introduction
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- Introduction
- Chapter 01:DAOによるメタ国家樹立宣言:誰しもが主人公となる新しい世界の構築
- Chapter 02:テクノロジーと現代社会をめぐる3つの冒険:有識者と落合渉悟による白熱議論全録
- Chapter 03:Algaを知る、Algaを使う:DAOで実現する全員参加の新しい自治区
- Appendix:メタ国家樹立のための資料集
- Afterword
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
Algaは誰でもスマホで参加できる、市民参加型議会
著者はAlgaのキャッチコピーを「ブロックチェーンで民主主義を改善する、持続可能なもうひとつの公共圏」と述べ、よりわかりやすい言葉を使っています。
「Alga」は誰でもスマホで参加できる、市民参加型議会
著者はAlgoの用途を以下のように説明しています。
「Alga」とは、自治体よりさらに小さい組織やグループ(マイクロパブリック)のためのアプリだ。
誰もがスマホひとつでリーダー不要な公共システム(DAO)を立ち上げることができ、議案の提案・議決から資金の利用・運用まで、組織・グループにまつわるすべてのデジタルインフラをバックアップする。
落合渉悟(著)僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた:Chapter 01 「Algaによるメタ国家」という新しい世界の改善案をポストする。
著者はDAOの効用を以下のように説明しています。
DAOはブロックチェーンを基盤に設計されており、スマートコントラクトという機能によって、処理を自動化できる仕様になっている。このスマートコントラクトにより、リーダーがいなくても案件を自動的に処理できる。やり取りの記録はブロックチェーン上に記録される。つまり一部のリーダーや権力者が独占することなく、みんなが内容を確認することができる。こうすれば、個々の案件の透明性はクリアに担保できて、悪意ある不正などを起こすことを防げる。
落合渉悟(著)僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた:Chapter 01 「Algaによるメタ国家」という新しい世界の改善案をポストする。
Alga(アルガ)の語源はラテン語の「藻(も)」
Algaの語源は、沼や池の水中で繁殖する植物である「藻(も)」のラテン語である、と著者は言い、その意味を述べています。
藻を人為的に駆除するのは難しい。取り去っても取り去ってもその自律性・繁殖性から、どんどん生育していく。これはあたかもブロックチェーンの所作に酷似している。ブロックチェーンはその分散性の仕組みから、外圧に決して潰されない。その堅牢さはある意味、藻に等しい。
落合渉悟(著)僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた:Chapter 01 10年後に日本の周縁部から浸透する「DAO for Nation」へのロードマップ。
Algaのロードマップは藻のように、ユーザーの体内で身体化され、やがて生活の一部になり、地方行政から国政へと広がっていくことだ、と著者は述べています。
Algaがまず働きかけるのは、マイクロパブリック
Algaがまず働きかけるのは、「マイクロパブリック」だ、と著者は言い、説明しています。
マイクロパブリックとは何か。
読んで字のごとし、「小さな公共空間」だ。公共空間といえば、誰でも公平に使える空間のことをいうが、マイクロパブリックとは、個人の目的を行使することができる公共の空間といったところか。そこには、自治会があり、マンションの管理組合があり、PTAがあり、生徒会がある。他にも自分の目的が叶うはずの公的な場所はいろいろ考えられる。
落合渉悟(著)僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた:Chapter 03 After Algaで、世界はどう変わるか。「マイクロパブリック」から見えてきた自由な世界の青写真
「なぜ、Algaを始めるにあたってまずマイクロパブリックを選んだのか、志があるのに、どうして国のことを語らないのか」という問いに対して、著者はこう述べています。
理由は明白だ。使ってみてもいないものを国が採用するはずはない。使ってみて、その利便性の高さを腹落ちしてこそ、人はその価値を知るし、他の人々にもその価値を伝え、共有しようとするものだ。
だからまず、身近なところから、このAlgaというプロジェクトを推し進めたいと考えた。
落合渉悟(著)僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた:Chapter 03 After Algaで、世界はどう変わるか。「マイクロパブリック」から見えてきた自由な世界の青写真
Alga導入前と導入後のDAOの運用例
マイクロパブリックにAlgaを導入する前と導入した後でどう変わるのか?について著者は比較表で説明しています。
Before | After | |
町内会/マンション管理組合/PTA | ・役職者の負担大 ・会議に参加 ・横領や恣意的運用のリスク | ・役職者不要 ・スマホで提案・決議 ・悪意を排除 |
学内民主主義 | ・学校側の校則に従う ・生徒会の予算不足、運用負担大 | ・校則を生徒が決議 ・民主主義教育(岐阜県教委モデル) ・PTAと予算・運用を連携可能 |
災害 | ・被災者のみが損失負担(自治体の体力低下時) | ・民意で損失負担 ・国家ではない主体による人権保護 |
岐阜県教育委員会について調べたところ、2021年5月21日に県内すべての県立高校と特別支援学校に校則改定プロセス明文化を通知しており、「学内民主主義」を通じて幼少期から民主主義に慣れることで、主権者として自律した市民になることを目的としている。
(参考)「校則の改定プロセス明文化」がなぜ重要なのか?岐阜県教育委員会が明文化を通知(室橋祐貴) - 個人 - Yahoo!ニュース
感想
数年前にブロックチェーンを知ってから社会に応用した場合の可能性の大きさを感じており、昨今では海外の先進的な領域でDAOが広がっているようだが身近に感じることは出来なかった。しかし、この本でAlgoというマイクロパブリックを対象としたスマホアプリの存在を知り、またAlgaに込められた思想家でありエンジニアである著者の思考の深さに驚かされた。この本を読み終えてからAlgoを他の人にも伝えたい、Algoを使えるマイクロパブリックを探して使ってみたい、という気持ちになった。
Chapter02「テクノロジーと現代社会をめぐる3つの冒険」と題して、著者と有識者3名との対話が掲載されており、日本の政治・リスクマネジメント・ITと人権の観点から、Algoにまつわる課題が有識者から問いが出されて著者が答えていく形式で進められている。Chapter01で提案されたAlgoに対して有識者と熟議している内容であり、Algoが対象とする現代社会の課題と解決の方向性をより深く考えることができた。
Appendixとして「落合渉悟とAlgaを知るための用語集」が掲載されており、ブロックチェーン、テクノロジー、物理学/情報理論/計算機科学、人文科学、規制、社会に関わるDAO、について全部で50以上の用語について解説している。とても一度読んだだけでは把握できない内容でとても参考になる。これから何度も参照することになりそうだ。
参考文献
著者の情報
リンク集
【取材】ブロックチェーンで民主主義の改善を目指す、DAOアプリ「Alga」発表(落合渉悟 インタビュー) | あたらしい経済
書籍・雑誌
WIRED(ワイアード)VOL.44
「WIRED(ワイアード)VOL.44 Web3特集」P.56-66「DAO FOR NATIONS 22世紀の民主制」にこの本の著者のインタビュー記事が掲載されている。
他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ:ブレイディ みかこ(著)
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
キュー:上田 岳弘(著)
The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ) なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか:デビッド・ロブソン(著)
50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ:ティム・ハーフォード(著)
DAOがわかる本おすすめ
まとめ
この本は「Alga(アルガ)」というDAOを製造するスマホアプリをマイクロパブリック運営に使うことを提案しており、背景や考え方、有識者3名との対話内容、そして豊富な関連情報を収録している本です。
Web3で社会がどう変わるのかに関心がある人、DAOに興味ある人、既存の民主主義に疑問を感じている人、などにおすすめの本です。
本の価格に対して極めて内容が濃い本で、何度も読み返す甲斐があります。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- Introduction
- Chapter 01:DAOによるメタ国家樹立宣言:誰しもが主人公となる新しい世界の構築
- この奪い合いに終止符を打つ。僕が選んだ、もうひとつの選択。
- この閉塞感を乗り切る。Algaという使い勝手のいいツールひとつで。
- 武器もデモ活動もいらない。新しい世界はみんなに開かれている。
- あなたは今、自由か。あなたは今、誰の管理下にあるのか。
- リーダーがいない世界。そこであなたはリーダーだ。
- あらためて技術のこと。そして志と呼ばれるものについて。
- ブロックチェーンが自明のものとしてその名を消すとき、民主主義は大きく改編される。
- もう一度、民主主義と人権について、まっさらな目で考えてみる。
- 「Algaによるメタ国家」という新しい世界の改善案をポストする。
- 「Alga」を使って教育現場から変えるワーキングマザーのスマホ改革
- 10年後に日本の周縁部から浸透する
- 「DAO for Nation」へのロードマップ。
- SNSアカウントだけで住民票と投票権。実現できるのにみんなが不安になる本当の理由。
- Chapter 02:テクノロジーと現代社会をめぐる3つの冒険:有識者と落合渉悟による白熱議論全録
- 足元から参政せよ。DAOで取り戻す民主主義の本質(Talk Partner:樋田桂一 ブロックチェーン戦略政策研究所代表)
- DAOが世界を変える シン資本主義と民主主義2.0(Talk Partner:内田善彦 東京大学 特任教授)
- ブロックチェーンで変える 僕たちの「自由」と「平等」(Talk Partner:星暁雄 ITジャーナリスト)
- Chapter 03:Algaを知る、Algaを使う:DAOで実現する全員参加の新しい自治区
- What is Alga?
- Algaとはいったい何なのか。全員がリーダーでいられることの自由
- Algaはどこから来たのか。法哲学までさかのぼって知るAlgaの必然
- Algaはどのように生まれたか。DAOが創り出す権力フリーの構図
- After Algaで、世界はどう変わるか。「マイクロパブリック」から見えてきた自由な世界の青写真
- Algaはいったいどこへ行くのか。難民キャンプでAlgaが使われることのほんとうの意味
- 資本主義を監視し、改善を続ける。ビットコインの是認は資本主義の肯定と同義
- Appendix:メタ国家樹立のための資料集
- 思想家・落合渉悟の本棚
- 落合渉悟とAlgaを知るための用語集
- TEDx講演「The Fairest Democracy」全訳
- 谷川俊太郎訳「わかりやすい世界人権宣言」
- Afterword