ベンチャーキャピタルの著者が、2005年から13年間に創業したスタートアップ企業のデータ集めて、10億ドル達成スタートアップに必要な条件について、創業者・事業・資金調達の観点から分析することで、スタートアップ企業についての誤った通説を正し、新しい見方を提示している本です。
これから起業を目指す人、すでにスタートアップを起業している人、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタリスト、スタートアップに興味関心がある人に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
日本語版
原著(英語版)
著者紹介
Ali Tamaseb(アリ・タマセブ)
ベンチャーキャピタリスト。
シリコンバレーで20億ドル以上の資金を運用し、100億ドル規模のスタートアップ企業に投資しているアーリーステージのVCとして高い評価を得ているData Collective(DCVC)社のパートナー。
(著者紹介より一部引用)
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
「イントロダクション」および「まとめ」から一部引用。
歴史はだいたい繰り返す。私の望みは、読者のみなさんがデータから何かを学び、インタビューから何かのひらめきを得ることだ。私は創業者たちの多様なバックグラウンドを見せて、彼らの歩いてきた道ーー成功だけでなく失敗もーーをたどり、有望な創業者や投資家にダメージを与える誤解や理不尽な偏見を取り除くことを目指している。
本書で特に伝えたかったのは、10億ドル達成スタートアップへの道は、何かを創造したいという熱意から始まることが多いということだ。とてつもない成功を収める会社をつくるために何をすればいいか。まずは会社をつくることだ。これまで会社をつくった経験がなければ、何かを始めること。クラブでも副業でもいい。
本書が誤った通説を正し、新しい見方を読者のみなさんに提示することを望んでいます。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- イントロダクション
- Part1 創業者
- 1 属性についての伝説
- 2 学歴についての伝説
- 3 経歴についての伝説
- 4 スーパーファウンダーとは?
- Part2 事業
- 5 起業の原点
- 6 ピボット
- 7 何をどこで
- 8 プロダクト
- 9 マーケット
- 10 マーケット・タイミング
- 11 競争
- 12 持続的競合優位性
- Part3 資金調達
- 13 ベンチャーキャピタルvsブートストラッピング
- 14 好況・不況
- 15 資本効率
- 16 エンジェル投資家とアクセラレーター
- 17 VC投資家
- 18 資金調達
- まとめ
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
何かをつくらずにはいられない
1つ目に注目した点は「Part1 創業者」の「4 スーパーファウンダーとは?」に書かれている「何かを作らずにはいられない」です。
著者は、「10億ドル達成企業の創業者はほぼすべて、何かを作らずにはいられない人々であり、何かをつくりたいという衝動から大成功する会社が生まれたという話である」と述べています。
そして、「会社をつくることはマラソンであり短距離走ではなく、長い道程ととらえ、それぞれの試みから学ぶのだ」、として、これからの起業家が覚えておくべき教訓を、以下のように述べています。
これからの起業家が覚えておくべき教訓は、最初から10億ドル達成企業を目指す必要はないということだ。
スーパーファウンダーへの道は、何かをつくる、問題を解決する、良いことも悪いことも受け入れて乗り越える熱意を持ち、目的地に着くことではなく、そこまでの過程を楽しめるかどうかだ。
アリ・タマセブ. スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件 (Japanese Edition) (p.121). Kindle 版.
ビタミン剤か痛み止めか
2つ目に注目した点は「Part2 事業」の「8 プロダクト」に書かれている「ビタミン剤か痛み止めか」です。
「ビタミン剤ではなく痛み止めをつくれ」という言葉は、創業者がよく聞かされるアドバイスであるが、データをみると驚いたことに、10億ドル達成スタートアップ企業の中に、ビタミン剤型プロダクトをつくる会社が、思ったより多く名を連ねていた、と著者は述べています。
そして、「重要なのは、創業者は自分がつくっているものが何かを知り、それに合わせて戦略と市場参入の方法を決める必要があることだ」として、痛み止め型プロダクトとビタミン剤型プロダクトのアプローチの違いを以下のように述べています。
痛みがあれば、人はそれを止めるために何でもするだろう。効果がすぐに出るものをさがしている。
顧客はそれを自分でさがし求め、解決策を必需品とみなす。起業家に求められるのは、自分たちがつくるものが、実際に顧客の痛み――売る側が想定する痛みではなく――を和らげるか確かめることだ。
一方、ビタミン剤を買う人は、比較しながら買う傾向があり、おすすめに頼り、買う店をときどき変える。
ビタミン剤型プロダクトは人気が出ると、幅広い顧客にアピールして、それを欲しいと思わせることができる。ほとんどの場合、それが定着して、顧客の中で習慣化される。
アリ・タマセブ. スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件 (Japanese Edition) (p.191). Kindle 版.
VCに求められるものは?
3つ目に注目した点は「Part3 資金調達」の「17 VC投資家」に書かれている「VCに求められるものは?」です。
著者は、VCが取締役会で果たす役割について、さまざまな創業者の考えを紹介しています。
- 「取締役に加わる人については、いつも、いつも、いつも、熟考します」
- 「取締役会には、積極的に成長スピードを上げようとする人物を入れることが重要だ。そしてそれに反対の立場を取り、すでに確立した事業に専念するのではなく、なぜもっと成長しなければならないのかを質問できる人も必要だ」
- 「取締役会は、会社がどのような状況かを説明する場であるべきではない」
そして、ヘンリー・ディシェイズとオーウェン・レイノルズが行なった調査結果を以下のように紹介しています。
創業者が最も重視するのは、契約条件やVC企業が投資を決める速さではなく、VCとの個人的な関係と相性だった。
驚いたことに、創業者はそれらがVCの実績や業界での顔の広さより重要と答えた。
またVCが運営上の助けとなることに関しては、それほど大切とは考えていなかった。
アリ・タマセブ. スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件 (Japanese Edition) (p.372). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
成功するスタートアップ企業の条件を、2005年から13年間のデータを分析して明らかにしていく内容に興味を持って読んでみました。
この本では10億ドル達成スタートアップ企業のデータを、そうなれなかったスタートアップ企業の基準値のデータと比較して分析しています。
たとえば、創業者の「年齢は若いほうがいい?」という問いに対して、データを分析すると、10億ドル達成企業の創業者の年齢は18歳から68歳と幅広く、中央値は34歳であり、創業者と年齢とその企業の成功との間に強い相関はない、という結果が示されており、「スタートアップは若者が始める」といった伝説がくつがえされていて興味深いです。
これ以外にも「技術者でないと成功できない?」「偉大な創業者は大学を中退する?」「専門知識は必須なのか?」など、スタートアップを起業するにあたって、自分自身が思ったり、周りから言われがちなことについて、データを元にその真偽を述べている点が、この本の特徴でとても興味深い内容ばかりです。
スタートアップについて疑問に思うことの中で、データがなかったり、データからわからないことについては、著者の経験やインタビューから得られた事例や知見が書かれているので、スタートアップの実態をさまざまな観点から知るために役立つ内容になっています。
スタートアップの創業者が数多く登場し、成功するまでにどのような過程を経てきたかがわかるところも興味深く、14名の創業者やベンチャーキャピタリストへのインタビューでは詳しくストーリーが書かれているので、データだけではわからないことが伝わってきました。
スタートアップの創業者・事業・資金調達について、定量・定性データに基づいて偏見や伝説に左右されずに実態を学べる、最初の本として適していると感じました。
口コミ
書評記事
『スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件』アリ・タマセブ - ビジネス書をビジネスのチカラに。書評ブログ
参考文献
この本には、日本語訳されている参考文献は記載されていませんでした。
関連する情報を紹介します。
東洋経済オンラインの書籍紹介記事
東洋経済オンラインに、この本を一部抜粋、再構成した4回の連載記事が掲載されています。
スタートアップにおすすめの本
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
ベンチャーキャピタルの著者が、2005年から13年間に創業したスタートアップ企業のデータ集めて、10億ドル達成スタートアップに必要な条件について、創業者・事業・資金調達の観点から分析することで、スタートアップ企業についての誤った通説を正し、新しい見方を提示している本です。
これから起業を目指す人、すでにスタートアップを起業している人、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタリスト、スタートアップに興味関心がある人に一読をおすすめします。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- イントロダクション
- ありとあらゆる伝説
- 成功するスタートアップ企業の始まりとは?
- 本書の構成とねらい
- 10億ドル達成企業をつくる起業家の条件
- 手法と統計 データを正しく読み解くために
- Part1 創業者
- 1 属性についての伝説
- 年齢は若いほうがいい?
- 単独での創業は避けるべき?
- 技術者でないと成功できない?
- 親戚・家族どうしだとうまくいかない?
- 21歳で10億ドル達成スタートアップを設立したブレックスのエンリケ・ドゥブグラスへのインタビュー
- 2 学歴についての伝説
- 偉大な創業者は大学を中退する?
- 誰もがMITに行くのか?
- 評価額が数十億ドルに達する企業をつくった大学教授カイト・ファーマとアロジーンのアリー・ベルデグランへのインタビュー
- 3 経歴についての伝説
- 就業経験はあるか?
- 優秀な創業者を輩出している企業は?
- 専門知識は必須なのか?
- 医学分野での経験なしに、評価額が20億ドルに達したがん治療の会社を設立したフラティロン・ヘルス代表ナット・ターナーへのインタビュー
- 4 スーパーファウンダーとは?
- 起業経験がモノを言う
- 今日のスーパーファウンダーが明日の10億ドル達成企業をつくる
- 何度でも起業したくなる人たち
- 何かをつくらずにはいられない
- 二度目の挑戦で成功をつかんだ創業者インスタカートのマックス・マレンへのインタビュー
- 1 属性についての伝説
- Part2 事業
- 5 起業の原点
- アイデアはどこからやってくるのか
- アイデアはこうしてさがす
- 大手テクノロジー企業から始まった10億ドル達成スタートアップコンフルエントのネハ・ナルケーデへのインタビュー
- 6 ピボット
- 事業を転換する
- ピボットからの大成功
- ピボットの難しさ
- ピボットのコツ
- 7 何をどこで
- もはやソフトウェアが主流ではない⁈
- 誰もがシリコンバレーから始めるのか
- その土地で始めたからこその成功
- シリコンバレーからデンバーへ移った10億ドル達成企業ギルド・エデュケーションのレイチェル・カールソンへのインタビュー
- 8 プロダクト
- ビタミン剤か痛み止めか
- 時間の節約か金の節約か
- システムインテグレーションかディープテックか
- 高度な差別化と模倣
- 常に高度に差別化されたプロダクトをつくっている起業家ネストとアップルのトニー・ファデルへのインタビュー
- 9 マーケット
- 新しい市場での大勝利
- 小さな成長中のマーケットか大きな既存のマーケットか
- マーケットをつくるのかシェアを争うのか
- 消費者向けか企業向けか
- マーケットの創設と拡大の両方を行なった創業者ペイパル、アファームのマックス・レヴチンへのインタビュー
- 10 マーケット・タイミング
- 一番乗りでなくてもいい
- なぜ「いま」なのか?
- パーフェクトなタイミングをつかんだスタートアップオスカー・ヘルスのマリオ・シュロッサーへのインタビュー
- 11 競争
- 世界的な大企業に挑む
- 細分化したマーケットでの競争
- 資金力のあるスタートアップ企業と競う
- 強力な大手既存企業との競争ズームのエリック・ヤンへのインタビュー
- 12 持続的競合優位性
- 他社に攻め込まれない強みを持つ
- ネットワーク効果
- ブランド活用による顧客獲得
- 5 起業の原点
- Part3 資金調達
- 13 ベンチャーキャピタルvsブートストラッピング
- 自己資金のみで10億ドル達成
- ベンチャーキャピタルとは何か?
- VC:直感に反する計算
- ブートストラッピングとセルフファイナンス
- 最初の5年間、ブートストラッピングを続け75億ドルの価値を達成した企業ギットハブのトム・プレストン・ワーナーへのインタビュー
- 14 好況・不況
- スタートアップ企業への影響
- 不況の中での大成功
- 不景気の底で始まった10億ドル達成企業クラウドフレアのミシェル・ザトリンへのインタビュー
- 15 資本効率
- 少ない資金でどうやりくりするか
- 多額の資本が必要な企業は成功できない?
- 資本集約から資本効率へ
- 16 エンジェル投資家とアクセラレーター
- エンジェル投資家とは何か?
- 起業と売却を経て投資家に
- アクセラレーターやインキュベーターのプログラム
- 優れたエンジェル投資家がVCに転身ファウンダーズ・ファンドのキース・ラボアへのインタビュー
- 17 VC投資家
- いかに優れた企業に投資するか
- VCに求められるものは?
- VCは何を求めるのか?
- バリュエーションの謎
- 紙のお金を本物のお金に
- エアビーアンドビー、ドアダッシュ、ハウズ、ジップラインなどに投資した人物セコイア・キャピタルのアルフレッド・リンへのインタビュー
- 18 資金調達
- はじめからうまくいくとは限らない
- すぐに資金を得られているのか?
- 10億ドル達成には何年かかる?
- 資金調達のラウンドの期間は?
- 私からのアドバイス
- フェイスブック、スペースX、ストライプに投資した男ピーター・ティールへのインタビュー
- 13 ベンチャーキャピタルvsブートストラッピング
- まとめ
- 謝辞