VR(Virtual Reality, 仮想現実)の歴史や特徴的な用途、ソーシャルVRで起きていることから、フェイスブックのVRや触感の活用などこの先5年、10年、20年の未来予測までを網羅したVRというテクノロジーの潜在能力と可能性を理解できる本です。
この本を読むと、あなたをVRのエバンジェリスト(伝道者)に変えるきっかけになります。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書誌情報
日本語版
原著(英語版)
著者紹介
著者のピーター・ルービン(Peter Rubin)はWIREDの雑誌・オンライン版シニアエディターとしてカルチャーからデジタルプラットフォームまで幅広いトピックを担当しています。
著者は「この本を読むためにVRの予備知識は必要ないということだ。VRというテクノロジーと、その潜在能力を理解してもらうことが、この本の最大の目的である。」と述べています。
著者はVRについて一通りの知識を持っている人にもお勧めする理由をこう述べています。「VRのテクノロジー部分は知り尽くしているという人は、この本を通じて、人間的な部分を探求してほしい。(中略)仮想世界で起こる感情的、認知的、心理的な反応は、間違なくぼくたち人間を根本から変えていく。」
この本ではVRがもたらすメリットの数々を確認しながら、VR体験を一歩先に進めようとしている人たちや、VRの恩恵を受ける人たちの話を聞いていき、画期的な発見を紹介しつつ、VRがいかにして親密さをはぐくみ、深めていくかをさまざまな角度で見ていきます。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめに / ヴァーチャル・リアリティへようこそ
- プレゼンス / 現実を超える現実感
- 脳内セラピー / 瞑想と実体的プレゼンス
- ハリネズミのジレンマ / プレゼンスが感情を刺激する
- VRがもたらす親密さ / 決定的瞬間とストーリー
- ソーシャルVRの台頭 / RPGからハラスメントまで
- 新たなプラットフォーム / フェイスブックとVR
- VRで育む友情 / レックルームと新型ロマンス
- リアルな手ざわりへ / 触覚的プレゼンス
- ポルノ改革プログラム / ”普通の”エロさを取り戻せ
- ぼくらの行く先 / ヘッドセットのいらない未来
- おわりに / 2028年のある一日
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
この本を読んで注目した点を紹介します。
ソーシャル・プレゼンス
1つ目の注目点は「ソーシャル・プレゼンス」についてです。
第3章「ハリネズミのジレンマ」でオキュラスが制作した短編VRアニメ「ヘンリー(Henry)」を取り上げています。
著者は「ソーシャルなプレゼンスとは、VR世界で自分の存在を認識しているものがそばにいる」ということで、「ヘンリーが見つめたときに起こるのが、まさにこの現象だ。」と述べています。
ところがVRでは、みなさんはその場にいる。そこにいてすべての時間を、流れの中で、誰にも邪魔されることなく体験する。ヘンリーが見ているものをすべて見て、、彼の感じていることをすべて感じられる。そしておそらく最も大切なのが、ヘンリーがあなたを見ることだ。ヘンリーはこちらに目を据える。つまり、あなたの存在に気づいている。ヘンリーは現実世界と劇中世界のあいだにあるという〝第4の壁〟を壊す。
ピーター ルービン. フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.959-963). Kindle 版.
デジタルで生成されたキャラクターからの視線を感じるというのは他のメディアでは体験できないことです。
私は実際にオキュラスQuest 2に「ヘンリー(Henry)」をダウンロードして体験してみたところ、確かにヘンリーの視線を感じました。
決定的瞬間と親密さ
2つ目の注目点は「決定的瞬間と親密さ」についてです。
第4章「VRがもたらす親密さ」で、カナダ人のCMディレクターが制作したVR映画「ストレンジャーズ」を著者が体験し、ピアノを弾いている男と一緒にいる瞬間から親密さを感じたことを述べています。
瞬間は人と人のつながりの小さな切れ端だ。人は一日のあいだにたくさんの人と触れ合う。同僚にショップの店員、同じバスに乗り合わせた人。触れ合いの記憶は長く残るが、触れ合いそのものは瞬間だ。一緒に笑い合う瞬間もあれば、驚くほど真剣になる瞬間も、同情を示す瞬間もある。瞬間は親密さを築くためのブロックで、そしてまだ親密な関係を築いていない人とのあいだにも、親密さを感じることはできる。そしてVRがあれば、相手が実際にそばにいなくても、そうした〝決定的瞬間〟を生み出すことはできる。
ピーター ルービン. フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1384-1388). Kindle 版.
残念ながらこのVR映画を体験できていませんが、VRを使うことで相手が実際に物理的にそばにいなくても親密さを感じる決定的な瞬間を生み出せることは、自分自身の体験を拡げる新しいメディアになるので興味深い感覚です。
新たなタイプの親密さ
3つ目の注目点は「新たなタイプの親密さ」についてです。
第6章「新たなプラットホーム」で、2017年初頭にフェイスブックがソーシャルVRに可能性にまつわる内部調査で「人がVRの世界でどのような行動を取るのかと、それをどう感じるか」を測定した結果を述べています。
実験で評価した項目の1つに「愛着」があった。これは脳波の数値を総合的に見た指標で、高覚醒状態と肯定的な動機づけの組み合わせを指す(高覚醒と否定的な動機づけの組み合わせは不安を、低覚醒の場合は退屈や嫌悪を表す)。内向的な人は、相手と直接向き合っているときよりもVRで話しているときのほうが平均して高い愛着を示した。またVRグループでは、時間がたつにつれて「認知労力のレベル」が下がった。つまり、会話が個人的な話題に及んでも、負担にならず相手と話しやすく感じたわけだ。
これは、VRが内向的なタイプにとってストレスを軽減する魔法の装置だという意味ではない(中略)。むしろVRが新たなタイプの親密さを生み出したというほうが近い。個人的な接触なしにはぐくまれる親密さと言うべきか。
ピーター ルービン. フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2230-2239). Kindle 版.
内向的なタイプ、社交的なタイプに関わらず、相手と直接向き合って話す方法以外にも、VRを使って他人に対して愛着や親密さを生み出す可能性があるという実験結果は、今後の社会での人間関係を改善する方策として興味深く印象に残った。
感想・口コミ・書評記事
感想
まずこの本を読んで良かったことは、ヘンリーなどのVR短編映画を知ることができたことだ。最近Quest 2を買ったばかりでVRゲーム以外のコンテンツを探していたので参考になった。ただこの本の出版が2018年と少し古いので見つけられなかったり、Quest 2に対応していないものもあるのは残念だ。
この本を読むまでは、VRは「共感」を高める特徴があることは理解していたが、共感以上に没入感を高めうる要素として「親密さ」があることが分かった。これからVR体験をする中では共感だけでなく親密さを感じるかという観点でも考えていこうと思う。
フェイスブックが目指しているソーシャルVRの考え方が分かったのはこの本を読んで良かったことだ。例えば「フェイスブックがVRを取り入れた意図は、人間関係を築くためではなく、既存の人間関係を深めるためなのだ。関係は体験を共有することによって築かれる。」ということを目的として、”自撮り棒”ツールで友人と一緒にVR写真を撮ってフェイスブックに投稿できる機能があることなど。
口コミ
Twitter口コミを紹介します。
書評記事
BookReview: フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 | yoshikoo's office
VRはリアルだ。それはAI以上にぼくらの世界を激変させる:ピーター・ルービン『フューチャー・プレゼンス』(ブックレヴュー) | WIRED.jp
参考文献
著者について
Peter Rubin の最新記事一覧 | WIRED.jp
VRが変える これからの仕事図鑑:赤津 慧 , 鳴海 拓志(著)
世界2.0 メタバースの歩き方と創り方:佐藤航陽(著)
この本の注目点や感想、本の目次などをブログ記事で紹介しています。
VRがわかる本おすすめ
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
VR(Virtual Reality, 仮想現実)の歴史や特徴的な用途、ソーシャルVRで起きていることから、フェイスブックのVRや触感の活用などこの先5年、10年、20年の未来予測までを網羅したVRというテクノロジーの潜在能力と可能性を理解できる本です。
この本を読むと、あなたをVRのエバンジェリスト(伝道者)に変えるきっかけになります。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- はじめに / ヴァーチャル・リアリティへようこそ
- Introduction: Welcome to Virtual Reality
- プレゼンス / 現実を超える現実感
- Presence: What It Is, Where to Find It, How to Stay There
- VRという発想に多くの人が魅了されるようになったきっかけを振り返る
- 脳内セラピー / 瞑想と実体的プレゼンス
- Alone on a Mountaintop: How "In Here" Helps "Out There"
- 仮想現実が自分自身との関係に与える影響を考察する
- ハリネズミのジレンマ / プレゼンスが感情を刺激する
- Hedgehog Love: Engineering Feeling with Social Presence
- VRのプレゼンスを使っていろいろな感情を刺激する作品を紹介する
- VRがもたらす親密さ / 決定的瞬間とストーリー
- Empathy vs. Intimacy: Why Good Stories Need Someone Else
- 親密さがVR業界の最後のフロンティアである理由をお伝えする
- ソーシャルVRの台頭 / RPGからハラスメントまで
- What to Do and Who to Do It With: How Social VR is Reinventing Everything from Game Night to Online Harassment
- VR内での集団行動について考える
- 新たなプラットフォーム / フェイスブックとVR
- The Starry Night That Wasn't There: Social Media, Intimacy, and the Memory of Experience
- フェイスブックがソーシャルVRをどう考えているかを見ていこう
- VRで育む友情 / レックルームと新型ロマンス
- Rec Room Confidential: The Anatomy and Evolution of VR Friendships
- VRを介したロマンスの可能性について考えていく
- リアルな手ざわりへ / 触覚的プレゼンス
- Reach Out and Touch Someone: Haptics, Tactile Presence, and Making VR Physical
- 触感的プレゼンスという新しい考え方を簡単に紹介する
- ポルノ改革プログラム / ”普通の”エロさを取り戻せ
- XXX-Change Program: Turning Porn Back into People
- VRがもたらすプレゼンスと親密さが業界の常識を一変させている様子を見ていく
- ぼくらの行く先 / ヘッドセットのいらない未来
- Where We're Going, We Don't Need Headsets: Let's Get Speculative
- VRと”拡張現実”が近い将来に融合する可能性、その普及が人々の生活に与える長期的な影響を見ていく
- おわりに / 2028年のある一日
- Conclusion: When Hindsight Is 2020: What Life in 2028 Might Actually Look Like