書籍「『不確実性』超入門」は、現代社会を生きるすべての人にとっての必須の教養といえる「不確実性」の本質とそれに対処するための方法論を、リスクと向き合い続ける金融市場のプロが、明治維新などの歴史からバブル・コロナショックなど幅広い事例とともに解説している本です。
金融投資をこれから始める人やすでに始めている人だけでなく、家庭や仕事で意思決定を行っているすべての人に一読をおすすめします。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介します。
本の概要
書籍情報
タイトル | 「不確実性」超入門 |
著者 | 田渕 直也 |
出版社 | 日本経済新聞出版 |
発売日 | 2021/10/2 |
単行本ページ数 | 400 |
著者紹介
田渕 直也(たぶち・なおや)
金融アナリスト、コンサルタント
株式会社ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役
著者が伝えたいこと
著者はこの本を通じて伝えたいことを以下のように述べています。
不確実性にどのように向き合い、そこから生まれるリスクをいかに制御していけるかが、すべての意思決定者にとって、決定的に重要な要素となる。だからこそ、不確実性を正しく理解することは現代社会を生きるすべての人にとって必須の教養といえるのである。
不確実性の性質や影響を考えれば、短期的な結果に振り回されることなく、長期的な成功の可能性を高めていくことが唯一の解決策となる。これが、本書の最大のメッセージだ。
本書は、不確実性の入門書として執筆されたものであり、不確実性に起因するリスクを管理・制御するための技術的な観点にはあまり触れていない。だが、本当に大切なことは、技術を習得することではなくて、不確実性に対する意識を変えることである。
本の目次
本の目次を引用して紹介します。
- 序章 コロナショックは予見できたのか
- 第1章 ランダム性ーー予測不能性が人を惑わす
- 第2章 フィードバックーー原因と結果の不釣り合いが直感を欺く
- 第3章 バブルーーなぜ「崩壊するまで見抜けない」のか
- 第4章 人間の心理バイアスーー失敗はパターン化される
- 第5章 [CASE1]トランプ・ショックとトランプ・ラリーーー予想外が予想外を生む
- 第6章 [CASE2]コロナ・ラリーと常勝神話の崩壊ーーAIと不確実性
- 終章 人生を長期的成功へと導く思考法
もっとくわしく見たい場合は記事の最後に、本の目次(詳細版)があります。
注目点
この本はどのようなことが書かれているのか?読んでみて注目した点を3つ紹介します。
人はランダムなデキゴトをランダムだと感じられない
1つ目に注目した点は「第1章 ランダム性ーー予測不能性が人を惑わす」の「人はランダムにたやすく惑わされる」に書かれている「人はランダムなデキゴトをランダムだと感じられない」です。
著者は「ランダム性にまつわる本当の問題は、もっと根深いところにある。それは、人はランダムなデキゴトに遭遇しても、それをランダムなものとは感じないようにできているということだ。」と述べています。
そして、ランダムな事象が、人の目にはランダムには見えない例を以下のように述べています。
「コイン投げをして、表が出たらO、裏が出たらXをつけていく。10回コイン投げをするとして、以下のどのパターンがより現れやすそうだと感じるだろうか。」
- ×OO×O××O×O
- OOOOOOOOOO
- XXXXXXXXXX
- XXXXXOOOOO
「答えは、『どのパターンも生じる確率はすべて同じ』である。」
「だが、人の目には(1)はいかにもありそうにみえるものの、(2)〜(4)は(1)よりもはるかにおきそうにないものと感じられるはずである。」
なぜ人は、このようにランダム性を誤認してしまうのだろうか。その要因は、人の心理に根差している。
人の心理には、モノゴトを一瞬のうちにパターン化して認識し、「明確な結果には明確な理由があるはずだ」と考える傾向が強く備わっているのだ。
そして、その心理的傾向は、実のところ38億年に及ぶ生命進化の過程を生き抜く中でヒト(およびその進化上の祖先)が獲得してきた特殊な能力なのである。
田渕直也. 「不確実性」超入門 (Japanese Edition) (p.83). Kindle 版.
予想をはるかに上回ったサブプライムローン危機
2つ目に注目した点は「第2章 フィードバックーー原因と結果の不釣り合いが直感を欺く」の「"予想外"を生むフィードバックのメカニズム」に書かれている「予想をはるかに上回ったサブプライムローン危機」です。
著者は「フィードバックのうち、自己増幅的なフィードバックはときに予想をはるかに超える事態を引き起こす。」と述べ、世界経済に大きな影響を与えたサブプライムローン危機を具体例としてあげています。
「サブプライムローン・バブルの崩壊によって引き起こされた一連の金融の大混乱は『リーマンショック』と呼ばれ、その経済的損失の推計はわずかな間に倍々ゲームのように膨らみ、最終的には最大で2.8兆ドル(280兆円)に達したともいわれる。」
この金融危機の直接の原因は、今みてきたようにサブプライムローン・バブルが崩壊したことにある。だが、サブプライムローン・バブルの崩壊がこれほどの危機を招くことを、バブルの崩壊が明らかになったパリバショックの時点においてすら誰も予測できなかった。原因の大きさと結果の大きさが、まったくリンクしていないのだ。
これもまた、自己増幅的フィードバックによって、結果が増幅されたことによって生まれた極端な結果のひとつと考えられるのである。
田渕直也. 「不確実性」超入門 (Japanese Edition) (p.131). Kindle 版.
予測への過度の依存
3つ目に注目した点は「第4章 人間の心理バイアスーー失敗はパターン化される」の「人はなぜ不確実性にうまく対処できないのか」に書かれている「予測への過度の依存」です。
著者は「人はとにかく予測を信じたがる。実際には、予測の多くは外れるのだが、そうしたことは人の記憶に残らず、次もまた相も変わらず新しい予測に飛びつくのだ。」と述べ、以下のように説明しています。
「さまざまな予測の中で、その時点での分析の鋭さや正確さを評価するのではなく、結果が出た後にその結果に最も近かった予測を後付けで持ち上げる。世の中でおこなわれているのはそういうことだ。」
「不確実性の効果を過小評価する人間という生き物は、その裏返しとして、予測の力を過大評価する。」
ここでは、ただ単に「予測は当たらないのだから無駄だ」ということを問題にしているのではない。予測をしたということによって、さまざまなバイアスが生まれ、そのこと自体が新たな失敗の要因となってしまうことを問題にしているのである。
田渕直也. 「不確実性」超入門 (Japanese Edition) (p.197). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
この本は『最高の教養 不確実性超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/2016年4月)を、文庫化にあたって110頁超の大幅加筆がされています。
加筆された内容は、「コロナショックは本当に予測できない事態だったのか」、「2016年・2020年の米国大統領選挙を通じて、何が予測でき、何が予測できないのかを検証する」、「コロナ・ラリーと呼ばれる株式相場の急回復の中で生じたある異変」といった、最近の事例を反映した内容になっています。
「はじめに」の冒頭で「不確実性ほど、『決定的に重要でありながら、驚くほどに理解されていない』というものはそうはない。」と著者は述べており、この言葉を読んで一気にこの本の内容にとても興味を持ち、最後まで何箇所もアンダーラインを引きながら読みました。
この本の中では不確実性を説明するために、とても多くの考え方や理論が引用されており、不確実性の奥の深さを感じました。たとえば、第1章のランダム性では、「ランダムは本当に予測できないのか」という問いについて、以下のような概念が引用されて説明されています。
- 「ラプラスの悪魔」と呼ばれる決定論: すべての事象は因果関係によって決定され、確率などというものは本当には存在しないという考え方
- 量子力学: 素粒子の将来の状態を現時点で特定することは原理的に不可能なので、決定論は成り立たない
このように各章では詳細な説明が書かれており難解な部分もあり深く理解を進めていくこともできると同時に、各章の終わりに「この章のまとめ」として重要なポイントも記載されているので、読み返して理解する上で助けになります。
明治維新など歴史の話から、行動経済学や群集心理、ルネッサンス・テクノロジーズというAIを使った企業まで登場し、不確実性という観点からとても幅広い領域を学べることがこの本の特徴となっています。
単行本からさらに充実した内容で安価な文庫本になっているので、多くの人に手にとって読んでもらいたい書籍だと感じました。
口コミ
書評記事
【書評】不確実性超入門 田渕直也:確率論と心理を結びつけたトレーダー必読の書 - アジアの時代。シンガポールREIT投資部
【読書感想】「最強の教養 不確実性超入門」。リスクは小さくして飲み込もう。 - G-log 日々思うこと
【書評】“予想外”に対処する力を知る『不確実性超入門』 | WORKPORT+
参考文献
この本の参考文献に記載されている本を紹介します。
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基本となる偶然やリスク全般について
リスク 上: 神々への反逆: ピーター・バーンスタイン(著)
不確実性の宝庫であるマーケット関連
ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版> 株式投資の不滅の真理: バートン・マルキール(著)
マーケットの魔術師 - 米トップトレーダーが語る成功の秘訣: ジャック・D・シュワッガー(著)
バブルや暴落など金融市場の大変動について
ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質: ナシーム・ニコラス・タレブ(著)
リーマン・ショック・コンフィデンシャル上 追いつめられた金融エリートたち: アンドリュー・ロス・ソーキン(著)
数学者や物理学者が席巻する金融先端分野について
ウォール街の物理学者: ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール(著)
最も賢い億万長者〈上〉――数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか:グレゴリー・ザッカーマン(著)
人間心理や行動経済学について
予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」: ダン・アリエリー(著)
ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?: ダニエル・カーネマン(著)
「みんなの意見」は案外正しい: ジェームズ・スロウィッキー(著)
量子力学や社会物理学について
量子力学の奥深くに隠されているもの: コペンハーゲン解釈から多世界理論へ: ショーン・キャロル(著)
人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動: マーク・ブキャナン(著)
その他
ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則: ジム・コリンズ(著)
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、を紹介しました。
書籍「『不確実性』超入門」は、現代社会を生きるすべての人にとっての必須の教養といえる「不確実性」の本質とそれに対処するための方法論を、リスクと向き合い続ける金融市場のプロが、明治維新などの歴史からバブル・コロナショックなど幅広い事例とともに解説している本です。
金融投資をこれから始める人やすでに始めている人だけでなく、家庭や仕事で意思決定を行っているすべての人に一読をおすすめします。
このブログサイトでは以下のような記事も配信しています。
本の目次(詳細版)
この本の目次(詳細版)を引用して紹介します。
- 文庫化にあたって
- はじめにーー不確実性との向き合い方が人生の長期的成功を決める
- 序章 コロナショックは予見できたのか
- 予言されていたパンデミック
- 予測できたはずのリスクになぜ対応できなかったのか
- 歴史に筋書きはない
- 第1章 ランダム性ーー予測不能性が人を惑わす
- 未来を予測することはそもそも可能なのか?
- 「ランダムである」とはどういうことか
- ランダムは本当に予測できないのか
- 結果の予測はできないが確率は見積もれる
- ランダム性に起因する不確実性に対処する方法
- 人はランダムにたやすく惑わされる
- 第2章 フィードバックーー原因と結果の不釣り合いが直感を欺く
- ランダム性では説明できないもうひとつの不確実性
- 何がファットテールを生むのか
- "予想外"を生むフィードバックのメカニズム
- 第3章 バブルーーなぜ「崩壊するまで見抜けない」のか
- バブルはこうして繰り返す
- 経済成長の持続力
- 予想外のデキゴトが生む葛藤とプレッシャー
- 第4章 人間の心理バイアスーー失敗はパターン化される
- 人の心理的反応
- 人はなぜ不確実性にうまく対処できないのか
- 失敗のパターン1:成功体験と自信過剰
- 失敗のパターン2:サンクコストと自己正当化
- 失敗のパターン3:希望的観測と神頼み
- 失敗のパターン4:異論の排除と意見の画一化
- 第5章 [CASE1]トランプ・ショックとトランプ・ラリーーー予想外が予想外を生む
- 「蓋を開けてみるまでわからない」はどこまで本当か
- 多数意見が正しくなるための条件
- 誰も予測できなかったトランプ・ラリー
- 勝負の分かれ目
- 第6章 [CASE2]コロナ・ラリーと常勝神話の崩壊ーーAIと不確実性
- 覆った"聖杯"伝説
- AIは不確実性を乗り越えられるのか
- イノベーションがもたらす新たな"予想外"
- 終章 人生を長期的成功へと導く思考法
- 予測に頼らないという新しい考え方
- 短期的な結果に振り回されない
- [巻末資料]より詳しく学ぶためのブックガイド