「なぜスタートアップが失敗するのか?」について、ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディでの議論から導いた6つの失敗パターンと対処方法、そして起業家が失敗に対処し立ち直る方法まで解説している本です。
これから起業を目指す人、すでにスタートアップを起業している創業者や社員、ベンチャーキャピタリストなど、スタートアップに関わりある人に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
日本語版
原著(英語版)
著者紹介
Tom Eisenmann(トム・アイゼンマン)
ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)ハワード・H・スティーブンソン経営学教授。
アーサー・ロック・センター・フォー・アントレプレナーシップの共同議長を務める。
共著で執筆した130におよぶHBSケーススタディは、ビジネススクールや経営者教育で使用され、150万部以上販売されている。
(著者紹介より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。(「はじめに」より一部引用)
幸いなことに、他人の失敗から学ぶことは、直接の経験に変わるものです。
ハーバード・ビジネス・スクールでは、ケーススタディを通して学ぶ方法を採用しています。
ケーススタディは、起業家が失敗を予見し、未然に防ぐための強力なツールであることが分かりました。
私の調査から、スタートアップの失敗の大部分を説明する、6つの明確なパターンが見つかりました。
Part1「ローンチの失敗」では、アーリーステージのスタートアップによく見られる3つの失敗パターンを取り上げます。
Part2の「規模化(スケーリング)の失敗」では、経営資源の豊富なレイターステージのスタートアップが失敗する理由として、さらに3つのパターンを分析しています。
私は、スタートアップの失敗に伴う個人的な苦痛を軽減する方法があるのではないかと考えました。
本書のPart3「失敗の仕方」では、起業家が失敗にどう対処するかに焦点を移して、この課題を議論します。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- はじめに 有能なスタートアップはなぜ失敗してしまうのか?
- Introduction 起業の失敗とは何か?
- Part 1 ローンチの失敗ーーアーリーステージ
- Chapter 1 ビジネスが先か、経験が先か
- Chapter 2 良いアイデアと悪い相棒
- Chapter 3 フライングの罠
- Chapter 4 擬陽性
- Part 2 規模化の失敗ーーレイターステージ
- Chapter 5 レイターステージの6Sフレームワーク
- Chapter 6 スピードトラップ
- Chapter 7 助けが必要
- Chapter 8 ムーンショットと奇跡
- Part 3 失敗の仕方ーー継続すべき時、終了すべき時
- Chapter 9 ガス欠
- Chapter 10 立ち直るために
- はじめて起業するあなたへ
- 訳者あとがき
- 原注
- 参考文献・情報ソース
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
フライングを防ぐためにすべきこと
1つ目に注目した点は「Part 1 ローンチの失敗ーーアーリーステージ」の「Chapter 3 フライングの罠」に書かれている「フライングを防ぐためにすべきこと」です。
著者は、多くのアーリーステージのベンチャー企業に共通する失敗パターンである「フライング」は、「顧客調査を十分行わずに最初のプロダクトを急いでローンチした結果、せっかく見つけたチャンスに問題があることに気づく、というパターンです。」と述べています。
フライングを避けるためには、第1段階「問題定義」では、満たされていないニーズと、そのニーズを最も必要としている顧客層を特定する必要がある、と述べています。
問題定義フェーズにおいてまず行うべき、「顧客インタビュー」に関するよくある失敗を、著者は以下のように挙げています。
トム・アイゼンマン. 起業の失敗大全スタートアップの成否を決める6つのパターン (Japanese Edition) (p.144). Kindle 版.
- 自分が顧客であるがゆえに、顧客のニーズを理解していると思い込んでしまう
- 安易なサンプリング
- 関係者全員にインタビューしていない
- アーリーアダプターのみを対象としている
- 誘導尋問
- 予測を求める
- 自分のソリューションを売り込む
(愚か者たちの)ゴールドラッシュ?
2つ目に注目した点は「Part 2 規模化の失敗ーーレイターステージ」の「Chapter 6 スピードトラップ」に書かれている「(愚か者たちの)ゴールドラッシュ?」です。
著者は、「強力なネットワーク効果、高いスイッチングコスト、強力な規模の経済性、これらすべてがスタートアップの急成長を促します。しかし、ときには、これらの恩恵を受けていなくても、スタートアップは成長を加速させることを目指します。」と述べています。
起業家が成長のために過剰な投資をしてしまう理由を3つ、述べています。
第一に、顧客獲得のために過剰な投資をしていることを、理解していないことが挙げられます。
次に、マーケティング費用が過剰であることはわかっていても、自信過剰や希望的観測によって、より良い結果がすぐそこにあると思い込んでしまうのです。
3つめの理由は、より困ったものです。起業家が、「土地の奪い合い」に陥っていることを知り、それにもかかわらず投資家がベンチャーを過大評価している場合、彼/彼女は投機的バブルを利用する機会があると考えます。
トム・アイゼンマン. 起業の失敗大全スタートアップの成否を決める6つのパターン (Japanese Edition) (p.238). Kindle 版.
内省(リフレクション)
3つ目に注目した点は「Part 3 失敗の仕方ーー継続すべき時、終了すべき時」の「Chapter 10 立ち直るために」に書かれている「内省(リフレクション)」です。
著者は、すべての起業家は失敗した後、自分自身を見つめ直す必要があり、彼らは自分自身に次のような一連の質問をするべき、と述べています。
トム・アイゼンマン. 起業の失敗大全スタートアップの成否を決める6つのパターン (Japanese Edition) (p.336). Kindle 版.
- 失敗は避けられたか?価値を創造したり、維持したりするために、もっと何か違うことができたのではないか、すべきだったのではないか?
- スタートアップは本当に自分に向いているのか?
- もう一度やり直すとしたら、そうするか?
- この経験から何を学んだのか?
- この経験から、自分自身の得意なことや改善すべき点を知ることができたか?
- 人々は再び、私の戦いについてきてくれるだろうか?そうすべきか?
- 人々は再び、私に投資してくれるだろうか?そうすべきか?
感想・口コミ・書評記事
感想
スタートアップが失敗してしまう原因となる行動やパターンを、ケーススタディで学ぶ内容になっていることに興味を持ち、この本を読んでみました。
一番最初のケーススタディは、ソーシャルロボット事業の「ジーボ(Jibo)」です。MITメディアラボで誕生し、2013年にシード資金を調達してから2019年3月に終了がアナウンスされるまでに起きた内部の出来事と、なぜ失敗したか?、起業の失敗とは何か?という分析が書かれており、テクノロジー企業事例として興味深い内容と解説になっています。(参考:Jiboの記事)
ケーススタディには、テクノロジー企業だけではなく、アパレル、出会い系マッチングサイト、ペットケア企業、ショッピングサイト、電気自動車といった事例が取り上げられており、どのような失敗が起きてしまうのかをドキドキしながらストーリーに入り込んで読みました。
ケーススタディだけではなく、Chapter 1ではスタートアップの事業機会とリソースを見極めるための「ダイヤモンド&スクエア・フレームワーク」や、Chapter 3では初期プロセスのフレームワーク「ダブル・ダイヤモンド・デザイン」、Chapter5でがレイターステージの「6Sフレームワーク」など、失敗を回避する方法も解説されており、読む前の予想を超えて学べる内容になっていました。
「Part 3 失敗の仕方」には起業家がビジネスを閉鎖する決断、選択、方法だけでなく、起業家の感情面に対するアドバイスや、失敗から立ち直って再挑戦に至るまでの考え方や過ごし方が書かれており、自分自身を客観的にみることに役立つ内容になっています。
実在したスタートアップ企業のケーススタディでスタートアップで起こりうることを学べる貴重な一冊であり、スタートアップ企業に関わる人は自分自身の状況に合わせて、必要な箇所を何度も読み直すような使い方ができる本だと感じました。
口コミ
書評記事
参考文献
この本の参考文献に記載されている本や関連する本を紹介します。
リーン・スタートアップ:エリック・リース(著)
「はじめに」、「Chapter 3 フライングの罠」の参考文献です。
ゼロ・トゥ・ワン:ピーターティールほか(著)
「イントロダクション」の参考文献です。
プラットフォーム・レボリューション:ジェフリー・G・パーカーほか(著)
「Chapter 1 ビジネスが先か、経験が先か」の参考文献です。
SPRINT 最速仕事術:ジェイク・ナップほか(著)
「Chapter 3 フライングの罠」の参考文献です。
キャズム Ver.2 増補改訂版:ジェフリー・ムーア(著)
「Chapter 3 フライングの罠」の参考文献です。
ブリッツスケーリング:リード・ホフマンほか(著)
「Chapter 5 レイターステージの6Sフレームワーク」の参考文献です。
この本の注目点や感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
HARD THINGS:ベン・ホロウィッツ(著)
「Chapter 5 レイターステージの6Sフレームワーク」の参考文献です。
Measure What Matters(メジャー・ホワット・マターズ):ジョン・ドーア, ラリー・ペイジ(著)
「Chapter 5 レイターステージの6Sフレームワーク」の参考文献です。
Who You Are(フーユーアー):ベン・ホロウィッツ(著)
「Chapter 5 レイターステージの6Sフレームワーク」の参考文献です。
この本の注目点や感想、目次などをブログ記事で紹介しています。
ファスト&スロー:ダニエル・カーネマン(著)
「はじめて起業するあなたへ」の参考文献です。
スタートアップにおすすめの本
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
「なぜスタートアップが失敗するのか?」について、ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディでの議論から導いた6つの失敗パターンと対処方法、そして起業家が失敗に対処し立ち直る方法まで解説している本です。
これから起業を目指す人、すでにスタートアップを起業している創業者や社員、ベンチャーキャピタリストなど、スタートアップに関わりある人に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- はじめに 有能なスタートアップはなぜ失敗してしまうのか?
- Introduction 起業の失敗とは何か?
- ジーボのどこが失敗だったのか?
- 起業の失敗の定義
- 馬とジョッキー
- Part 1 ローンチの失敗ーーアーリーステージ
- Chapter 1 ビジネスが先か、経験が先か
- 堂々巡り問題
- ダイヤモンド&スクエア・フレームワーク
- 機械に関する要素
- リソースに関する要素
- Chapter 2 良いアイデアと悪い相棒
- クインシーの「有望な馬」と「有能なジョッキー」
- 起業家の側の問題
- チーム側の問題
- 投資家の側の問題
- パートナーの側の問題
- スモールスタートこそ善
- Chapter 3 フライングの罠
- トライアンギュレート
- 第1のピボット:ウィングズ
- 第2のピボット:翼(ウィングズ)が折れ、エンジンが止まった
- 第3のピボット:データバズ
- なぜ起業家はフライングしがちなのか?
- フライングを防ぐためにすべきこと
- Chapter 4 擬陽性
- 遊休スペースを活用するペットケア企業、バルー
- 初期の成功が拡大につながる
- 成長の痛み
- 起死回生と事業閉鎖
- 期待値を変える
- 擬陽性を回避する方法
- Chapter 1 ビジネスが先か、経験が先か
- Part 2 規模化の失敗ーーレイターステージ
- Chapter 5 レイターステージの6Sフレームワーク
- フライパンを飛び出す
- 6Sフレームワーク
- Chapter 6 スピードトラップ
- 速すぎる規模化とは?
- スピードトラップとは?
- RAWIテスト
- 準備はできたか?(Ready?)
- 可能か?(Able?)
- 意欲的か?(Willing?)
- 呼び込むか?(Impelled?)
- (愚か者たちの)ゴールドラッシュ?
- Chapter 7 助けが必要
- 強力なオンラインストア、ドット&ボー
- マネージャー不在
- システムの不備
- Chapter 8 ムーンショットと奇跡
- 画期的な電気自動車ビジネスモデルのベタープレイス
- 求められる「奇跡の連鎖」
- ムーンショットのためのパートナーシップ
- 需要の予測
- 遅延への対応
- 偏執狂的な起業家を活かす
- Chapter 5 レイターステージの6Sフレームワーク
- Part 3 失敗の仕方ーー継続すべき時、終了すべき時
- Chapter 9 ガス欠
- 事業の停止の判断はなぜ難しいのか?
- 失敗のプレリュード
- プラグを抜けるか?
- 辞める、または身を引く
- 終焉
- Chapter 10 立ち直るために
- 失敗会社を離れた共同創業者は‥‥‥
- 回復
- 内省(リフレクション)
- 再挑戦
- [column] 起業家たちがその後にしたこと
- Chapter 9 ガス欠
- はじめて起業するあなたへ
- 訳者あとがき
- 原注
- 参考文献・情報ソース