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【注目点・感想】多数決を疑う 社会的選択理論とは何か:坂井豊貴(著)

2022年10月28日

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多数決は本当に多数の意思を適切に反映しているのか?人びとの意思をよりよく集約する学問である「社会的選択理論」について、歴史や思想を交えて数式を使わずに平易に解説している本です。

異なる多数の意思を一つに集約する方法に興味がある人、「多数決」や「投票」にばくぜんとした違和感を感じている人、「多数決で決めた結果だから民主的」「選挙で勝った自分の考えが民意」という言葉に同意する人・同意しない人に、一読をおすすめします。

本の概要注目点感想・口コミ・書評記事参考文献、を紹介します。

本の概要

書籍情報

坂井 豊貴(著)岩波書店(出版社)2015/4/21(発売日)181P(ページ数)

著者紹介

坂井 豊貴(さかい・とよたか)

慶應義塾大学経済学部教授。

社会的選択理論、メカニズム・マーケットデザイン。

著者が伝えたいこと

著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。

「多数決という語の字面を見ると、いかにも多数派に有利そうだが、必ずしもそう働くわけではない。とはいえそれは少数意見を汲み取る方式でもない。おそらく多くの人は、多数決に対するそのような違和感を、どこかで感じたことがあるのではないか。」

「多数決が当たり前のように各地で用いられているわけだが、代替案はいろいろある。そのうちの一つがボルだルール、1位に3点、2位に2点、3位に1点というように、順位に等差のポイントを付け加点していくやり方だ。」

「こうした学問的な試みが18世紀後半、フランス革命前のパリにて始められた。始めたのは二人の才人、ボルダとコンドルセである。今日ではそうした学知の集積は、社会的選択理論という社会科学の一分野を形成している。」

「本書では、この分野の諸成果を、歴史や思想を交えて平易に語っていく。社会的選択理論自体は数理的な学問だが、本書を読むのに数学はいらない。」

本の目次

本の目次を引用して紹介します。

  • はじめに
  • 第1章 多数決からの脱却
  • 第2章 代替案を絞り込む
  • 第3章 正しい判断は可能か
  • 第4章 可能性の境界へ
  • 第5章 民主的ルートの強化
  • 読書案内
  • 主要参考文献
  • おわりに

もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。

注目点

この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。

多数意見は尊重されるか

1つ目に注目した点は「第1章 多数決からの脱却」の「1 多数決を見つめ直す」に書かれている「多数意見は尊重されるか」です。

著者は、「多数決」という言葉の字面を眺めると、いかにも多数派の意見を尊重しそうであるが、そもそも多数決で、多数派の意見は常に尊重されるのだろうか、ということについて、2000年のアメリカ大統領選挙を例にあげて説明しています。

それは、共和党のブッシュ候補と民主党のゴア候補が立候補し接戦だった中、途中で「第3の候補」としてネーダー候補が立候補した。ネーダーの政策はブッシュよりゴアに近く、選挙でネーダーはゴアの支持層を一部奪うことになった。結果、票が割れてブッシュが漁夫の利を得る結果になった、という内容です。

著者は、投票で「多数の人々の意思をひとつに集約する仕組み」のことを集約ルールという、として現状の問題を以下のように述べています。

確かに多数決は単純で分かりやすく、私たちはそれに慣れきってしまっている。だがそのせいで人々の意見が適切に集約できないのなら本末転倒であろう。それは性能が悪いのだ。(中略)

さらにいえば、有権者の無力感は、多数決という「自分たちの意思を細かく表明できない・適切に反映してくれない」集約ルールに少なからず起因するのではないだろうか。であればそれは集約ルールの変更により改善できるはずだ。

坂井 豊貴. 多数決を疑う 社会的選択理論とは何か (Japanese Edition) (p.19). Kindle 版.

なぜボルダ配点が優れているのか

2つ目に注目した点は「第1章 多数決からの脱却」の「2 ボルダルール」に書かれている「なぜボルダ配点が優れているのか」です。

著者は、1770年6月にジャン=シャルル・ド・ボルダが、パリ王立科学アカデミーで多数決についての研究報告を行なった内容を解説しています。

  • ボルダが考えた集約ルール(ボルダ・ルール)は、例えば選択肢が3つだとしたら、1位には3点、2位には2点、3位には1点というように加点をして、その総和(ボルダ得点)で全体の順序を決めるやり方である
  • 順位に配点して得点の総和で選択肢を順序付ける方式のことを一般にスコアリングルールという
  • ボルダルール以外の配点の仕方は無数にあるが、ボルダルールでなければならない理由は何なのだろうか

そして著者は、一例として「1位に6点、2位に3点、3位に2点」とするスコアリングルールについて、表を用いて解説し結論を以下のように述べています。

よってボルダルールはペア敗者規準を満たす唯一のスコアリングルールというわけだ。

これは強力な結果である。スコアリングルールを使うとして、どの配点の仕方がよいかを考えたとき、ペア敗者規準を満たすものはボルダルールしかない

坂井 豊貴. 多数決を疑う 社会的選択理論とは何か (Japanese Edition) (p.25). Kindle 版.

あるのは民意か集約ルールか

3つ目に注目した点は「第2章 代替案を絞り込む」の「3 さまざまな集約ルール」に書かれている「あるのは民意か集約ルールか」です。

著者は、多数決、ボルダルール、ヤング・コンドルセの最尤法など、どの集約ルールを使うかで結果は大きく変わりうるとして、5つの集約ルールがすべて異なる結果を選び取るマルケヴィッチの判例を、表を用いて解説しています。

  1. 多数決(Xの勝利)
  2. ボルダルール(Wの勝利)
  3. コンドルセ・ヤングの最尤法(Vの勝利)
  4. 決選投票付き多数決(Yの勝利)通常の多数決に、決選投票をつけたもの
  5. 繰り返し最下位消去ルール(Zの勝利)国際オリンピック委員会が候補地の選定でよく使っている

「このように、どの集約ルールを使うかで結果はすべて変わるわけであり、結局のところ存在するのは民意というより集約ルールが与えた結果にほかならない」と著者は述べ、どうすれば良いのかを以下のように解説しています。

言ってしまえば、私たちにできるのは民意を明らかにすることではなく、適切な集約ルールを選んで使うことだけなのだ。

ではその適切さはどう測るか。具体的には、説得性の高い規準を設けて、それを満たす・満たさないで集約ルールをテストするということになる。

坂井 豊貴. 多数決を疑う 社会的選択理論とは何か (Japanese Edition) (p.59). Kindle 版.

感想・口コミ・書評記事

感想

この本は、先日読んだ「暗号通貨vs.国家 ビットコインは終わらない:坂井豊貴」(ブログ記事)の著者が書いた本であることと、DAO(分散型自律組織)がガバナンス・トークンを所持して議題に投票する仕組みで運営されていることから、多数決とか投票に興味を持っているので手に取りました。

この本を読んでみて、自分自身が持っていたばくぜんとした「多数決に対する違和感」の原因が明らかになり、それを解消する方法にはどのようなものがあるのかを知ることができて、とても有意義でした。

この本の特徴は、単に社会的選択理論について解説するだけではなく、社会的選択理論の萌芽に250年前のルソーの社会契約論が深く関係しているとして、ルソーの投票をめぐる包括的な考察を適宜引用しながら、社会的選択理論の歴史や思想を記述している点です。

その歴史や思想では、多数決を含む集約ルールの研究をはじめた、ボルダとコンドルセの理論がわかりやすく説明されているだけでなく、二人の間での議論を交えた「物語」まで、当時の情景が垣間見えるように書かれていて面白く読みました。

第3章では、ルソーの『社会契約論』における「人民」「主権」「一般意志」「熟議と熟慮」「自由(道徳的自由、市民的自由、自然的自由)」など、ふだん深い意味として捉えていなかった言葉について知ることができ、予測していなかった収穫であった。

冒頭で著者は、赤道直下の太平洋に浮かぶ島国「ナウル」では1971年からダウダールールという集約ルールが採用されているにもかかわらず、日本を含む多くの国の選挙では多数決が採用されており、もはや文化的奇習の一種である、と指摘しており、この本を読んでみてその考えが理解できた。

異なる多数の意思を一つに集約する方法に興味がある人、「多数決」や「投票」にばくぜんとした違和感を感じている人、「多数決で決めた結果だから民主的」「選挙で勝った自分の考えが民意」という言葉に同意する人・同意しない人に、一読をおすすめします。

口コミ

書評記事

犬犬工作所: 【読書感想文】多数決のメリットは集計が楽なことだけ / 坂井 豊貴『多数決を疑う』

「多数決を疑う」書評 「選挙で勝ったから民意」の危険|好書好日

わたしたちの意思が適切に反映されるための方策を探る一冊/坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』岩波新書 - 誤読と曲解の読書日記

参考文献

この本に関連する本を紹介します。

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する:坂井豊貴

「3択以上の投票で優れている決め方は何か」「2択投票で多数決を正しく使いこなす」など、社会的選択理論について、より実用的な観点でわかりやすく解説しています。

坂井 豊貴(著)ダイヤモンド社(出版社)2016/7/1(発売日)224P(ページ数)

メカニズムデザインで勝つ ミクロ経済学のビジネス活用:坂井豊貴

「多数決を疑う」の第5章の終盤で触れられているメカニズムデザインと周波数オークションについて書かれています。

暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない:坂井豊貴

暗号通貨(ビットコインなど)の面白さについて、設計の奥深さや込められた理想と現実など、経済学の視点から暗号通貨の思想・制度設計・通貨としての役割を解説している本です。

この本の概要、注目点、感想・口コミ、目次などをブログ記事で紹介しています。

坂井 豊貴(著)SBクリエイティブ(出版社)2019/2/5(発売日)177P(ページ数)

まとめ

本の概要注目点感想・口コミ・書評記事参考文献、を紹介しました。

多数決は本当に多数の意思を適切に反映しているのか?人びとの意思をよりよく集約する学問である「社会的選択理論」について、歴史や思想を交えて数式を使わずに平易に解説している本です。

異なる多数の意思を一つに集約する方法に興味がある人、「多数決」や「投票」にばくぜんとした違和感を感じている人、「多数決で決めた結果だから民主的」「選挙で勝った自分の考えが民意」という言葉に同意する人・同意しない人に、一読をおすすめします。

坂井 豊貴(著)岩波書店(出版社)2015/4/21(発売日)181P(ページ数)

本の目次(詳細版)

この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。

  • はじめに
  • 第1章 多数決からの脱却
    1. 多数決を見つめ直す
    2. ボルダルール
    3. 実用例
    4. 是認投票
  • 第2章 代替案を絞り込む
    1. コンドルセの挑戦
    2. データの統計的処理
    3. さまざまな集約ルール
  • 第3章 正しい判断は可能か
    1. 真実の判定
    2. 『社会契約論』における投票
    3. 代表民主制
  • 第4章 可能性の境界へ
    1. 中位投票者定理
    2. アローの不可能性定理
    3. 実証政治理論
    4. 最適な改憲ハードルの計算
  • 第5章 民主的ルートの強化
    • 立法と執行、主権者と政府
    • 小平市の都道328号線問題
    • 公共財供給メカニズムの設計
  • 読書案内
  • 主要参考文献
  • おわりに

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