この本は人とコンピュータの協働作業が始まった「アルゴリズムの時代」において、アルゴリズムは人と共に働き、人の能力を伸ばし、人が犯すミスを正して、人が抱えている課題を解決するという、アルゴリズムと人の関係が書かれている本です。
アルゴリズムとは何か、人がアルゴリズムと協働してきた歴史、人とアルゴリズムの間で起きる問題、人とアルゴリズムが協働する未来の可能性について関心がある人(文系・理系問わず)におすすめの本です。
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、について紹介します。
本の概要
書誌情報
日本語版
原著(英語版)
著者 ハンナ・フライ(Hannah Fry)について
1984年、イギリス生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン高等空間解析センター准教授、数学者。
数理モデルで人間の行動パターンを解析する研究を行い、政府、警察、健康分析企業、スーパーマーケットなどとも協力している。
TEDトークで人気を集め、BBCやPBSのドキュメンタリーの司会も務める。
アダム・ラザフォードとのBBCの科学ポッドキャスト『The Curious Cases of Rutherford & Fry』は人気長寿番組になっている。
前著に『TEDブックス 恋愛を数学する』(朝日出版社、2017年邦訳刊)。
ハンナ・フライ(著)アルゴリズムの時代 より引用
Hannah Fryの公式サイト https://hannahfry.co.uk
著者が読者に伝えたいこと
著者はこの本の読者に伝えたいことを以下のように述べています。
アルゴリズムのおかげて、より良い社会になっているのだろうか?
どんなときでも、人の判断より機械の判断を優先させるべきなのか?
どんなときに機械に頼りたくなる気持ちを抑えるべきなのか?
その答えを見つけるために、アルゴリズムをこじ開けて、その限界を見極めよう。
そうして、人は自分自身を見つめて、己を知る。
利益と弊害を見定めて、私たちがどんな世界を望んでいるのかしっかり判断する。
未来は偶然の産物ではない。
未来を作るのは私たちなのだ。
ハンナ・フライ(著)アルゴリズムの時代:はじめに
本の目次
- 原題にまつわる覚書
- はじめに
- 1章 影響力とアルゴリズム
- 2章 データとアルゴリズム
- 3章 正義とアルゴリズム
- 4章 医療とアルゴリズム
- 5章 車とアルゴリズム
- 6章 犯罪とアルゴリズム
- 7章 芸術とアルゴリズム
- 結論 機械とともに生きる時代に
- 謝辞
- 訳者あとがき
- 参考文献
もっとくわしく見たい場合は、本の目次(詳細版)が記事の最後にあります。
注目点
この本を読んで注目した点を紹介します。
アルゴリズムの役割
そもそも「アルゴリズム」とは何でしょうか?
「アルゴリズムは簡単に言えば、ひとつの作業をどのように成し遂げるかを論理的に示した手順だ。」と著者は述べています。
著者はアルゴリズムが担っている役割によって大きく4つに分けています。
- 優先順位:順位を決める
- 例えば、グーグル検索はひとつの結果と別の結果を順位づけして、ユーザーが見たがっているサイトを予測する。
- 分類:カテゴリーに分ける
- 例えば、ユーチューブには自動的に分類をおこなって、不適切なコンテンツを排除するアルゴリズムが使われている。
- 関連:つながりを見つける
- 例えば、アマゾンのおすすめ機能のように、ある客が興味を示したものと、別の客が過去に興味を示したものという共通点を使う仕組み。
- フィルタリング:重要なものを選びだす
- 例えば、Siri、アレクサなどに使われている音声認識アルゴリズムは、言葉の解読に取りかかる前に、背後の雑音を排除し声を拾い上げる。
アルゴリズムの種類
大半のアルゴリズムはこの4つの役割を組み合わせて作られており、事実上無限にある選択肢から適切なものを選びだす方法には2種類がある、と著者は述べています。
- ルールに基づいたアルゴリズム
- 指示は人間が単刀直入かつ明確に出す。
- 長所:人間が指示を出すから、理解しやすい。
- 短所:人間が指示のしかたを知っている問題にしか使えない。
- 機械学習アルゴリズム
- 人間が明確に指示できない事柄に巧みに対処する。
- 長所:絵に描かれているものを認識したり、人が話す言葉を理解する。
- 短所:問題の解決方法をコンピュータが自力で見つけるので、解決までの道筋が人間には理解できないこともある。
人間のアルゴリズムに対する誤り
著者は人間のアルゴリズムに対する考え方の誤りを指摘しています。
- アルゴリズムがつねに人より正しい判断を下すと、多くの人が考えるようになっている。
- アルゴリズムに対して先入観を抱いていることにも、気づけなくなっている。
著者はこの本のさまざまな事例を通じて、人間がアルゴリズムとどのように付き合えば良いのかを考えさせてくれます。
正義とアルゴリズム
特に注目した「3章 正義とアルゴリズム」について要旨を紹介します。
著者はウィスコンシン州の裁判官が使っているCOMPASという再犯リスク評価アルゴリズムに関する研究を取り上げて説明しています。
- 使用されたアルゴリズムが再犯リスクを計算するための要素のひとつに、年齢を使っていた。
- アルゴリズムのミスの割合は、被告人が黒人でも白人でもほぼ変わらなかったが、人種によってミスの種類がちがっていた。
- 偏見のないアルゴリズムとはどんなものなのか?
- 残念ながら、ある種の公平は数学的に他の公平と両立不可能なのだ。
- 結果が偏るのは、現実が偏っているからだ。
裁判でアルゴリズムを使う場合に起こる課題をまとめて著者は以下のように述べています。
裁判で使われるアルゴリズムは、肌の色で人を判断することはないが、アメリカ社会に根強く残る不公平性から生じた現実を、判断基準のひとつにしているのはまちがいない。
すべての人種が同じ割合で逮捕されないかぎり、こういった偏りは数学的に避けて通れないのだ。
ハンナ・フライ. アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか (Japanese Edition) (p.96). Kindle 版.
では、もし司法制度でアルゴリズムの使用を禁じたらどうなるのか?について著者は様々な研究をもとに述べています。
- 社会的偏見や文化的偏見は、人が何かを判断するときにいつのまにか入り込む。
- 裁判官も人間で、他の人と同じように思いつきや好みからなかなか逃れられない。
- 裁判官が事件全体を総合的に考える頭の中のチェックリストに人種や性別、教育レベルに関する項目が含まれている。
- 裁判官もアンカリング効果から逃げられない。
- ウェーバーの法則によって、裁判官が決める刑期の長さに影響が出る。
- 裁判官は立て続けに似たような判決を下すのを避けるという結果が出ている。
著者は、アルゴリズムと人間の問題を踏まえて、アルゴリズムを裁判で使うときの考え方を以下のように述べています。
裁判で使うアルゴリズムを作るには、そもそも裁判がなんのためにあるのかをきちんと考えるべきだ。
何もせずに、うまくいくようにただ祈るだけではどうにもならない。
アルゴリズムに何をさせたいのかということ、そして、アルゴリズムにおぎなってもらいたい人間の欠点をはっきりさせるのだ。
法廷での判決の下し方については、賛否両論あるはずだ。
一朝一夕に解決できる事柄ではないが、最高のアルゴリズムを作れるかどうかはそこにかかっている。
ハンナ・フライ. アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか (Japanese Edition) (p.106). Kindle 版.
感想・口コミ・書評記事
感想
筆者は数学者でありアルゴリズムの専門家であるが、アルゴリズムと人間を対等に客観的に長所と短所を把握し、人間とアルゴリズムが協働する上での考え方を提示しているので分かりやすく参考になった。
各章において人とアルゴリズムの間で起きた出来事の歴史が、メディアや研究の参考文献をもとに記述されており、物語のように興味深く読むことができた。
人がアルゴリズムを誤って使い、ひどい目にあった人たちの話が数多く載っている。
例えば、2012年にアイダホ州の障害者が医療費補助が突然打ち切られた理由が、州の保険福祉局の予算管理ツール(スプレッドシート)が算出した数字がどう見ても不合理だったが、真相が明らかになるのに4年と4000人の原告による集団訴訟を要したことなど。
この予算管理ツールの内部を見たところ、使われたデータにはバグや間違いが山ほどあったそうだ。そのようなシステムを作ったことと、そのシステムを信頼して使っていたことには驚かされる。
遠く海外の10年前の事例で関係ないとも思えるが、必ずしもIT化が進んでいない日本では、もしかしたら身近でも似たようなことが起きるかもしれない、気をつけよう、と思った。
決定木やニューラルネットワークなど技術的な内容を専門家でなくても分かりやすく説明しており、アルゴリズムをブラックボックスとして信頼しないように、文系の人にも読んで欲しい本だ。
アルゴリズムやAIに詳しい人は、アルゴリズムを人間が使うとどのような誤りが起きる可能性があるのかが分かる本なので、特に実用的なアルゴリズムやシステムを開発・運用している人には読んで欲しい本だ。
筆者の公式サイトを見たところ、2021年9月に新刊が出版(日本語未翻訳)されているようだ。著者の今後の書籍出版も楽しみだ。
口コミ
書評記事
「アルゴリズムの時代」の書評・感想について紹介します。
【感想・ネタバレ】アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるかのレビュー - 漫画・無料試し読みなら、電子書籍ストア ブックライブ
「アルゴリズムの時代」書評 自分で選んだつもりが選ばされ|好書好日
アルゴリズムを闇雲に信じることがないように、その限界を認識する──『アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか』 - 基本読書
参考文献
「アルゴリズムの時代」に掲載されている参考文献の中から日本語で出版されている本や、著者についての情報を紹介します。
書籍
DEEP THINKING(ディープ・シンキング)人工知能の思考を読む:ガルリ・カスパロフ(著)
「1章 影響力とアルゴリズム」で、IBMが開発したチェス専用のスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」と対戦したガルリ・カスパロフとの話で引用されている。
TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか:レイチェル・ボッツマン(著)
「2章 データとアルゴリズム」で、1993年にイギリスのスーパーマーケット「テスコ」がポイントカードを発行し、販売記録を活用した話で引用されている。
「みんなの意見」は案外正しい:ジェームズ・スロウィッキー(著)
「3章 正義とアルゴリズム」で、「クイズ$ミリオネラ」の”観客に訊く”で大勢の見知らぬ人たちのほうが、あなたが知っているいちばん賢い人より正しい選択をする話で引用されている。
ファスト&スロー あなたの意志はどのように決まるか?:ダニエル・カーネマン(著)
「3章 正義とアルゴリズム」で、人が何かを考えるときに陥る大きな罠の一例として、ノーベル賞を受賞した経済学者で心理学者の本が引用されている。
マスターアルゴリズム 世界を再構築する「究極の機械学習」:ペドロ・ドミンゴス(著)
「4章 医療とアルゴリズム」で、画像内のがん細胞など何かを理解するアルゴリズムとして「ニューラルネットワーク」を使う話で引用されている。
異端の統計学ベイズ:シャロン・バーチュ・マグレイン(著)
「5章 車とアルゴリズム」で、車の自動運転を実現するために、歴史上もっとも多くの事例に応用されている「ベイズの定理」(証拠に基づいて、予測の信頼度を検討する系統的な方法)を使う話で引用されている。
ゲーテル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環:ダグラス・R. ホフスタッター(著)
「7章 芸術とアルゴリズム」で、1997年にオレゴン大学でアルゴリズムがバッハの曲を真似て作った曲を聞かせる実験コンサートを考案した認知科学者の本を引用している。
著者の情報
著者 ハンナ・フライのWeb記事
顔認識で「誤認逮捕」汚名晴れるまで1年超の悲劇 | インターネット | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
アルゴリズムが「バッハまねて作曲」意外な結果 | インターネット | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
ネットの検索結果が「投票」に及ぼす恐ろしい影響 | インターネット | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
恋愛を数学する(TEDブックス):ハンナ・フライ(著)
恋愛に潜むパターンを、数学が解き明かす。
あらゆる自然現象にルールがあるように、人間の恋愛もパターンに満ち溢れている。ならば、数学の出番。
恋人の見つけ方から、オンラインデートの戦略、結婚の決めどき、離婚を避ける技術まで、人類史上もっともミステリアスな対象=LOVEに、統計学やゲーム理論といった数理モデルを武器にして挑む。
イギリスBBCなどでアウトリーチ活動に励む数学者が、人生の一大事に役立つ驚くべき知見を引き出しつつ、「数学と恋愛する」楽しさをも伝える。
amazon.co.jpより引用
動画:TEDx 愛を語る数学:ハンナ・フライ
ふさわしいパートナーを見つけるのは簡単なことではありません―でも、数学的にはどうでしょうか? 数学者のハンナ・フライは、この魅力的な講演で、愛を求める私たちの姿に見られるパターンを解説し、運命の人に出会うための3つの秘訣(数学的裏付けあり!)を紹介します。
ted.comより引用
まとめ
本の概要、注目点、感想・口コミ・書評記事、参考文献、について紹介しました。
この本は人とコンピュータの協働作業が始まった「アルゴリズムの時代」において、アルゴリズムは人と共に働き、人の能力を伸ばし、人が犯すミスを正して、人が抱えている課題を解決するという、アルゴリズムと人の関係が書かれている本です。
アルゴリズムとは何か、人がアルゴリズムと協働してきた歴史、人とアルゴリズムの間で起きる問題、人とアルゴリズムが協働する未来の可能性について関心がある人(文系・理系問わず)におすすめの本です。
本の目次(詳細版)
この本の目次をくわしく引用して紹介します。
- 原題にまつわる覚書
- はじめに
- 1章 影響力とアルゴリズム
- チェス王者のコンピュータによる敗戦はアルゴリズム時代開幕の象徴となった。だがアルゴリズムとはそもそもなんなのか?我々はなぜそれを過度に信じたり、恐れたりするのか?その影響力を正しく知る必要がある
- 2章 データとアルゴリズム
- 買物データから「おすすめ」広告が表示されるのはもう日常だ。スーパーで始まった個人情報分析は、ネット閲覧記録やSNSのデータから人の行動を操るところまで来ている。アルゴリズムはデータで人を支配できるのか
- 3章 正義とアルゴリズム
- 人間の裁判官の判断には驚くほど一貫性がない。一方アルゴリズムは判定こそ下せないが、人間よりはるかに正確に再犯確率を予測する。だがそこには統計の性質による意外な罠も。機械は公正な裁判に貢献できるのか?
- 4章 医療とアルゴリズム
- スキャン画像から高精度でがん細胞を発見するアルゴリズムが開発された。あらゆる医療データベースを入力すれば、スーパー医療コンピュータも作れるだろうか。さまざまな試みは始まっているが、難題はまだまだ多い
- 5章 車とアルゴリズム
- 激しい開発競争で急速に進歩する自動運転車。「乗っているだけ」の未来はすぐそこに思える。しかし不意に危険な状況が訪れたら?突然運転を任されたら人は対応できるのか。何をどこまで機械に任せるべきだろうか
- 6章 犯罪とアルゴリズム
- 連続事件の地理プロファイリング、犯罪多発地域の予測。捜査アルゴリズムは時に警察官を圧倒する能力を発揮する。その反面、顔認証の誤認で無実の罪を着せられた人も。利益と不利益のバランスをどう保つべきなのか
- 7章 芸術とアルゴリズム
- アルゴリズムでヒット曲や映画は予測できるのか。そして、コンピュータがバッハ風の曲を作ったら?なんと聴衆は人間の曲と聴き分けられなかった。芸術とは何なのか。それでも人間の感情はやはり機械とは違うはず
- 結論 機械とともに生きる時代に
- 謝辞
- 訳者あとがき
- 参考文献